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保育園編その4

 今僕には物凄い不満がいくつかある。


 まず1つ。

 真宮寺家主催のパーティーが年に数回しか無い事。


 1つ。

 愛実ちゃんが必ずしも参加している訳では無い事。


 最後に、愛実ちゃんと2歳も年が違う事!


 ああもう、どれも仕方ない事だって分かっているのだけど、でも不満に思ってしまうのは仕方ないよね!

 真宮寺家だってパーティーばかり開ける訳でもないし、そのパーティーの趣向だって毎回違うわけだし。

 何か愛実ちゃんや僕が参加したあのパーティーは次男さんの誕生日だとかで、後はあのクソガキの誕生日でしか……つまり今のまんまだと2回しか会えない訳だ。

 せめて長男さんがいれば後1回会えるのだろうけど、現在留学中だとか。

 流石お金持ち! ……別に国内でも良いじゃんかよー。


「へー、よほどご執心のようね」


 と、愚痴を全力でタカ兄にぶつけていたら、興味深そうにそう返される。

 聞き流されるかと思ってたら意外。

 いや、ちゃんと聞いてくれて嬉しいけど。


「そうそう、南 愛実ちゃんって言う――」


「今なんつった!!」


 愛実ちゃんの名前を口にすれば血相を変えて叫ぶタカ兄。

 うるさい。


「ちょっ、急にどうしたのさ?」


「どうしたもこうしたも、あんたその名前聞いても何も思い出さないの!?」


 は? ほんと急にどうしたの?

 慌てふためくタカ兄を見て、なんだか冷静になって行く僕。

 とりあえずタカ兄落ち着こうよ。


「いや、別に何も思い出さないけど、何で?」


「何でって……トリガーはこれじゃないって事?」


 と思ったら今度は悩み始めたぞ。

 ほんと意味不明。


「もー、何かあるなら言ったら良いじゃん。

 分かんないよ」


 何かタカ兄から言うかなーって待ってたら、しばらく無言で考えていたので痺れを切らしてそう文句を言う。

 ったく、怒るよ?


「あー、ごめんなさい。

 えっと……そのね。……そう! 愛実ちゃんと会いたくない?」


 はっきり言ってわざとらしかったのだけど、つい会いたい! って叫んでしまう僕。

 恋する男は辛いのだ。


「じゃぁ後1年半くらいの辛抱じゃない。

 同じ小学校に行けたら会おうと思えば会えるのだし。

 って、まー坊ってどこ小学校行くのかしら?」


「……知る訳ないよ。

 あーもう。タカ兄つかえねー」


 何だよー、妙案でもあるのかと思っちゃったじゃないか煩わしい。

 ぶーたれる僕に苦笑いを浮かべつつ、まるで子供をあやすように口を開くタカ兄。


「しょうがないじゃない。今の状況で運に頼る以外方法ないでしょ?

 まぁ、どこ小学校に行くかだけでも聞いてみたら?」


「……それ結構勇気いるよね。

 いや、聞くけどさ」


 愛実ちゃんがどこ小学校に行っているのか知らないけど、もし万が一僕が行く事になる小学校が別だと知れたら、上がるまでの淡い期待すら出来なくなると言うデメリットがある訳だ。

 ただ、もし同じ小学校に行けると知れれば、それを楽しみに頑張れると言うメリットもある。

 結果は聞こうが聞くまいが同じだろうけど……、ええい、男は度胸だ。帰ったら親父に聞こう。


「どこ小学校に行く事になるか、分かったら教えなさいよ」


「うん、分かったー」


 あ、話半分で答えちゃった。

 でも、別にどこ小学校に行くか言うくらい何でもないか。

 何か企んでる風に微笑んでるけど……どうせ口割らないんだし、気にしないでおこう。





「ねぇ、親父。

 僕ってどこ小学校行く事になるの?」


 夕食後、お母さんに膝枕をされてご満悦な親父に、わざとそのタイミングで聞きに行く。

 へへん、その幸せな時間をもっと満喫したいならさっさと追い払いたいだろうし、ならばお母さんの居る手前素直に答えるのが1番の早道だからな。

 ったく、お母さんが側に居ない時だと露骨に話そらしたり変えたり、酷い時にはどっか行くんだもんなぁ。

 流石に学習したんだぜ!


