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05話

私の食欲、一体どうしたって言うんだ。仁君や鷹臣君が少食に思えてしまうぐらい、私の食欲は狂いを見せていた。何かを口にしていないと、お腹の奥がザワザワする。言っておくが、妊娠とかしてないから。月経もちゃんと来ているし、そもそも処女だ。恥ずかしいとは思わない。痛いの嫌だし。






「…お腹減った」






ぐぅと鳴るお腹を押さえて溜め息。空腹は苦しい。夏のフェスティバルからずっと。もちろん、色々と楽しみにしていた食べ物たちは食べれていない。だから、ケーキのホール食いをした。あれからだ。






「まだかな、仁君も鷹臣君も」






作り置きのクッキーを食べながら、私は雑誌をペラペラと捲った。中身は頭に入ってこない。朝、仁君を見送ってから作ったクッキーは、早くも底を尽きそうだ。結構作ったんだけど、登校してからもずっと食べていたから仕方ない。






夏休みまであと一週間を切っている。早く夏休み来い。授業中の空腹ほど辛いものはない。例え50分。されど50分。何も口に出来ないのは、今の私からしたら拷問だ。本当に苦痛。






アメとかガムとか。気を紛らわすだけで、空腹は満たされない。私の体や顔が真ん丸になるまえに、この食欲をどうにかせねば。と言っても、対策も解決策も思い付かない。






「また食べてらァ」






「あ、おかえり仁君」






クッキーを一枚かっ浚っていく仁君。いつの間に帰ってきたんだろ。私はテレビを消して、右隣に座った仁君を見た。見事な銀の髪をオールバックにして、麗しい顔が際立っているのは、私の気のせいではないだろうなあ。






「調子、どうだ?」






「食欲やべーよ。食欲どうにかしないとやべーよ」






「…食欲以外で」






「食欲しかないね。しいて言うなら」






「言うなら?」






ふわり。私の意思は此処にあって、此処にはない。ずっと一緒にいたような感覚。それこそ、仁君や鷹臣君以上に一緒に居たような。ふわり。ふわり。私の意思は家の中にあり、私の意思は家の敷地すべてにあった。






あ、鷹臣君が帰って来た。






ふわり。






「おまえ…」






「ーー私、変なのかなあ。なんかね、もう暗闇は怖くないの。すっごく愛しいって言うか、言葉にするのは難しいけど、」






言葉が切れたのは、私の口を誰かが塞いだから。隣には仁君がいたから、これは鷹臣君の手。よく知っているその手は、私が喋る気はないことを悟ると、すぐに離れていった。






「おかえり、鷹臣君」






「ただいま」






「二人とも今日は早いんだね。遅いって聞いてたから、もうご飯食べちゃったんだけど」






「…飯食ってんのに、それも食ってんの?ヤバくね?真ん丸になんぞ、お前」






「鷹臣君、真顔でそれ言うの止めてくれる?」






ヤバいのは知ってるし、真ん丸になりそうなのも知ってるから。呆れているだろう鷹臣君は、事もなさげに私の左隣に座った。






「食ってる壱羽は可愛いじゃねーか、鷹臣」






「限度がある」






スパッと言い切った鷹臣君。いやなんでそのまま、私からクッキーの入ったタッパーを奪うんだ。意味わからん。鷹臣君を睨めば、私を一瞥したあとタッパーに蓋をした。もう食うな、と言わんばかりに。






「食い過ぎだ、阿呆」






「えー…」






「…明日、お前も俺達が働いている場所に行くぞ」






「え?」






「鷹臣、マジで?」






「あぁ。ババアに見つかっちまったからな。連れ去られる前に、連れていく」






鷹臣君が溜め息を吐いた。仁君は目を手で覆ったかと思うと、そのまま天井を仰いだ。何がどうしたんだろう。鷹臣君の言う、ババアに誘拐されそうだったのか、私は。






「あちゃー…」






「それから壱羽、それ(・・)はむやみやたらに使うんじゃねぇぞ」






「え?」






「愛しかろうが懐かしかろうが関係ねぇ。お前の為だ」






私のため。それはどういう意味があるんだろう。いや、言葉の意味は分かる。あくまでも言葉の意味ってだけで、いま、この現状に対してどういう意味を持っているのか。






昔の偉人が言った言葉を思い出す。






無知は罪なり、知は空虚なり、英知持つもの英雄なり。





知らないこと。それは罪。私が知らないことを仁君と鷹臣君は知っていて、私が知らないが故に、二人を傷つけている。






例え知っていたとしても、その意味あるただの情報と呼べる知識だけだろう。今、この場で何かに役立つ知恵ではない。






私は知らない。ここ暫くして、やっと何かがあると気付いた。ならば、どうにかして何か(・・)を知らなければならない。






無知は罪、知は空虚。






英知をこの手に。






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