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三匹のこぶた、青春中  作者: まーサンタ


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7/22

第六話 風は、少しだけ強くなった。



 五月。


 桜はすっかり散り、校庭の隅では新しい緑が風に揺れていた。


 中学二年生になってから、もう一か月が過ぎている。


 そして――。


「三人とも、ちょっといいか?」


 昼休み。


 担任の先生が、蓮、樹、岳の三人を呼び止めた。


「何ですか?」


 蓮が聞く。


「来月、クラスで地域交流の発表会があるだろ」


「ああ」


「各班で地域について調べて、発表することになった」


 先生は名簿を見た。


「この三人で一班を作ってくれ」


「俺たち?」


 蓮が目を丸くする。


「そう。ちょうど三人だからな」


 樹は頷いた。


「分かりました」


 岳も特に反対しなかった。


 先生が去っていく。


 蓮は二人を見る。


「俺たち、正式にチームになったな」


「大げさ」


 岳が言う。


「でも、三人で何かやるの初めてじゃない?」


「探し物は?」


 樹が笑う。


「あれは遊びだろ」


「じゃあ、今回は本物だ」


 蓮が拳を握った。


「三匹、初仕事!」


「だから、その呼び方やめろって」


 樹が呆れる。


 岳は小さくため息をついた。


 けれど、口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。


* * *


 放課後。


 三人は図書室に集まった。


 地域交流のテーマは、


「僕たちの町の、昔と今」


だった。


「何を調べる?」


 樹がノートを開く。


「駅」


 岳が答えた。


「昔と今で変化が大きい」


「いいね」


 蓮が頷く。


「じゃあ駅周辺にしよう」


「待って」


 岳が言った。


「役割を決めよう」


「俺、写真」


 蓮がすぐに手を挙げる。


「俺、人に聞くの得意だから」


「じゃあ僕は資料を調べる」


 岳が言う。


「俺は?」


 樹が聞く。


「まとめる」


「ざっくりしてない?」


「一番必要」


 岳は真顔だった。


「お前、こういうときだけ厳しいな」


 蓮が笑う。


 樹も笑った。


 順調だった。


 少なくとも、そのときまでは。


* * *


 翌日。


 三人は放課後、駅前へ向かった。


 古い商店街。


 昔ながらの和菓子屋。


 新しくできたコンビニ。


 駐車場になった空き地。


 蓮はスマートフォンで写真を撮っていく。


「ここ昔は映画館だったらしいぞ」


 樹が古い看板を見つけた。


「本当?」


「ほら」


 岳がスマートフォンで資料を確認する。


「三十年前まであったみたい」


「へえ」


 蓮が周囲を見渡した。


「町って、結構変わってるんだな」


「人が変われば、町も変わる」


 岳が言った。


「じゃあ俺たちが変わったら?」


「町も変わるかもな」


 樹が答える。


 蓮は笑った。


「なんか、いいこと言った」


「うるさい」


 そのとき。


「すみません!」


 商店街の店先から声がした。


 三人が振り向く。


 高齢の女性が、重そうな段ボールを運んでいた。


「手伝います」


 樹がすぐに駆け寄る。


「ありがとう」


 蓮も手伝い始める。


「どこまで運びます?」


「あそこの倉庫まで」


 岳も無言で段ボールを持った。


「助かるわ」


 女性は嬉しそうに笑った。


 倉庫まで運び終えると、女性は三人を見た。


「学校の調べもの?」


「はい」


 樹が答える。


「この町の昔と今について調べています」


「それなら、昔の写真を見ていかない?」


「いいんですか?」


「ええ。うちにたくさんあるから」


 三人は顔を見合わせた。


「お願いします!」


 蓮が答えた。


* * *


 店の奥には、古いアルバムが何冊もあった。


 写真には、今とは違う町が写っている。


 今は駐車場になっている場所に、昔は小さな映画館があった。


 今は閉店した店にも、昔はたくさんの人が並んでいた。


「すごい……」


 樹が呟く。


「この町、こんなに人がいたんだ」


 蓮も写真を覗き込む。


 岳は一枚の写真に目を止めた。


「これ……」


