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ガードナー・リビルド ~大手をクビになったおっさん整備士、無名チームと駆け上がる~  作者: ねこぱんだ
一章 ガードナーリビルダー

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第十二話 その後のサツキネクサス

 シオンの脱退から三週間が経った。

 皐月ホールディングスの社長室では、修二が朝刊を広げていた。


 皐月修二は、まず経済欄に目を通すのが日課だった。

 コーヒーを一口飲みながら、自社の株価をチェックする。


「順調だな」


 株価は堅調に推移していた。

 先月からの上げ幅を確認し、修二は満足そうに頷く。


 ページをめくり、三十一面に差しかかったところで、修二の手が止まった。


『アークライトホライズン、事故現場を救助 謎の救援部隊の正体』


 小さな囲み記事だった。

 地方の無名企業が起こした話題として、片隅に載っているだけの扱いだ。

 修二は記事に目を通してから、鼻で笑った。


「相変わらず泥臭いことを。ご苦労なことだ」


 所詮、三流企業の美談に過ぎない。

 新聞を畳み、テーブルの端に置いた。


「失礼します」


 ノックの音とともに、秘書の女性が入ってきた。


「社長、本日のご予定です」


「ああ、聞こうか」


 秘書が手元の資料を読み上げていく。

 午前は役員会議、午後は取引先との打ち合わせが二件。

 今日も予定がぎっしり詰まっていた。


「以上になります」


「君。今夜、空いてるか」


 修二は資料を一瞥しながら、何気ない調子で尋ねた。


「はい」


「食事でもどうだ。この後、店を押さえておいてくれ」


「……かしこまりました」


 秘書は一瞬、間を置いてから頷いた。

 慣れた様子で手帳に書き込んでいる。

 修二はそれ以上、特に気にする様子もなく、次の資料に手を伸ばした。


  ☆


 午前の役員会議は、重苦しい空気で始まった。

 議題は、先日終了したガードナースポーツのシーズン総括だ。


「今期の結果についてですが」


 進行役の声が、会議室に響く。


「総合成績は二位でした。優勝は霜月レジデンス。僅差での敗退となりました」


 スクリーンに映し出された順位表を見て、役員たちの間に小さなざわめきが広がった。


「……二位、か」


「最近は優勝し続けていたはずでは」


 低い声でのやり取りが続く。

 その空気を断ち切るように、雄介が立ち上がった。


「皆さん、落ち込む必要はありません」


 にこやかな笑みを浮かべたまま、雄介が続けた。


「今シーズンは色々とイレギュラーが重なりました。主力の離脱もありましたし。来シーズンは、必ず取り返します」


「おっしゃる通りです」


「部長の話はいつも筋が通っている」


 役員たちが次々と頷いていく。

 それ以上、意見が出ることはなかった。


「これで議題は終了とさせていただきます」


 会議はいつも通り終わった。


  ☆


 会議室を出たところで、サツキネクサスのチーフが雄介に声をかけてきた。


「部長。少々よろしいでしょうか」


「何でしょう」


「桜華選手の件なんですが……。ここ数日、連絡が取れていません」


 チーフの表情には、隠しきれない不安が浮かんでいた。


「連絡がとれない?」


「はい。寮にも戻っていないようで、所在が確認できておりません」


「ああ、それなら問題ありません」


 雄介は、何でもないことのように答えた。


「出張しています。急な話だったので、連絡が行き届いていなかったんでしょう」


「出張……ですか。それは、どちらへ?」


「詳細はお話しできません。プライベートな部分もありますので。……あまり詮索しない方がいいかと」


「分かりました。失礼しました」


 チーフは釈然としない表情のまま、頭を下げて離れていった。

 その後ろ姿を見送ると、雄介は小さく息を吐いた。


「……せいせいする」


  ☆


 同じ頃、営業課のフロアでは、課長の怒鳴り声が響いていた。


「どうなってるんだ、これは!」


 机の上に叩きつけられた資料には、びっしりと数字が並んでいる。


「ガードナースポーツの成績が振るわなかったことに加えて、桜華選手が途中から出場しなくなったことで、スポンサー各社から問い合わせが殺到しています」


 部下の一人が、おずおずと報告する。


「問い合わせだけじゃ済んでないだろう!」


「はい。一部のスポンサー様からは、契約破棄の申し出が来ています」


「いくつだ」


「現時点で三社です」


 課長は額に手を当てて、深く息を吐いた。


「売上への影響は」


「前期比で三%減です。営業利益は十六%減……」


「十六パーセント……」


 課長はそのまま、椅子に崩れるように座り込んだ。


「どうすんだ、これ……」


 誰に向けた言葉でもなく、ただ天井に向かって吐き出されたような呟きだった。

 フロアの空気は、重く沈んだままだった。


  ☆


 訓練場では、チーフが選手たちを集めてミーティングを開いていた。


「今日は、皆に伝えておきたいことがある」


 チーフの声に、場の空気が緊張する。


「鳳来桜華選手はしばらく戻ってこない。長期の不在になる見込みだ」


「え……それって、どういう」


「詳しいことは、俺にも分からない。ただ、当面の編成は、鳳来選手と白銀選手抜きで考える必要がある」


「シオンもですか?」


「ああ。代わりに、新人を二名、登用することが決まった」


 その一言で、訓練場がざわめいた。


「桜華さんもシオンさんもいなくなるなんて……」


「新人でカバーできるのか、これ」


 選手たちの間から、不安げな声が次々と漏れる。

 チーフは何も言わず、選手たちの声を聞いていた。


「とにかく、決まったことだ。切り替えて、次に備えてくれ」


 それだけ言って、チーフはミーティングを締めくくった。


  ☆


 管制室に戻ったチーフは、モニターに映る練習風景を一人で眺めていた。


 新人たちの動きは、お世辞にも良いとは言えなかった。

 機体の基本操作すらおぼつかない。

 かつて桜華やシオンが見せていた動きとは、比較するのも酷なレベルだった。


「……これは、厳しいな」


 誰に言うでもなく、呟きが漏れた。


 画面の中で、ぎこちなく動くガードナーを見つめながら、チーフは次のシーズンのことを考えずにはいられなかった。

 このままでは、二位どころではなくなるかもしれない。


 重くなっていく気持ちを抱えたまま、チーフはしばらくの間、その場から動けずにいた。

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