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・04話



<O-286(紀元前490/489)年><初夏><イオニア(浦上)地方><エペソス(柔④)市の港にて>



 ――エペソス(柔④)市はアジアの陸道の終着点で、ここから西へはとても美しいエーゲ海が広がってます。この町も残念ながらペルシャ帝国に従属してますが、住民は我らが同胞・ヘラス(大和)民族の人々で、ここの港から船で真っすぐ西へ向えば、もう目をつむっててもヘラス(大和)本土や僕たちのアッティカ(長州)地方に着けます。――



    船乗り

「おーいー! 船が出るぞーい! おーいー! アッティカ(長州)行きの、船が出るぞーい!」



 ――けれど、キモン君はまだここでやる事があったので、帰国の船には乗らずもうしばらくこの町に留まることにしました。なにしろ僕たちは、アンペの町で調査した時に元ミレトス(柔①)市民の方々から言伝ことづてをたくさん預かってきましたので、この町やこの近くに住む彼らの親戚や友人たちに連絡をつけねばならなかったからです。


 キモン君としてはこの他に、『ミレトス(柔①)の跡地やディデュマ(浦神)の神殿が今どうなってるかも是非見ておきたい』と希望したのですが、そっち方面にはまだペルシャ軍が駐屯して警戒してるらしいとの事ですので、さすがに諦めることになりました。

 噂によると、ディデュマ(浦神)の神官たちはイオニア(浦上)反乱の時にいち早くペルシャ人に寝返ったり、敵に軍資金を提供したりなどしたため、イオニア(浦上)地方の人々にはかなり嫌われ治安も悪化してるという話なのです。

 それにそもそも、旧ミレトス(柔①)市領の町や平野の全ては、反乱鎮圧に功績を上げたペルシャ人たちに分け与えられたというのですから、上手く立ち回って破壊を免れたディデュマ(浦神)の神殿を除けば、きっと大した物は残ってないでしょう。



 それはともかく、陸とも海とも交通の便が良いエペソス(柔④)の港には、歴史家さんも家を構えてましたので、僕たちも安心して居候させてもらっていたという訳なのですが、するとそこへ、いかにも怪しげな男が訪ねて来たので、『ついにペルシャ人にバレてしまったのか!』と急いで逃げようとしたら、それは僕たちが知らないでも無い、とある男の来訪だったのです。――



    青年a-レオボテス

「よお、お二人さん、ようやく帰り着いたようだなあ」

    語り部-エウティッポス

「あれっ、君はレオボテス? なんでこんなとこに君が居るんだろう?」

    青年a-レオボテス

「知らねぇよ、キモンの家からの依頼だよ。『すぐ帰って来い』ってよ、『このドラ息子が』って話さ」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「へ?」

    青年a-レオボテス

「その前に、ちょいと紹介しとくぜ。この子が『どうしても連れてけ』って言うんでな。ほら、自分で名乗りなよ」

    少女-イソディケ

「コホン。これはこれはキモン君、ペルシャの都へはずいぶんな長旅だったようだね。一年近くもお留守にするなんて、僕が君の恋人なら寂しさの余り、浜辺に捨てられた鉄釘になるところだったんだぜ」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「へ?」

    青年a-レオボテス

「『さびし過ぎて、さびだらけ』ってこったろ」

    語り部-エウティッポス

「えっ、なにそれ? 誰かの有名な詩?」

    少女-イソディケ

「コホン。きっと君のことだから、どんなに疲れていても『へっちゃらだ』なんて強がるんだろうけれど、痩せたお腹をしていても『ぽっちゃりだ』なんて嘯くんだろうけれど、でも他でもないこの僕の前では安心して弱音の一つも吐いてもらっていいんだぜ」

    青年a-レオボテス

「という訳だ、キモン」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「あの、誰?」

    青年a-レオボテス

「おいおいキモン、ずいぶんつれねぇこと言ってやるじゃねぇかよ。イソディケだよ、イソディケっちだよ。忘れたとは言わさねぇぜ?」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「えっ、ディケちゃん? だって髪がずいぶん短くなってるから。それにその言葉遣い、全然違ってたから」

    少女-イソディケ

「コホン。相変わらず酷いことを言うなぁ、キモン君は。僕は君の一番の親友しんゆうじゃないか、そこらの珍優ちんゆうとは訳が違うんだぜ。たとえ君が忘れたとしても僕は決して忘れてやらないぞ」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「いやでも、悪いんだけど、僕の一番の親友はこのエウティッポスなんだよ? 申し訳ないんだけど……」

    青年a-レオボテス

「だからそれさ、鈍いにも程があるぜ、キモンさんよお。この娘っ子はお前さんに気に入られようと、お前の一番の親友とされる説もあるとかないとかのその『腰巾着野郎』の真似でもすりゃあ、お前と仲良くなれるんじゃねぇかって、それで覚悟決めて自慢の髪もばっさりやったという訳さ。普通ここまでやれねぇぜ? 短い髪の女なんで、今日日きょうび身分が低いか奴隷の証しみてぇなもんだからなぁ」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「いやでもそんな、だったらなおさらなんでそこまで?」

    青年a-レオボテス

「だからよぉ、少しでもお前に興味持ってもらいてぇって、そういう健気な女心じゃねぇか。で、お前が一番気に入ってるとかいう噂があったりなかったりするそこの『腰巾着野郎』に姿もそっくりになりゃあ、嫌でもお前の好意を得られるって考えて、そんでこの俺んとこに相談しに来たって、そういう訳よ。だから仕方ねぇから、髪型とか服装とか、この『腰巾着野郎』の口調や口癖なんかも事細かにぜ~んぶ教えてやったって、そういう寸法な訳よ」

