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ガードナー・リビルド ~大手をクビになったおっさん整備士、無名チームと駆け上がる~  作者: ねこぱんだ
一章 ガードナーリビルダー

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第十話 捨てる神、拾う神

第十話 捨てる神、拾う神


 五人が揃ってから、二週間が経った。


 明日から、ついにガードナースポーツのシーズンが開幕する。

 俺たちアークライトホライズンにとっては、初めての公式出場だ。


「クラス分け、改めて確認するぞ」


 工場の事務所で、司さんが資料を配りながら言った。


「ウチはFクラス。サツキはSクラス」


「まさに天と地だな」


 大和田さんが苦笑した。

 クラス分けは実績に応じて決まる。

 前歴ゼロのアークライトが、Fクラスからのスタートになるのは当然だった。


「Fクラスの試合、会場はどこでしたっけ」


 真央さんが尋ねる。


「京都だ」


「京都って、結構遠くないですか」


「遠いな」


 司さんがあっさり頷いた。


「だから今日のうちに出発する。軽トラ五台、ガードナーを一体ずつ積んで走るぞ」


「五台……」


 俺は思わず声を漏らした。

 軽トラにガードナーを乗せて移動するなんて、サツキネクサスにいた頃は考えたこともなかった。

 あちらは専用の輸送トレーラーを何台も持っている。


「うちにはトレーラーなんて上等なもんはない。軽トラで十分だ」


 司さんは悪びれもせずそう言った。

 確かに、積めるなら積める。

 それでいいと言われれば、それまでだ。


「よし、積み込み始めるぞ」


「はい!」


 全員で手分けして、五体のガードナーをそれぞれの軽トラに固定していく。

 慣れない作業だったが、二週間の準備期間で、だいたいの手順は頭に入っていた。


 夕方前には積み込みが終わり、俺たちは工場を出発した。


  ☆


 高速に乗ってからは、しばらく順調だった。

 先頭を司さんの軽トラが走り、その後ろを霜山さんの車が続く。

 そのさらに後ろを、香織さん、俺、大和田さん、真央さんの軽トラが追っていた。

 車列は長かったが、思っていたよりスムーズに進んでいた。


 空が暗くなり始めた頃、無線から司さんの声が響いた。


『前方、事故発生の可能性あり』


「事故?」


 俺は前方を見た。

 遠くに赤い光が点滅しているのが見える。

 緊急車両のライトだった。


 近づくにつれて、状況が見えてきた。

 数台の車が絡んだ、かなり大きな事故らしい。

 ハザードランプが点滅し、道路の一部が塞がれている。


『……これは、ひどいな』


 司さんの無線越しの声が、低くなった。


『霜山、状況報告しろ』


『数台が絡んでます。負傷者もいるようです。救急車はまだ到着してません』


 司さんはしばらく黙っていた。

 それから、はっきりとした声で告げた。


『全員、ガードナー降ろすぞ』


「……は?」


 思わず声が出た。


「ガードナーで救助活動をするんですか?」


『他に方法がない。事故車の片付けも、交通整理も、人の手じゃ時間がかかりすぎる。ガードナーなら一体で何人分もの力が出せる』


 理屈は分かる。

 だが、まさかこんな使い方をするとは思わなかった。


「でも、大会は……」


『明日の話だ。今は目の前のことが先だ』


 その一言で、迷いが消えた。

 司さんの言う通りだった。


 俺たちは路肩に軽トラを停めて、急いでガードナーを降ろした。

 周囲にいた警察官や消防隊員が、最初は戸惑った様子を見せたが、状況を説明するとすぐに協力を求めてきた。


「あの車両、動かせますか」


「任せてください」


 司さんの機体が、横転した車の下に腕を差し込む。

 慎重に、だが確実に持ち上げていく。

 普段の訓練で培った繊細な操作が、こういう場面でも生きていた。


 俺は自分の機体の出力を抑えた。

 事故現場で無理に出力を上げれば、駆動系に負荷がかかる。

 こんなところで機体を壊すわけにはいかない。


「高吉、もっと出せるぞ」


「出せます。でも、今は必要ありません」


 香織さんと大和田さんは、散乱した破片の撤去と交通誘導を担当している。

 真央さんは無線でタイミングを調整しながら、全体の動きをまとめていた。


 夜が更けるにつれて、作業は進んでいった。

