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三匹のこぶた、青春中  作者: まーサンタ


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3/22

第二話 わらの家は、笑っていた。



 翌日の昼休み。


 藤原蓮は、教室の中央で笑っていた。


「だからさ、それ絶対先生気づいてたって!」


「マジで?」


「うん。あの顔は絶対そうだった」


「蓮、見てたの?」


「見てた見てた。俺、先生の顔見るの得意だから」


 周りから笑い声が起こる。


 蓮も笑う。


 いつもの光景だった。


 誰かが話しかければ答える。


 冗談を言えば笑う。


 困っている人がいれば、軽い調子で声をかける。


 蓮は、クラスの中心にいることが多かった。


「藤原って、ほんと明るいよな」


 誰かが言った。


「そう?」


「悩みとか、なさそう」


「あるよ」


「え、何?」


「昨日の晩飯、何食ったか思い出せない」


「それ悩みじゃないだろ!」


 また笑いが起こる。


 蓮も笑った。


 ――こうしていれば、大丈夫。


 蓮はそう思っていた。


* * *


 放課後。


「蓮」


 教室を出ようとしたところで、女子の声がした。


 振り返ると、白石美咲が立っていた。


「何?」


「昨日、旧音楽室にいたでしょ?」


「え?」


「見た人がいるって」


 蓮の表情が一瞬だけ固まった。


「何それ」


「なんか、石田くんと一緒だったって」


「ああ、それ?」


 蓮は笑った。


「ちょっと探検してただけ」


「探検?」


「そうそう。秘密基地探し」


「中学生が?」


「中学生だからこそだろ」


 美咲は笑った。


「変なの」


「だろ?」


 そのとき、教室の後ろから岳が通り過ぎた。


「石田くん」


 美咲が声をかける。


 岳は足を止めた。


「何?」


「昨日、蓮と何してたの?」


「紙を見つけた」


「紙?」


 岳はポケットから昨日の紙を取り出した。


 美咲が目を丸くする。


「何これ?」


「分からない」


「三つ見つけろって……何を?」


「それを調べてる」


 蓮が割り込んだ。


「俺たち、探偵だから」


「誰が?」


 岳が冷静に返す。


「そこは合わせろよ!」


 美咲が笑った。


「三人でやってるんだ?」


「そう」


「樹くんも?」


「たぶん」


「たぶんって……」


 美咲は呆れたように笑った。


「じゃあ、頑張ってね。探偵さん」


「任せろ」


 美咲が教室を出ていく。


 蓮は手を振った。


 そして、誰も見ていないところで、ほんの少しだけ息を吐いた。


 ――秘密を知られるのは、嫌だった。


 でも。


 自分でも理由は分からなかった。


* * *


 その日の放課後。


 三人は旧音楽室に集まった。


「で?」


 樹が机に紙を置く。


「何を探すんだ?」


「それを考えるところからだろ」


 蓮が腕を組む。


「三つって書いてあるんだから、何か三つあるはず」


「学校にあるものなんて、いくらでもある」


「じゃあ、片っ端から探す?」


「時間の無駄」


 岳が言った。


「石田は相変わらず冷たいな」


「冷たいんじゃなくて効率の話」


「はいはい」


 樹が紙を見つめる。


「これを書いた人は、何を知ってほしかったんだろうな」


「昔の生徒じゃない?」


 蓮が言った。


「この学校で大切なものを三つってことは、学校生活で大切なもの」


「友達とか?」


「勉強とか?」


「部活とか?」


 三人はそれぞれ考える。


「……意外と普通だな」


 蓮が言った。


「じゃあ、蓮にとって大切なものは?」


 樹が聞いた。


「俺?」


「うん」


「そりゃ……」


 蓮は少し考えた。


「友達」


 即答だった。


 樹は笑った。


「お前らしいな」


「だろ?」


 岳は黙っていた。


「岳は?」


「別に」


「大切なものないの?」


「あるけど」


「何?」


「言いたくない」


「なんだよそれ」


「言いたくないものは言わなくていいだろ」


 その言葉に、樹が少しだけ黙った。


 蓮は笑って誤魔化した。


「じゃあ、俺たちの大切なものを探すんじゃなくて、昔の三人が大切にしてたものを探すんじゃない?」


「昔の三人?」


「この紙を書いた三人」


「三人って決まってないだろ」


 岳が言う。


「でも、三つって書いてある」


「だから?」


「なんとなく」


「根拠がない」


「いいんだよ。青春なんだから」


「意味分からない」


 樹が吹き出した。


「お前ら、ほんと面白いな」


「だろ?」


 蓮は笑った。


 その笑顔を見ながら、樹はふと思った。


 蓮はいつも笑っている。


 でも――


 本当に笑いたいときだけ笑っているのだろうか。


 その疑問は、すぐに消えた。


* * *


 数日後。


 クラスでは、ある噂が広がり始めていた。


「ねえ、聞いた?」


「何?」


「藤原くん、最近石田くんと一緒にいるんだって」


「えー、意外」


「しかも木村くんも」


「何それ。三人で何してるの?」


「さあ」


 噂は、少しずつ形を変えていく。


 旧音楽室。


 古い紙。


 三人だけの秘密。


 そして――


「なんか、変なことしてるらしいよ」


 誰かが言った。


 蓮は、その会話を廊下で聞いていた。


 けれど、何も言わなかった。


 笑って通り過ぎた。


「気にすんなよ」


 後ろから樹が言った。


「別に」


「気にしてる顔してる」


「してないって」


「蓮」


 樹が呼び止める。


「嫌なら、俺が言ってやるけど」


「いいよ」


「でも……」


「大丈夫」


 蓮は笑った。


「俺、こういうの慣れてるから」


 その笑顔は、いつもと同じだった。


 明るくて。


 軽くて。


 何も気にしていないように見えた。


 けれど――


 その日の帰り道。


 蓮は一人で歩いていた。


 スマートフォンを見る。


 クラスのグループには、何件ものメッセージが届いている。


 その中に、自分の名前が出ている。


 冗談。


 からかい。


 悪意のない言葉。


 けれど、一つだけ。


 胸に引っかかる言葉があった。


 「藤原って、誰にでもいい顔するよな」


 蓮は画面を閉じた。


 空を見上げる。


「……別に、いいじゃん」


 誰もいない道で呟く。


 そして、いつものように笑った。


 ――わらは軽い。


 だから、風が吹けば揺れる。


 けれど。


 まだ春の風は優しかった。


 だから蓮は、自分の家がどれほど脆いのかを知らなかった。


 そして、風は少しずつ強くなっていく。


 そのことを知っているのは、


 まだ誰もいなかった。

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藤原‥お前いいやつだな‥‥
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