3話 ようこそ。
「それではエルピス魔法学園入学式を始めます♪」
講堂にヴォルドーと名乗った謎の男の声が響き渡る。
「皆さん、席に戻って下さい♪」
決して大きな声ではなかったが、その言葉はその場に居たすべての人間が「従わなければならない」という事を理解するには十分だった。先ほどまでここから出せと騒いでいた生徒達がゆっくりと席に戻って行く。全員もれなく顔が真っ青だったが、一人、また一人と席につくにつれて異常な空間が形成されていく。ステージ上には血で描かれた巨大な魔法陣。その中心に佇む仮面の男と動かぬ学園長。それを目の前にして席につく生徒たち。
「うん、いいですね皆さん♪話がスムーズで助かります♪」
ヴォルドーがステージからこちらを見回すと指をパチンと鳴らす。すると魔法陣を形成していた学園長の血液が学園長のもとに引き寄せられ姿を覆ったかと思えば、それがパンと破裂して遺体が跡形もなくなった。
「ステージの上は綺麗ではないと♪」
ヴォルドーが改まってこちらに言葉を投げかける。
「まあ皆さん私が名乗ったところで誰ですかって思ってますよね?さっきのいかにもなお爺さんが学園長なんじゃないのかって♪」
ヴォルドーが喋っている中ふとミラと目線が合う。
「ねえ……、ミラはあの人のこと知ってる?」
人間とはなんとも素晴らしいもので私たちはこの状況に次第に適応しつつあった。まったくもって喜ばしいことではないのだが。
「いや、全然知らないよ……。でもあんな大規模な魔法陣を自分が登場するためだけに使ってるってことは相当強い魔法使いなんだと思う。でもそれなら噂ぐらい出回ってそうだけど……。」
それもそうだ。これほど大きな力を持つ魔法使いならいくら田舎者の私やミラでも噂ぐらいは聞いたことがあるはずだけど。しかし周りを見渡す限り私たちの他にも心当たりのいそうな生徒は一人もいない様子だ。
ヴォルドーは続けて
「分かりやすく言うとですね、私がこの学園を占拠しました♪」
その一言にざわめきが広がる。
「占拠?他の先生達はどうなってるの?」
「こんな事やってただで済むと思ってるのか?絶対捕まるぞ!?」
「お母さん……、助けて……。」
この学園は国内の中でもトップクラスの教師たちによって教育が行われている。そんな学園が占拠されたというのか。この男一人に。
「この学園を占拠した目的♪皆さん知りたいですか?知りたいですよね?教えてあげましょう♪」
「この学園で最強の魔導兵を作り上げる。それが私の目的です。」
生徒たちが静まり返る。
「魔導兵……?」
「魔導兵ってあの……?」
【魔導兵】。それは遠い遠い昔。300年前に世界中で互いの国を滅ぼすために起きた大戦争。第一次魔導戦争と呼ばれているその戦いで魔法によって戦う者たちがそう呼ばれていた。戦争が終結した今では、魔法を兵器利用した最悪の例として世界の負の歴史として伝わっている。これは誰もが知っている常識。「あの歴史を絶対に繰り返してはいけない。」そう私たちは幼少期から教えられてきた。しかしヴォルドーは言った。「魔導兵を作る。」その言葉が意味することとは。
「私は危惧しているんですよ♪この国は少々平和ボケしすぎている♪」
ヴォルドーの仮面の口がへの字に曲がる。あれが悲しんでいる表情なのだろうか。
「何言ってるんだよ!戦争が起きたのだってもう300年も前の話だろう!」
「そうよ!それに今は世界中が平和で戦争なんて起きるはずがないってお母さんも言ってたわ!」
生徒たちから疑問の声が上がる。
「それに魔導兵だって……魔導兵の育成に関わった人達は全員戦争のあとに逮捕されたって……。」
魔導戦争のあと、魔法に対する規定が厳しく決められ、結果として当時の魔導兵育成の関係者達は軒並み逮捕、投獄されたと教わっている。
「こんなことしたらお前だって捕まるぞ!学園長を……殺して!」
一人が疑問をぶつけるとそれに続くように大勢が反論を始める。
「はい皆さんお静かに♪慌てなくても今から説明しますので♪」
ヴォルドーが手を振ると私たち生徒の手元に手帳ぐらいのサイズをした赤色の小さい本が出現した。騒いでいた生徒も突然の物体の出現に驚く。私はミラとともに手元に現れた手帳を見つめる。
「これ……生徒手帳?」
表紙には私の名前「ノア・アイフィール」の文字と1−1という数字。
「お気づきの生徒たちもちらほらいるようですね♪それが皆さんの生徒手帳になります♪それを使いながら説明するので生徒手帳の5ページ目を開いてください♪」
言われるがまま私たちはページをめくると眼の前に文字が浮かび上がってくる。
「先ほど言いました私の目的、「最強の魔導兵を作る」に関してですが、何も皆さんを洗脳しようだとかそんなことは考えていません♪ただ、ちょっと今年からこの学園では新しい教育プログラムを取り入れようと思っていまして♪まあ私の独断なんですけど♪ああ、あと学園生活中は学園外に出ることはできませんので悪しからず♪」
その言葉に反応したように一人の強気そうな男子生徒が声を上げる。
