保育園編その3
愛実ちゃんとあっちこっちへと移動し、ご飯を一緒に食べたりジュースを飲んだりと、パーティーを最大限に楽しむ。
途中色々スピーチとかあったりしたのだけど、こそこそと奥の方へと移動して小声でお喋りしたり。
どうしよう、滅茶苦茶楽しい!
愛美ちゃんも僕といて楽しんでくれているのか、始終ニコニコ顔で、それもまた凄く嬉しい。
「ねー、愛美ちゃん、あっちのデザート美味しそうだよー」
「あっ、本当」
しかも、割りと食べ物の好みも似てたみたいで、これも嬉しい。
同じ喜びを分かち合えるからね!
……いや、でも別々の物が好きでも、お互いに分け合って食べられるねってなりそう。
うん、結局は愛美ちゃんと居るのが重要なんだなー。
と、仲良く手を繋いで移動中そんな事を思ってみたり。
あー、もう、好きって気付いたら想いって加速するんだな。
子供だからってこりゃぁ絶対馬鹿にできないよ。
永遠だとかそんなもの分からないけど、今の気持ちが確かにあるんだって、それだけは言えるんだから。
「おぉー、このケーキ大きいねー」
「ねー」
2人で目を輝かせてそびえ立つチョコレートケーキを見上げる。
と、一瞬確かにそれに目を奪われてしまったのだけど、やっぱり愛実ちゃんの方が僕は気になる訳で盗み見ようとすれば――愛美ちゃんも丁度こちらを向いてくれて、ふと恥ずかしくなったのだけど、それ以上にシンパシーを感じてより嬉しくなっていく。
「おい、愛実! いい加減俺の物になれよ」
突然幸せをぶち壊す甲高い声。
その質だけを聞けば物凄く聞き取りやすいようにも思えたかも知れないのだけど……よく通る声だからこそななおさら内容が耳に入ってきて、ただただ不愉快な思いが湧き上がる。
「あ? 何だその男は。
お前俺と言うものがありながらアバズレなのか?」
このクソガキは何ほざいてやがる?
見てくれはなるほど、天使が現世に現れたと言って差し支えない程の容姿なのかもしれない。
が、中身は其の辺の子供に劣る!
いや、本来劣るだの優れているだの考えないのだが、あまりに不愉快すぎてそう思ってしまった。
そう言えば去年挨拶した3男坊だったっけかクソガキめ。
ああ、ダメだ、頭が沸騰して考えがまとまらない、先ずは落ち着かなきゃ。
怒りのあまり空回っていると自覚した僕は深呼吸をする。
と、先に愛美ちゃんが溜息を吐き出しつつ口を開いた。
「雅也。何度も言っているけど私は物じゃない……ですし、けなされたのに突然好きだとか言われても困ります」
「だから、それはお前があまりに綺麗過ぎたからだって何度言えば良いんだ?」
「その答えは既に伝えたとおり、お母さんから選んでもらった服を貶されて嬉しくないからですし。
えっと……その……」
感情的な雅也と呼ばれたクソガキ……とは言え確かこいつ僕より2歳年上だから、クソガキ扱いするのはおかしい……と言う事もないのかな?
っとまだまだ考えがそれるな。
集中集中っと。
そんなクソガキとは対照的に、淡々と慣れたように答えていた愛美ちゃん。
愛実ちゃんがこんなやり取り初めてなら冷静でいられる姿を想像出来なくて……だとすれば、ここまで慣れるほど繰り返されると思えばまた頭に血が上ってくる。
うぅー、流石僕も子供と言うか……いや、愛実ちゃん絡みだからこそだろう、冷静でいられない。
「お兄ちゃんは誰なの?」
おぉ、クソガキじゃなくお兄ちゃんと呼べた自分を褒めてやりたい。
「あ? 何だクソガキ。そんな事も知らねーのかよ」
知るかよばーかばーか!
