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ガードナー・リビルド ~大手をクビになったおっさん整備士、無名チームと駆け上がる~  作者: ねこぱんだ
一章 ガードナーリビルダー

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第二十三話 終末

第二十三話 終末


 夜のうちに、世界中に情報が駆け巡る。


 亀裂の周囲が変わっていく様子は、宇宙からでも分かった。

 日本の上空を回っている衛星が、樹海に広がる黒いしみをハッキリととらえていた。


 壁の内側の色が、変わっていく。

 茶色から、赤や緑や黒へ。


 アメリカも、中国も、ロシアも、ヨーロッパの国々も、それぞれの監視衛星で、同じ映像を見ていた。


 各国の情報機関は、すぐに動いた。

 日本政府の短い発表だけでは足りない。

 数時間のうちに、日本で何が起きているのかという情報が、それぞれの国に集まっていた。


 そして、真夜中。

 どこからか、映像が漏れた。


 基地の監視カメラの映像らしかった。

 暗い画面の中で、白い照明に照らされた群れが、地面を埋めつくしていく。

 逃げる自衛隊員。

 つぶれるテント。

 ひっくり返る装甲車。


 映像はツイータに投稿されて、数分で何万回も見られた。


『これ本物?』


『フェイクだろ』


『音声ついてる。本物っぽい』


『日本、終わった』


 朝までに、映像は何百万回も再生された。

 消しても消しても、別の誰かが上げ直した。

 外国語の字幕がついて、世界中に広まった。


  ☆


 午前九時。


 東京証券取引所が、開いた。

 その瞬間、画面が真っ赤に染まった。


 売り注文が殺到して、買い注文が入らない。

 値段がつかない銘柄が続出した。

 日経平均は、開いて数秒で一割以上も下がった。

 サーキットブレーカーが発動して、取引が一時止まった。


 売られたのは、株だけではない。


 円が売られ、国債も売られた。

 外貨に替えようとする人が、世界中の市場に殺到した。


 銀行の前には、朝から人が並び始めた。

 コンビニの棚が、からになった。

 ガソリンスタンドの前に、車の長い列ができた。


 市場は、大混乱になった。


  ☆


 総理官邸の会議室では、閣議が続いていた。

 昨夜から続いていて、朝になっても結論は出なかった。

 テーブルの上には、冷めたコーヒーと、配られた資料が散らばっていた。

 誰の目の下にも、黒いくまができていた。


「空爆を行うべきです」


 最初にそう言ったのは、防衛大臣だった。


「あの群れを、上から叩くしかない。航空自衛隊の戦闘機で、亀裂のまわりを爆撃すれば、数を減らせます」


「待ってください」


 財務大臣が、手を上げた。


「樹海のすぐ近くには、町があります。爆撃で被害が広がったら、どうするんですか」


「避難指示は、すでに出ています」


「全員が逃げたわけじゃない」


「だからといって、ほうっておけば、もっと被害が出る」


 話は、すぐに言い合いになった。


「爆弾を落としても、あの数が相手では、減らせても、たかが知れています」


「やってみなければ分からない」


「アメリカ軍に協力を頼むべきでは」


「他の国に、日本の土地を爆撃させるのか!」


 そのとき、一人の大臣が、静かに手を上げた。

 国土交通大臣だった。


「ひとつだけ、心配があります。あの壁です」


 全員が、そちらを見た。


「高さ十メートル、厚さ二メートル。あの壁は、今、群れを外に出さないために、ぎりぎりでもっているのかもしれない。爆撃の衝撃で、壁にひびが入ったら、どうなりますか」


 誰も、すぐには答えなかった。


「壁が壊れれば、群れは樹海の外へ出ます。それだけは、避けなければなりません」


 長い沈黙のあと、総理が重い声で言った。


「空爆は、断念する」


 誰かが、小さく息を吐いた。


「では、どうするんだ」


「壁の上から、攻撃するしかありません」


 防衛大臣が言った。


「ガードナーを壁の上に並べる。上から撃てば壁に傷をつけずに、群れを減らせます」


「ガードナーは、昨日、五十体すべて失ったばかりだ」


「残った機体だけでは足りません。新しい機体も投入する。さらに、他のビルダーにも要請する必要があります」