「おい!さっきから黙って聞いてればしれっと話進めやがって!こんなに大人数と連絡が取れなくなったらすぐに学園の外から助けが来るはずだろ!」
「そうよ……すぐにママ達が助けに来てくれるわ……!」
私の近くにいた女子生徒も希望の声を漏らす。
「うん♪いい質問ですね♪その点に関してですが……心配はいりません♪皆さんがこの学園に監禁されているという事実は学園外には絶対に漏れないので♪」
生徒たちの顔が疑問と絶望が入り混じったような顔になる。
「え……?どういうこと?」
私も無意識のうちに声を出してしまう。
「私これでも結構優秀な魔法使いなんですよ♪結界魔法なんかはお手の物っていうか♪」
ヴォルドーの周りに赤色の魔法陣が複数浮かぶ。
「嘘……!結界魔法って言ってもこんなに大規模なのは聞いたことないよ……!」
そう。結界魔法とは現代では通常、災害などが起きたときに救急隊や救助隊が被害者を守るためなどに使用される。しかし、この男の結界魔法は私たちをこの学園に監禁、更に学園外からの通信を全て遮断している。そんなのは……まるで……
「戦争用の魔法だよ⋯⋯!」
私と同じ結論にミラも行き着いたらしく口を押さえて青ざめている。
「現在この学園全域は私の結界魔法によって覆われています♪外部からの通信は遮断されており、もちろん学園外に出ることはできません♪皆さんはもう私に従うしか無い訳です♪親御さん達には「学習に集中させるため」とかで私からいい感じに説明しておくのでご心配なく♪」
怖い。どんどん外堀が埋められていく。
「いい質問が来たので説明が遅くなってしまいましたね♪それでは改めて説明を始めます♪皆さんには最強の魔導兵になってもらうために前年度から大幅に内容を変更した授業を受けてもらいます♪そんなに身構えなくてもただ魔法の授業が増えるだけですよ♪これは皆さん事前に私が学園長名義でお知らせしていましたよね♪」
魔法の授業が増えるという話は入学前にも聞いていた「魔術教育の活性化」と言われていたがどうやらあれはヴォルドーが流した真っ赤な嘘だったらしい。
「まあ、皆さんがそのお知らせを聞いたときからもうこの学園は私の手の上だった訳です♪受付をしてくれたりしていた他の先生方は私に脅されてただけなので、皆さんとても良い先生ですよ♪」
確かに言われてみれば先生達の様子が少しおかしかったように思える。緊張しすぎているのかなと深く考えては居なかった。
「加えて今年からこの学園では2ヶ月に1回私が特殊な実戦形式の試験を行います♪まあ便宜上「定期テスト」とでも言いましょうか♪」
手帳から浮かんでいた文字が変化して「定期テスト」と書かれた文字になる。
「このテストの内容は毎回変更する予定です♪それからここが大切なんですが⋯⋯、このテストはとても難しくする予定です♪それこそ⋯⋯死人が出るほど♪」
「⋯⋯え?死人⋯⋯?」
テストで死人が出る。何かの間違いではないだろうか。そう信じたい。そう信じたかった。
「ど⋯⋯どういうことだよ!テストで死人が出るって⋯⋯!
「どうと言われましても♪当然でしょう?魔導兵を育てるにはこれぐらいしないと♪」
「ど……どんなテストなんだよ!それって……!」
私たちの意見は一切聞かないと言った様子で話を続ける。
「私の教育方針は自主的な努力ですので♪皆さんテストで無事合格出来るように、そして死なないように♪勉強に励んで下さい♪それでは皆さん♪一旦説明は終わりですので生徒手帳に記載されているクラスに移動してくだい♪そこでさらに詳しい説明を行います♪」
ヴォルドーが一礼するとパンと弾けるように姿を消してしまった。
「⋯⋯⋯⋯。」
動かない。誰も。
(あ♪遅刻したら怒りますよ♪)
「!?」
突然頭の中にヴォルドーの声が響く。しかしヴォルドーの姿はない。
「ミラ⋯⋯、今の聞こえた?」
「うん……、頭の中に声が……。」
周りを見渡すと全員同じ様に声が聞こえたらしく周りをキョロキョロしている。しばらくすると一人、また一人と席を立ち講堂の出口へ向かう。先程はどれほど力を入れても動かなかった扉がギイと音を立てて開く。
「ミラ、私たちも行こう。」
「うん。そうだね⋯⋯。行かなかったら何されるかわかんないし⋯⋯。」
まだ顔色がうっすら悪いミラの手を取り扉へ向かう。
「なんか⋯⋯、すごいことになっちゃったね⋯⋯。」
ミラの手はまだ小刻みに震えている。私も今にも泣き出したい気分だ。だけど私がしっかりしないと。
「ノア⋯⋯、私たち⋯どうなっちゃうんだろう?」
ミラが目に涙を浮かべて問いかけてくる。
「わかんない⋯⋯。でもあいつは死なないように努力しろって言ってた。もうやるしか無いのかもしれない。この⋯⋯命を賭けた学園生活を。」
私たちの前にそびえる講堂の大きな扉が、こちらを飲み込もうとする怪物の口に思える。
「ミラ、一緒にいこう。」
震えるミラの手を引く。そして私たちは扉をくぐる。どこからともなくヴォルドーの声が聞こえる……。
「ようこそ。」
感想批評どんとこい、、、、