はっ、ダメダメ、こいつと同レベルなんかなるもんか。
「クソガキじゃないもん。
と言うか、自己紹介すら出来ない人なんて知らないよ」
よし、睨みつけ返してやったぜ。
向こうが尚更ムッとした表情になったけど、知るもんか。
「何だクソガキ。バーカバーカ」
うわぁ、僕こいつと同レベルなんて嫌だ。
でも、口を開くと絶対似たような事しか言えないし……。
と、いつからか愛実ちゃんが僕の手を引っ張っていた事に気が付く。
何て事だ。こんなどうでもいい奴い夢中になって最も大事な人のアピールを見逃していたなんて。
ともかく、1つ深呼吸をついて愛美ちゃんに素直に引かれていく。
「ああ? 逃げんのか弱虫ったぁ!」
ゴツンっと何かを殴るような音が聞こえて吃驚して振り返れば、物凄いイケメンさんがクソガキを睨みつけていた。
「雅也! お前どこでそんな汚い言葉覚えたんだ!
それに、自分よりも小さい子に何て事をしているんだ!」
物凄い形相で叱り飛ばした後、すぐに済まなそうな顔で僕の方へと向くイケメンさん。
「うちの子が済まなかったね。
申し訳ない」
と、イケメンさんが頭を下げると衝撃から復帰したのか大声で泣き出すクソガキ。
だからだろう、僕が何かを言う前にもう1度ごめんなとだけ口にしてクソガキを抱いて去って行くイケメンさん。
多分お父さんっぽいけど……厳しい中に優しさを感じられて……なんであんなクソガキに育ってんのかね?
ともかく、クソガキはガキだし、僕だってもっとガキなんだから色々しゃーないかと思う事にした。
そこそこの騒ぎにはなっちゃったのだけど、イケメンさんがスマートに謝罪し回って事を収めた模様。
うん、何だろう、やっぱりこの人に免じて次はちゃんと大人な対応しようとは思う。
思うだけで、今回みたいな流れになると感情を制御出来るかやっぱり自信ないけど。
ってか、どんだけ愛美ちゃんが好きなのやら。
一瞬で頭に血が上って思考も何もかも物凄く狭くなっちゃってたもんなー。
「えっとね……怒ってくれてありがとう」
と、何とか静かな場所まで避難した後、モジモジしながらもそう口にしてくれる愛美ちゃん。
多分怖かったとか、他に色々言いたい事はあったのだろうけど……ありがとうと言われて胸が熱くなる。
「ううん、僕こそ愛美ちゃんが困ってたのにごめんなさい。
でもね、僕愛美ちゃんが好きだからあんな酷い事我慢出来なかったの」
好きだと口にするまでは凄く緊張したのだけど、男は度胸だと開き直れば案外スラスラと口から溢れる。
うん、こんな事に嘘ついても仕方ないもんね。
っと、息を飲んで黙り込む愛美ちゃん。
……どうしよう、凄く不安になってきた。
誤魔化そうかな? なんて沈黙に耐え切れず思い始めた時、やっと笑みを浮かべて愛実ちゃんが再起動してくれて――僕の方へ近づいて、それに反応出来ずにいる僕の視界一杯に愛美ちゃんの顔が――。
「えへへ。私もゆう君の事だーい好き」
柔らかい物が触れたほっぺに手を当てつつ、どこか恥ずかしそうにしながらもはっきりと言ってくれる愛美ちゃんに見惚れる。
ああ、どうしても口が歪む。
ええい、格好つかないなー。でも、この、言葉に出来ない嬉しさと喜びと幸福感に……抗うなんて無理だよ。
「僕も、とってもとっても、とおぉーっても大好きだよ」
だから、少しでもこの思いが伝わるように大げさにリアクションしながら言って、そのまま愛美ちゃんに抱き付く。
……うわぁ、抱きついちゃった! えっと……ここからどうしよう!?
と、照れて俯く愛実ちゃんが、私ももっともっともっともぉぉぉぉっと大好きだもんって。
どうしよう、滅茶苦茶可愛い!
うわー、うわーうわーうわー。もう言葉が出ないよー。
そのまましばらく2人で抱き付き合い、何とか心が落ち着いてきた後は色々お喋りに花を咲かせるのだった。
うん、だーい好きだからね!




