↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/6

第2話 先生ってなに?

森を抜けると、小さな村が見えてきた。

木で組まれた柵に囲まれた、こぢんまりとした村。

畑では何人かの村人が作業をしていて、道を歩く人の姿もちらほら見える。

「……村、あった」

隣を歩いていたレンが、少しだけ嬉しそうに呟いた。

「うん。とりあえず、ここで休もうか」

「……うん」

レンは小さく頷いた。

森を出てからというもの、レンはずっとナキの隣を歩いている。

まだ完全に心を開いたわけではない。

けれど、最初に会ったときのような怯えた目は、少しずつ薄れていた。

村の入口をくぐる。

すると、村人たちの視線が二人に集まった。

珍しい旅人なのか。

それとも、レンの姿が気になったのか。

ナキは気にせず歩く。

すると、レンが不思議そうに口を開いた。

「ねえ、おにいさん」

「ん?」

「先生って、なに?」

「ああ、それ?」

ナキは少し考えてから、しゃがんでレンと目線を合わせた。

「先生っていうのはね、子どもにいろんなことを教える人なんだ」

「いろんなこと?」

「うん。勉強を教えたり、一緒に遊んだり、歌を歌ったり」

レンは首を傾げる。

「……歌?」

「そう。ご飯を一緒に食べたり、転んだら手当てしたり、怖いことがあったら抱っこしたりもする」

「……抱っこも?」

「するよ」

ナキは笑った。

「子どもが安心して過ごせるようにするのも、先生の仕事だからね」

レンはしばらく黙っていた。

それから、小さな声で言った。

「……じゃあ、おにいさんは先生なの?」

「うん」

「ふーん……」

レンは少し考える。

「変なの」

「なんで!?」

「お母さんみたいなおにいさんだから」

「そこ!?」

ナキは思わず笑ってしまった。

久しぶりに聞いた、子どもらしい言葉だった。

「まあ、そのうち分かるよ」

「うん」

そんな会話をしながら歩いているうちに、村の中央にある食事処へたどり着いた。

扉を開けると、温かな匂いが鼻をくすぐる。

「うわ……」

レンの足が止まった。

肉の焼ける匂い。

煮込み料理の香り。

焼きたてのパンの匂い。

腹の奥から、ぐぅ……と小さな音が響いた。

レンは恥ずかしそうにお腹を押さえる。

「……ごめんなさい」

「謝らなくていいって」

ナキは笑った。

「ほら、好きなの選びな」

店員から渡された簡単なメニューをレンに見せる。

レンはしばらく眺めていたが、一番安い料理を指差した。

「これ……」

「それでいいの?」

「うん」

ナキはレンの顔を見る。

どう見ても、本当に食べたいものを選んでいる顔ではなかった。

「レン」

「……?」

「値段で選ばなくていいよ」

「でも……」

「レンはまだ5歳でしょ?」

「……うん」

「だったら、食べたいもの食べよう」

レンは目を丸くした。

「……いいの?」

「もちろん」

レンはメニューを見直す。

そして、少しだけ迷ったあと。

「……これ」

今度は肉料理を指差した。

「これが食べたい」

「よし、それにしよう」

しばらくして料理が運ばれてくる。

レンは最初、恐る恐る料理に手をつけた。

一口。

二口。

そして。

「……おいしい」

その言葉と同時に、少しずつ食べる速度が上がっていく。

ナキはそんなレンを見ながら、優しく笑った。

「ゆっくりでいいからね」

「うん!」

食べ終わったあと、レンは満足そうにお腹をさすった。

「ここ……また来たい」

「うん。また来ようね」

その言葉を聞いたレンは、少しだけ嬉しそうに笑った。

食事を終えた二人は、村の中を歩きながら情報を集めた。

その中で、ナキは一つ気になる話を聞いた。

村の外れに、使われなくなった教会があるらしい。

「教会かぁ……」

ナキは顎に手を当てた。

「そこ、使わせてもらえないかな」

「使うの?」

「うん。寝る場所が必要だからね」

二人は村長の家を訪ねた。

事情を説明すると、村長は少し困ったような顔をした。

「教会を使うこと自体は構わん」

「ほんと?」

「ああ。もう何年も使われていないからな」

村長によれば、その教会は以前は村人や旅人が利用していた小さな教会だったらしい。

しかし、森に魔物が増えてから人が寄りつかなくなり、修繕する金もなくなった。

やがて神父も村を離れ、今では完全に使われなくなっているという。

「ただし、一つ問題がある」

村長の表情が曇った。

「教会の近くには、ゴブリンの巣がある」

「ゴブリン……」

「数は正確には分からん。だが、夜になると森から出てくることがある」

ナキは少し考えた。

「危険ってこと?」

「そういうことだ」

「……分かった」

ナキはレンを見る。

レンは何も言わず、ナキの服の裾を握っていた。

「まずは、教会を見てみよう」

二人は村の外れへ向かった。

そこにあった教会は、確かにかなり古びていた。

壁にはひびが入り、屋根の一部は崩れている。

それでも礼拝堂にはまだ椅子が残っていて、小さな生活スペースと台所、物置、それに裏手の庭もあった。

「思ったより、使えそうだな」

「ここに住むの?」

「うん。少し片付ければ大丈夫そう」

レンは礼拝堂を見回した。

「……広い」

「そうだね」

二人で簡単に掃除をして、使えそうな場所を整える。

やがて日が落ち始めた。

「レン、今日はここで寝ようか」

「うん」

ナキはレンを寝かせる。

布を掛けて、頭を撫でる。

「おやすみ、レン」

「……おやすみ、おにいさん」

レンの目が閉じる。

しばらくすると、静かな寝息が聞こえてきた。

ナキは立ち上がり、窓の外を見る。

森は暗い。

昼間に聞いた村長の言葉が頭に浮かぶ。

ゴブリンの巣。

教会の近く。

子どもが寝ている場所。

「……それは、ダメだろ」

ナキは小さく呟いた。

安全確認。

保育士として、それだけは見過ごせない。

ふと、崩れた壁の近くに目をやる。

そこには、壁の支えとして使われていたらしい鉄パイプが一本転がっていた。

ナキはそれを持ち上げる。

「……重っ」

思ったよりずっしりしている。

けれど、持てないほどではない。

むしろ。

「……これなら使えるか」

ナキは鉄パイプを肩に担いだ。

「ちょっと見てくるだけ」

眠っているレンを見る。

「ちゃんと戻ってくるからね」

そして、音を立てないように教会を出た。

向かう先は、暗い森。

目的はただ一つ。

子どもが眠る場所の近くにある危険を確認すること。

ナキは森の奥へと歩き出した。

その背中を追う、小さな影があることには気づかないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。