    語り部-エウティッポス

「ちょっ、さっきからなに訳の解らないことを! 全然似てないじゃないか、なんだよあのおかしな『中二病』みたいなしゃべり方は! 僕はあんなんじゃ全然ないから、ねぇそうでしょう、キモン君?」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「う、うん、まあ、ちょっとだけ似てない、かな」

    語り部-エウティッポス

「いやいや、そんなちょっとどころじゃ無いでしょう!? だいたい、駄洒落ダジャレが好きなのはキモン君のほうだし、なに勝手に変な入れ知恵してるのさ、君は!」

    青年a-レオボテス

「やれやれ……」



 ――話の途中ですが、このガサツで慣れ慣れしい男はレオボテスと言って、僕たちと訓練兵時代の同期だったので嫌でも顔見知りになってしまった男です。


 「訓練兵」というのは十八歳になった男子に義務づけられてる兵役のようなもので、市民の息子たちはこうして二年間の訓練を受けることによって、二十才の一人前の市民としてポリスに正式に受け容れられるという制度のことです。


 それにしても、この男は最初の頃やたらキモン君に食って掛かってたくせに、卒業する頃には妙に馴れ馴れしくまとわりついてくるようになって、キモン君も僕も大いに迷惑してるのに全然気づきやしないのです。――



    青年a-レオボテス

「……るっせえなぁ、相変わらずお前は。アジアに長旅してきたって言うんで、ちょっとはマシになってるかと思いきや、中二どころかまだまだおこちゃまって感じだよな。だったら良かったじゃねぇかよ、実際のお前より多少は大人っぽい喋り方で真似してくれてるんだからよお、むしろ感謝して然るべきだと俺なんかは思うね」

    語り部-エウティッポス

「あ、アホか! 君に大人だとか子供だとか判断してもらいたくないよ! ねぇキモン君、笑ってないでなんとか言ってよ!」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「アハハハ、そうだな、笑ってる場合ではないよな。でもイソディケちゃん、君の気持ちは嬉しいんだけど、さすがに髪を切ってしまうとか大丈夫なのかい? 君の親御さんなんか、大騒ぎになってるんじゃないのかい?」

    少女-イソディケ

「コホン。それは大丈夫だよキモン君、僕は君のためならなんだって出来るんだ。たとえ親が反対しようと、僕は君に少しでも近づきたいんだ。どうか僕のこの清い真心を残らず汲み取って欲しいんだぜ」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「うん、それは解ったから。でも普通にそう言ってくれれば、それで受け入れられるからさ」

    少女-イソディケ

「コホン。それでは駄目なのさ、キモン君、君の家は今とても窮地に追い込まれている。君一人の力だけではどうしても切り抜けられないほどの窮地なんだ。だから君は、今すぐにでもこの僕と親しくなって、そして『結婚』を申し込まなくてはならないんだ」

    語り部-エウティッポス

「けっ、結婚!? さすがにそれは早い、早いよ!」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「アッハハハハハ、それはとてもありがたい申し出だけど、キモンはまだ二十才を超えたばかりだし、君だってたしかまだ十歳を超えたばかりだったよね? 仮に婚約するにしても、まだ十年近く先の約束になってしまうよ?

 それに真面目な話、君のお父さんがそんなことを許すかな? 毛利アルクメオン家の方々は、うちの父のことをとても嫌っているという話だから。なあレオボテス、そうなんだろう?」

    青年a-レオボテス

「まぁな、こうしてる間にも、あの家の連中は『救国の英雄・ミルティアデスのことをどう陥れたもんか』と、あれこれ企んでるだろうな。なんつーか、草むらに潜むヘビみてぇにいつでも噛み付く気まんまんなのさ」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「いやまぁ、それはさすがに言い過ぎなんだろうけど。でもたしかにうちの父さんも、『毛利アルクメオン家の娘と結婚したい』なんてキモンが言ったら、間髪入れずに『反対だ!』ってなりそうだからね」

    少女-イソディケ

「コホン。ならばそろそろ覚悟を決めて欲しい、キモン君。この僕は君のためだったら、この命だって投げ捨てる覚悟なんだぜ。もしそれを疑うなら、今直ぐこの身を纏うこの衣を剥ぎ取るが良い、この身の潔白を証明しようじゃないか。そして裸の僕を好きにするが良い、僕はそれを決して拒まないと君に約束しよう」

    語り部-エウティッポス

「うわ~、……」

    青年a-レオボテス

「という訳だ、キモン」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「……いや、これはさすがに冗談が過ぎるな。なあレオボテス、君がここまで連れて来たということは、君が彼女の保護者なのだろう? いい加減、彼女を止めるべきだぞ」

    青年a-レオボテス

「キモン、それが冗談じゃねぇんだよ。いいか良く聞け。お前がペルシャの都に行ってる間、アッティカ(長州)ではお前の親父さんの身にどえらいことが起きちまったんだ。パロス(下対馬)攻めの失敗を理由に、また『弾劾裁判』に訴えられちまったんだよ。つまりお前ら小早川ピライオス家は今、掛け値なしに相当ヤバい状況ってことだ」

    小早川ピライオス家の次男-キモン

「はっ?」


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