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「…まあ、マトモにライブできる訳がないよね…グダグダになっちゃって」
「でもま、ウケは良かったと思うわよ?主に初々しさみたいなところで」
「笑われてただけのような…」
「言ってしまえばそうね。その後が笑い事じゃなかったけれど…」
………
即席のライブ会場はそれなりに湧いていた。
イーオンの人間は、アイドルとしてのルーナを知っている者も多数おり、その者達が場を盛り上げてくれたおかげで、アエラの者も一緒になって盛り上がってくれるようになった。冷やかし半分ではあるが、ルーナはそれで充分だった。
だから、観客以外の、観客以上のことをしてくる、ちょっかいを出してくる者は計算外の余計だった。邪魔を、余計なことをしてくる者達は。
具体的に言えば、直接攻撃を仕掛けてくる輩がいたのだ。
「!」
ガァン!!と鉄を叩くような音。観客達が息を呑み、飛来した鉄杭をスコップで弾き飛ばしたソールと杭が飛来してきた方向を各々が見る。鉄杭は遥か後方のアーティファクトの山に突き立った。
三曲目のサビが虚しく流れる。調子に乗ってアンコールに応えた結果がこれだ。
ルーナさえ観客と同じ反応しかできないというのに、先程まで踊れない2、3曲目を何とかしようとしていたソールの涙目は様変わりし、明らかな敵意の目を混沌の山の向こうに向けていた。
スコップを視線の先へ向ける。
その先端に魔の炎が灯る。
山頂から続々と現れる襲撃者達に一歩も退かず、ソールは言葉を打ちつける。
「私に攻撃するのはまだいい。けど、ルーナちゃんに手を出すのは、許さない…!」
「ウチらの縄張り荒らしておいて、今度はアイドルごっことは。笑わせンな」
リーダー格の女が一歩踏み出したのが合図だった。
混沌極める乱戦が始まった。
………………
「急にバトル次元入られても困るのよね…」
「でもルーナちゃん『アイドルごっこ』って言われた時点でもう切れてたよね」
「………。だってごっこじゃないし」
「もうルーナちゃんてば可愛いんだから!」
「ちょっと撫でないで!ついでに話逸らすのもやめなさいよ!あの集団、結局何だったわけ!?」
「ま簡単に言うと悪徳ディガー集団ってとこかな」
「アンタ目付けられてたの?」
「うんまあそんなとこ」
「変に濁すのね…まあいいけど。じゃああの『パレード』とかいう集団にも目を付けられてた訳?」
「あれはたまたま乱入してきただけだよ。一番先頭にフード被った人が居たでしょ?あの人だけで『パレード』って呼ぶみたい。たまに掘ってて見るけど、巻き込まれないように避けてたんだよね」
「あれのせいで騒ぎが二倍になったといっても過言じゃないわよ…ま、そのおかげで大っきなスポンサーがついてくれたんだけど」
………………
戦の残り香漂う緩衝地帯の一角。
ルーナとソールは肩を貸し合い退避していた。
二人はなんとか、突発的に始まった乱戦を生き残ったのだ。
あの後、ライブで盛り上がっていた観客達が勢いそのままに悪徳ディガー集団と真っ向にぶつかり、ちょっとしてから『パレード』まで乱入したおかげで、誰も居なくともカオスな緩衝地帯を、更にカオスな場へと陥れることになった。簡単に言えばめちゃくちゃだった。
だが、その様子を双眼鏡で伺い見ていた男がいた。
その上質そうなジャケットを着た男は、満身創痍の彼女ら二人の前に現れ、こう提案したのだった。
『私の船でライブをしないかい?』
飛行船スタンドダウン号船長、その人だった。
………………
「見たところお金持ちだったけど、もっと集客をしないと流石に採算が合わなくなるんだって言ってたよね」
「パレードをスカウトしようと探していたら偶然、ってなんかついでみたいでちょっと気になるけど、贅沢言ってられないわ……」
「懸賞金もかなり掛けてたらしいね、未だ捕まらないみたいだけれど」
「って言うか、ホントはすっごく贅沢よね、これ。どんだけ運が良かったのか、隕石でも降るんじゃないかって今でも思ってるわ」
「幸運のしっぺ返しが怖いからって、また引きこもったりしちゃダメだぞー?」
「あっ今それを言うか!ソールううう!!」
「痛い痛いつねらないで!ごめんねって、ルーナちゃんが可愛いからつい…って痛い!」
「適当なこと言わないでオムニスに痛覚はないわよ!」