「どうした?」


 写真の端に、中学生くらいの少年たちが三人写っていた。


 肩を組んで笑っている。


 その後ろには、今はなくなった古い校舎があった。


「三人だ」


 蓮が言う。


「また三人……」


 樹が写真を見つめる。


 岳は写真の裏側を確認した。


 そこには、日付と短い言葉が書かれていた。


『三人で見つけた町。

三人で守りたい町。』


「……」


 三人は黙った。


「この人たち、あの紙を書いた人かも」


 蓮が言った。


「可能性はある」


 岳が答える。


「じゃあ、もっと調べよう」


 樹が言った。


 三人は夢中になった。


 町の昔。


 そこに暮らしていた人たち。


 学校。


 卒業生。


 そして、古い校舎。


 調べれば調べるほど、知らないことが出てくる。


 気づけば外は夕暮れになっていた。


「そろそろ帰るか」


 樹が言う。


「うん」


 蓮がアルバムを閉じる。


 そのとき、岳が写真をもう一度見た。


 三人の少年。


 肩を組んで笑っている。


 その笑顔が、なぜか自分たちと重なった。


* * *


 翌週。


 三人の発表準備は順調に進んでいた。


 ところが。


「藤原」


 クラスメイトの男子が声をかけてきた。


「何?」


「お前ら、駅前で何してたの?」


「調べもの」


「三人で?」


「うん」


「最近いつも三人だよな」


「そう?」


「なんか怪しくね?」


 蓮は笑った。


「何が?」


「秘密の活動とか?」


「そんな大したもんじゃないって」


「ふーん」


 男子は笑いながら去っていった。


 その会話を、教室の後ろで玲奈が聞いていた。


「三人で秘密の活動……」


 彼女はスマートフォンを手に取った。


 悪気はなかった。


 ただ、面白そうだと思った。


 クラスのグループに、短いメッセージを送る。


『蓮たち三人、最近なんか秘密のことやってるらしいよ』


 それだけだった。


 けれど。


 誰かが返信する。


『何それ?』


 別の誰かが、


『旧音楽室使ってるって聞いた』


 さらに別の誰かが、


『何か隠してるんじゃない?』


 少しずつ言葉が変わっていく。


 そして翌朝。


「藤原、お前ら何隠してんの?」


 教室で突然そう聞かれた。


「え?」


「昨日、駅前で何かしてたんだろ?」


「いや、発表会の調べものだけど」


「本当に?」


「本当だって」


 蓮は笑った。


 でも、周りの視線が気になった。


 昨日まで普通だった視線が、少し違っている。


 樹も気づいていた。


「誰か変なこと言った?」


「知らない」


 岳が答えた。


 そして、自分のスマートフォンを見る。


 クラスのグループには、昨夜のやり取りが残っていた。


「……これ」


 岳が二人に画面を見せる。


 蓮の顔から笑顔が消えた。


「何だよ、これ」


「噂になってる」


 樹が言う。


「別に悪いことしてないだろ」


「そうだけど」


 蓮は画面を見つめる。


 胸の奥がざわつく。


 いつものように笑えばいい。


 冗談にすればいい。


 そう思った。


 けれど――。


「……面倒くさ」


 小さく呟いた。


* * *


 放課後。


 三人は旧音楽室に集まった。


 誰も話さない。


 いつもの空気とは違っていた。


「俺、何か言ったかな」


 蓮が呟く。


「言ってない」


 樹が答える。


「じゃあ、なんで?」


「噂だから」


 岳が言う。


「でも、噂って勝手に広がるじゃん」


「そうだな」


 樹が頷く。


 岳は窓の外を見る。


 木々が風に揺れている。


 春の終わり。


 少しだけ強くなった風。


「……これが、最初の風かもな」


 岳が呟いた。


「何それ?」


 蓮が聞く。


「別に」


 岳は答えなかった。


 蓮もそれ以上聞かなかった。


 ただ、窓の外を見た。


 風が吹いている。


 わらの家なら、簡単に揺れてしまうくらいの風。


 けれど、まだ誰も気づいていない。


 この小さな噂が、


 これから三人の関係を少しずつ変えていくことを。


 そして――。


 「誰にでもいい顔をする」


 そう言われることを一番恐れている少年が、


 この風に最初に揺さぶられることを。

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