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三匹のこぶた、青春中  作者: まーサンタ


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第五話 春の風が、三人を呼んだ。



 土曜日。


 朝から空は晴れていた。


 中学校には、生徒の姿が少ない。


 部活動に来ている生徒だけが、校舎とグラウンドを行き来している。


 そんな中――。


「集合!」


 蓮の声が旧音楽室に響いた。


「なんで土曜日まで学校に来なきゃいけないんだよ」


 樹が文句を言う。


「探偵活動だから」


「誰が探偵なんだよ」


「俺たち」


「勝手に決めるな」


 岳は窓際に立っていた。


「で、今日は何をする?」


 蓮が得意げに一枚の紙を取り出した。


「これを見つけた」


「何?」


「学校の古い校舎図」


 樹と岳が覗き込む。


「これ、旧音楽室?」


「そう」


「この部屋、昔は何だったんだ?」


 樹が尋ねる。


「調べた」


 岳が答えた。


「昔は音楽準備室だったらしい」


「じゃあ、なんで今は物置?」


「新校舎ができたから」


「なるほど」


 蓮が地図を指差す。


「でも、ここ見て」


 旧音楽室の隣に、小さな部屋が描かれている。


「ここ……?」


 樹が首を傾げる。


「今はない」


「ない?」


「壁で塞がれてる」


 岳が言った。


「昔の資料を見ると、ここに小さな倉庫があったみたい」


「じゃあ、行こう!」


「待て」


 樹が蓮の腕を掴む。


「勝手に入ったら怒られるだろ」


「じゃあ先生に聞けばいい」


「そういう問題じゃない」


 岳が地図を見ながら言った。


「でも、調べる価値はある」


「岳まで?」


「僕たちは『三つ』を探してるんだろ」


 樹は二人を見た。


「……分かったよ」


 三人は職員室へ向かった。


* * *


「旧倉庫?」


 三人の担任が首を傾げた。


「昔はあったみたいです」


 岳が校舎図を見せる。


「なるほど」


 先生は資料を確認した。


「確かに昔は使われていたようだな」


「今は?」


「壁で塞がれているはずだ」


「中には入れますか?」


 樹が聞く。


 先生は三人を見る。


「何をするつもりだ?」


「探し物です」


 蓮が答える。


「何を?」


「それが分からないから探してます」


 先生は苦笑した。


「変な答えだな」


「よく言われます」


「危険な場所じゃないなら、確認だけならいい。ただし、勝手に壊したりするなよ」


「はい!」


 蓮が元気よく答えた。


* * *


 三人は旧音楽室の奥へ向かった。


 古い壁の前。


 確かに、そこには扉の跡が残っている。


「ここだ」


 岳が壁を触る。


「本当にあるのかな」


 樹が言った。


「あると思う」


「根拠は?」


「地図」


「それだけ?」


「十分だろ」


 蓮が壁を叩く。


 コン。


 コン。


 コン。


「……音が違う」


 樹が言った。


「え?」


「こっちだけ、少し響く」


 三人は顔を見合わせた。


 岳が耳を近づける。


「確かに」


 蓮の顔が輝く。


「絶対何かある!」


「だからって壁を壊すなよ」


「分かってるって」


 そのとき。


 窓が突然、大きく開いた。


 びゅうっ――。


 春の風が部屋に入り込む。


 机の上に置いてあった紙が舞い上がった。


「うわっ!」


 蓮が追いかける。


 紙は窓から外へ飛び出していった。


「待て!」


 三人が廊下へ飛び出す。


 紙は校庭へ落ちた。


 蓮が走る。


 樹も追う。


 岳も仕方なく走った。


「取った!」


 蓮が紙を拾い上げる。


 その紙の裏側に、何かが書かれていることに気づいた。


「……え?」


「何?」


 樹と岳が近づく。


 紙の裏には、古い鉛筆の文字。


 短い一文だった。


 ――三匹で見つけたものだけが、本当の宝物になる。


 三人は黙った。


「三匹……」


 蓮が呟く。


「やっぱり、俺たちのことじゃない?」


「偶然だろ」


 岳はそう言った。


 けれど、声はいつもより小さかった。


 樹が紙を見つめる。


「この紙を書いた人も、三人だったのかな」


「たぶん」


 蓮が笑う。


「じゃあ、俺たちも三人で探そうぜ」


 樹が頷く。


「うん」


 岳は二人を見る。


 断ろうと思えば、断れた。


 くだらないと言うこともできた。


 けれど――。


「……分かった」


 それだけ言った。


 蓮が笑った。


「よし!」


 樹も笑う。


 三人は校庭に立っていた。


 桜の木から花びらが舞っている。


 春の風が、三人の間を通り抜ける。


 蓮が空を見上げた。


「なあ」


「何?」


「俺たち、三匹のこぶたみたいだな」


「どこが?」


「なんとなく」


「またそれか」


 樹が笑う。


 岳も、ほんの少しだけ口元を緩めた。


 三人が笑った。


 まだ、この友情に名前はなかった。


 まだ、誰も「親友」とは呼ばなかった。


 ただ。


 放課後に集まる場所ができた。


 探すものができた。


 一緒に笑える相手ができた。


 それだけで、中学二年生の春には十分だった。


 ――春の風は、三人を呼んだ。


 これから吹いてくる風が、もっと強いものになることを知らないまま。


 三匹は歩き始めた。


 それぞれの家へ。


 そして、まだ見ぬ――


 三人の家へ。

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