  総理は、目を閉じた。

  しばらくして、口を開く。


「……分かった。その方向で進める」


 防衛大臣は、席を立って、部屋の隅でスマホを取り出した。

 ひとつの番号にかける。


「皐月社長ですか。防衛大臣です。至急、お願いしたいことがあります」


 電話の向こうの声は、落ち着いていた。


  ☆


 テレビは、どの局も、亀裂の話ばかりだった。


 朝の情報番組も、昼のワイドショーも、すべて特別番組に変わっていた。

 ネットに流れた映像を、そのまま使っている局もある。

 画面の端には、赤い文字が出ていた。


『日本終焉』


『終末が始まった』


『首都圏にも避難指示か』


「えー、ただいま入ってきた情報です」


 アナウンサーの声は、少しふるえていた。


「政府は、亀裂周辺の町まで避難指示を広げました。対象は、およそ……」


 原稿を持つ手が、止まった。


「失礼しました。続けます」


 スタジオのコメンテーターたちが、順番に口を開いた。


『これは、日本がこれまでに経験したことのない危機です』


『株式市場の暴落は、まだ始まりにすぎないでしょう。このまま群れが外に出てくれば、国の機能そのものが止まります』


『ただ、パニックは禁物です。落ち着いて行動してください』


 最後のコメントを言った男の顔も、青白かった。


 画面が切り替わって、市場の様子が映った。

 電光掲示板が、赤い数字ばかりで埋まっている。


『東京株式市場は、全面安となっています。円も売られ、国債も――』


 次の画面には、スーパーが映った。

 棚はからで、人が押し合っている。


 キャスターが、声を落とした。


『繰り返します。落ち着いて行動してください。ただし……』


 その先を、言わなかった。


  ☆


【緊急】樹海の亀裂、ガチでやばくね? 173本目


1:名無しさん

ついに来たな

ここだけは最後まで見届ける


2:名無しさん

日経、一割以上下がって取引止まったぞ


3:名無しさん

円も暴落してる

今日からドルで生きるわ


4:名無しさん

>>3

どうやって


5:名無しさん

>>4

知らん


6:名無しさん

映像見たか?

自衛隊一万人いたんだぞ

一晩で全滅ってマジなのか


7:名無しさん

基地の監視カメラの映像、本物っぽい

悲鳴の音声がリアルすぎて眠れない


8:名無しさん

壁の中にいたのが仇になったのか

閉じこめるはずの壁が、人間を閉じこめたんだな


9:名無しさん

>>8

最悪すぎる


10:名無しさん

コンビニ行ったら、水とカップ麺が全部なかった


11:名無しさん

>>10

俺んとこもだ。米も売り切れ


12:名無しさん

ガソリンスタンド、三キロ並んでるらしい


13:名無しさん

首都圏にも避難指示出るって話、本当か?


14:名無しさん

>>13

まだ公式には出てない

でも時間の問題じゃね


15:名無しさん

各国の大使館が、自国民に日本から出るよう呼びかけてるって


16:名無しさん

空港、人でごった返してるらしい


17:名無しさん

政府は何してんだよ

閣議が夜通し続いてるってニュースで言ってたぞ


18:名無しさん

空爆するかしないかで揉めてるらしい


19:名無しさん

壁が壊れるからやらない、って話も出てる


20:名無しさん

ガードナーで壁の上から撃つ案が有力だって


21:名無しさん

ガードナーって、昨日半分以上やられたやつだろ

大丈夫なのかよ


22:名無しさん

ガードナーで思い出したけど、桜華ちゃんは無事なのかな

昨日の突入で先頭にいたよな


23:名無しさん

>>22

無事に戻ったって情報、どこかで見た

信じたい


24:名無しさん

そういえば他のビルダーにも要請が来るって話あったよな

アークライトとかも出るのか


25:名無しさん

>>24

協会の決まりで断れないらしい

小山、また出番か


26:名無しさん

こんなときに言うのも変だけど、頼むから生き残ってくれ、日本


27:名無しさん

スレ番、173まで来たか

最初のころは、みんな笑ってたのにな

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