 消防隊が到着すると、俺たちは指示を受けながら作業を続けた。

 事故車を持ち上げるのは俺たち。

 その下から負傷者を救出するのは消防隊。

 役割を分けるだけで、作業の速度は一気に上がった。


「ありがとうございます。本当に助かりました」


 何度か礼を言われたが、俺たちは黙って作業を続けた。

 結局、現場の片付けが終わったのは、深夜をとっくに過ぎた頃だった。


「……これは、さすがに間に合わないな」


 機体から降りて、俺は腕時計を見た。

 受付の締め切りは、朝の九時だ。

 ここから京都までの距離を考えると、絶望的な時間だった。


「出られないのは分かってる。それでも、直接説明くらいはしよう」


 司さんの方針で、俺たちは再び軽トラに乗り込んで、京都へ向かった。


  ☆


 会場についた頃には、受付はとっくに締め切られていた。


「申し訳ございません。受付時間は過ぎております」


 運営スタッフの申し訳なさそうな顔を見て、俺たちは何も言えなかった。


「今シーズンの出場は、無理ですか」


 霜山さんが尋ねたが、返ってきたのは予想通りの答えだった。


「規定ですので。来シーズンの出場枠には優先的にご案内できますが」


 司さんは、それ以上食い下がらなかった。


「分かりました。お手数おかけしました」


 事務所を出ると、誰も言葉を発しなかった。

 初めての公式戦に出られなかった。

 それだけの事実が、重たくのしかかっていた。


 帰り道、コンビニに寄った時、俺はふと新聞のラックに目を留めた。


「……おい、これ」


 一面に、昨夜の事故現場の写真が載っていた。


『ガードナーが事故現場を救助 謎の救援部隊、その正体は?』


「俺たちじゃないか……」


 大和田さんが、信じられないという顔で記事を読み上げた。

 記事には、現場にいた警察官や目撃者のコメントも載っていた。


『現場にいた警察官の証言から、アークライトホライズンだと判明した』

『まさかガードナーがあんな使われ方をするとは』

『迅速な対応に救われた』といった言葉が並んでいる。


「……笑えるな、これ」


 司さんが、ふっと笑った。


「大会に出られなくて、代わりに新聞に載るとはな」


「俺たちらしいっちゃ、らしいですね」


 俺もつられて笑ってしまった。


「ほんとだよ」


 香織さんも、呆れたように笑っている。


 真央さんも、霜山さんも、気づけば全員が笑っていた。

 悔しさが消えたわけじゃない。

 それでも、この結果には、どこか納得できるものがあった。


  ☆


 軽トラの車列で、俺たちはようやくアークライトに戻ってきた。

 朝の光が、工場の錆びたトタン屋根を照らしている。


「……とりあえず、事務所戻るか」


 司さんがそう言って、俺たちは事務所に向かった。

 霜山さんがパソコンを立ち上げる。


「公式サイト、確認してみます」


 画面が開いた瞬間、霜山さんの手が止まった。


「……うわ」


「どうした?」


「これ、見てください」


 画面には、アークライトの公式サイトのコメント欄が表示されていた。

 普段は数件程度しかつかないコメント欄が、画面いっぱいに流れていた。


『昨日の事故現場、助けてくれたのここのチームだったんだ』


『カッコよすぎる』


『Fクラスとか関係ない、もう応援してる』


『本物のヒーローじゃん』


「……すごいな、これ」


 俺は思わず呟いた。


「メールも見てみろ」


 司さんの指示で、霜山さんが受信ボックスを開く。

 見慣れない企業名のメールが、いくつも並んでいた。


『一度、お話を伺えれば――』

『今後の活動について、ぜひ――』


「大手企業からの問い合わせです」


 霜山さんの声が、少し震えていた。

 事務所の中が、しんと静まり返った。


 それから、誰かが小さく笑い出した。

 それが連鎖するように、全員の笑い声に変わっていく。


「出場できなかったのに、これかよ」


 司さんが、肩を震わせながら笑っていた。


「俺たちらしい、って言うしかないですね」


 俺もそう言って、笑った。


 初めての公式戦には出られなかった。

 その代わり、俺たちの名前は全国に知られることになった。


「……明日から忙しくなりそうですね」


「だな」


 司さんも笑っていた。

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