06話
朝、いつものように私が朝食とお弁当を作る。お弁当と言っても、朝食の残ったおかずだけど。定番のおかずだけど。卵焼きとかミートボールとか鮭とか、たまにタコさんウインナーも作ったりする。
「おはよう」
「あ、おはよー。今日はのんびりだね、仁君」
「鷹臣はまだ寝てるけどな」
「…一応、まだ学校なんだけどなあ」
お弁当箱にいんげんのゴマ和えを入れる。うまそ。寝起きの仁君は、コーヒーメーカーをセットしたあと、顔を洗いに洗面所に向かった。隙間にタコさんウインナーを詰めて、後は冷ますだけ。
「お腹すいた」
「壱羽、今日の朝メシは?」
「和食。ご飯、ワカメと豆腐の味噌汁、かぼちゃの煮物、塩さばを焼いたやつ」
「今日も美味そう。鷹臣、起こしてくるわ」
机に並べたほかほかの白米とふわふわのさばたち。お腹がすいた。本当にヤバい。空腹だ。グゥと鳴るお腹。仁君はそんな私を見かねてか、鷹臣君を起こしに行ってくれた。
冷えた麦茶を注いで、椅子に座った。早く早く早く、食べたい。おかずの端々を摘まみながら作ったんだけどなあ。
「はよ」
「ん、おはよ。早く顔を洗ってきて」
「へーへ」
鷹臣君は睡眠だけは、驚くほど貪欲だ。その上寝汚い。寝たら何時間でも寝るだろう。バイトが立て続けに入っていた頃は、半日寝入っていた覚えがある。
「ーーさて、いただきます」
「いただきます。壱羽、醤油取って」
「ん」
「仁、次貸して」
「ほいよ。んで、今日は三人で朝から向こうだろ」
「そうだ」
「1日丸っと、なの?」
朝ごはんの時は、今日1日のスケジュールを教えあう。それによって、夕飯当番と掃除当番とかが決まる。といっても、掃除は私が殆どしているようなものだ。夕飯は仁君がメインで、私は時々交代って感じ。
「1日丸っとだな。多分、壱羽はパンクするだろうし」
「パンクするってどんなバイトだよ」
「多分というか、絶対にビックリする」
だから、どんなバイトだよ。
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まず、送迎車があったことにビックリした。お前ら、一体何様だよ。車のなかで呟いたら、運転手が驚きのあまり急ブレーキを踏んだ。
「なんだよ、総隊長執務室って。なんだよ、総隊長って」
「俺は副隊長ね。総隊長の補佐してる」
「なんだよ、お前ら」
部屋の前を通る人たちが私を見ていく。一度見て、私の言葉を聞いて、二度見る。振り返ってまで見なくていーよ。偉いのか、コイツ等の方が。そのナンタラ執務室とやらに入れば、いくつものペーパータワーがあった。
それを見た瞬間、仁君が呻いて天井を仰いだ。仁君の仕事らしい。肩書きがある分、大変なんだな。そりゃ朝から晩まで仕事になるよなあ。いやちょっと待て、何納得してるんだ私は。
「ーーやっぱり、なんだよ、お前ら」
「パンクしてるな、イチ」
「そりゃパンクするよ」
「イチ」
「なあに」
「此処は国家組織、狩人と呼ばれる組織の本部だ。狩人は、特殊な力を持った人間たちで構成されていて、特殊能力保持者の犯罪者や、反政府の取り締まり、要人の警護なんかもしている」
「…は?」
イチ、と呼ぶ仁君と鷹臣君。ごめん、何言ってるのか、わからない。理解が追い付かなくて、言葉が出てこない。特殊な力を持った人間?ん?は?
「例えば、だ。仁」
「へーへ」
ふわりと風が吹いて、私の髪が風に浚われる。仁君がにやりと笑って、その風の仕業が仁君だと悟った。そして鷹臣君を見やれば、手のひらに氷の兎を作っていた。
「…なに、それ」
「怖いか?」
「いや、ときめいた所。ときめいたんだけど、頭が追い付かない」
「ときめいたのは予想外だが、まあイチだしな」
「えー、で、それが何なの?」
「お前も此処に所属する」
「は?」
鷹臣君の藍色の瞳がマジだった。冗談を言っている風でもなく、ただマジで本気。重複するけど、マジで本気。
夜神壱羽。
なんだか面倒くさいことに足を突っ込んだかもしれない。