「あー、急にどうした?」


 物凄く面倒くさそうに言う親父。

 と、母さんが悲しそうな顔をしたのをすぐに察知して真面目な顔を取り繕いやがった。

 ほんとお母さん至上主義者め。


「えっとね、愛実ちゃんと同じ小学校だったら良いなーって思って」


「まま、そうね。

 愛ちゃんと同じ小学校なら素敵ね。

 愛ちゃんママとももっと仲良くなりたいし」


 あら? 何かお母さん同士で交流あるみたいだな。

 なんて思っていると、キリッとした顔つきでお母さんへと顔を向ける親父。

 ……いや、おい。質問してんの僕だぞ?


「はははは、雄星は愛実ちゃんと同じ小学校だよ」


「ままま、それは素敵だわ」


 ドヤ顔する親父と、物凄く嬉しそうなお母さん。

 うん、目の前で漫才されていていつもなら呆れて見るのだけど。

 くそ、飛び上がりたい。嬉しい! 今絶対にやけてる。

 うん、とりあえず2人の世界になりそうだし、僕は自分の部屋に行って1人で喜ぼう。


 予想どうり2人の世界に入る親父とお母さんをその場に残し、自分の部屋へと足早に向かう。


「嬉しい、嬉しい!

 愛実ちゃん! 毎日会える!

 嬉しい!」


 あ、気付いたら口から声が漏れてる。

 慌てて塞ぎ、自分の部屋へと飛び込む。


 それからはもう、奇声を上げたり飛び跳ねたり。

 しばらくしたらどんなに恥ずかしい事していたか気付いて、恥ずかしさのあまり毛布に包まって悶えたたのだけど、やっぱり嬉しい。


 いやー、良かったー。

 それじゃぁ、小学校に上がったら毎日会えるんだ!


「おい、感謝しろよ」


 毛布に包まったままニヤニヤしていると、突然親父の声が降って来る。

 慌てて毛布から飛び出し、親父をベッドの上から見上げる。


「どう言う事?」


「そりゃぁお前本来は全然違う小学校だったって事だ。

 まぁ、あいつが喜ぶならこのくらいお安い御用だが……それが無けりゃお前に課題出すつもりだったからな」


 偉そうに言う親父。

 つまりだ――。


「お母さんに感謝しろって事だね!」


 言い放ちにやりと口元を歪める。

 きょとんとした表情を浮かべた親父に、してやったりと内心でガッツポーズをしたり。


「……くははは、今回は及第点にしといてやるか。

 ったく、可愛くねーガキ」


 そんな事を言いながらも嬉しそうな親父。

 へへん、僕だっていつもかつも負けっぱなしじゃないんだぞ!

 ……最終兵器のお陰以外何も物でもないのだけど、いずれ独力でこの親父をぎゃふんと言わせたいな。


 去り行く親父にそんな事を思いつつ、でも、今はそれよりも後1年半くらいで愛実ちゃんと毎日会えるようになる未来へと思いを馳せるのだった。





「なるほど、南 愛実と同じ小学校ねー」


 なにやら難しそうな顔をするタカ兄。

 小さいうちからそんなに悩んでると禿るよ?

 まぁ、僕にとって見ればどうでもいいけど。


「そうなんだ。

 いやー、もうね、世界が輝いて見えるね!」


「……この御調子者」


 浮かれている僕に苦笑いを浮かべるタカ兄。

 なんだよー、仕方ないじゃないかー。

 だって今は全然会えないのに、会えるようになるんだよ?

 毎日ハッピーになれるんだよ!

 そりゃぁ浮かれても仕方ないよね。


 ……まぁ、浮かれすぎて先生達に心配されるわ皆に気味悪がられたりしたけど。

 し、仕方ないよね!

 ……うん、1日で気付けて良かった。

 今度からちゃんと家でだけ浮かれていよう。


 そんな決心をしつつ、確か次に愛実ちゃんと会えるのは2ヵ月後のクソガキの誕生パーティーだったよなと思いを馳せる。

 この嬉しくて仕方ない気持ちほどじゃないにしても、少しだけでも愛実ちゃんも同じ小学校に通う事を喜んでくれると嬉しいなと、そう強く思った。

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