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三匹のこぶた、青春中  作者: まーサンタ


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12/22

第十一話 五匹目の夏は、少し騒がしい。



 七月。


 梅雨が明ける少し前から、学校の空気はすっかり夏になっていた。


 窓を開けても、涼しくならない。


 廊下を歩けば、どこからか蝉の声が聞こえる。


 そして。


 旧音楽室には、以前より少しだけ人が増えていた。


「暑い!」


 蓮が窓を全開にした。


「暑いのは分かってる」


 岳が本を読みながら言う。


「じゃあ、どうにかしてくれよ」


「無理」


「即答するなよ」


 樹が笑った。


「扇風機ないの?」


「壊れてる」


 美咲が部屋の隅を指差す。


 そこには、古い扇風機が置いてある。


 蓮がスイッチを入れる。


 ――カチ。


 何も起きない。


「……」


「壊れてるって言ったじゃん」


「動くかもしれないだろ」


「動かないよ」


 岳が呆れる。


 そのとき。


「何してるの?」


 扉のところから声がした。


 湊だった。


「扇風機を蘇生させてる」


 蓮が答える。


「無理だと思う」


「岳と同じこと言うなよ」


 湊は部屋に入り、扇風機を見る。


「電源コード、抜けてる」


「……」


 蓮が振り返る。


「え?」


 湊がコードをコンセントに差し込む。


 スイッチを入れる。


 扇風機が回り始めた。


「……」


 樹が吹き出す。


「蓮」


「何だよ」


「蘇生成功だな」


「俺がやったんだからな」


「コード差したの湊だけど」


「細かいことはいいんだよ!」


 美咲が笑った。


 湊も。


 ほんの少しだけ笑った。


 それを見た蓮が指を差す。


「今、笑った!」


「笑ってない」


「いや、絶対笑った!」


「気のせい」


「岳、見ただろ?」


「見た」


「ほら!」


「でも、本人が否定してる」


「なんでそっち側なんだよ!」


 旧音楽室に笑い声が響く。


 少し前まで。


 この部屋にいるのは三人だった。


 今は五人。


 その違いは、思っていたより大きかった。


* * *


 夏休みまで、あと三日。


 五人は地域交流発表会で見つけた古い写真について、もう一度調べることにした。


「この写真」


 美咲が机の上に広げる。


 そこには、昔の町の風景が写っている。


「ここ、今の公園じゃない?」


 樹が指差した。


「たぶん」


 岳が地図を見る。


「昔はここに商店街があったみたい」


「じゃあ行ってみようぜ」


 蓮が立ち上がる。


「今から?」


「今から」


「暑いよ」


「だから夏なんだろ」


「意味分かんない」


 美咲が笑う。


「でも、面白そう」


 湊が言った。


 四人が一斉に湊を見る。


「……何?」


「いや」


 蓮がニヤッとする。


「お前、自分から『面白そう』って言ったな」


「言ったけど」


「昔なら絶対言わなかっただろ」


「昔っていつ?」


「数週間前」


「そんなに変わってない」


 岳が立ち上がる。


「行くなら早くした方がいい。暑さがひどくなる」


「よし!」


 蓮が拳を握る。


「五人で町探検!」


「その言い方、子どもっぽい」


 美咲が笑った。


「中学生なんだからいいだろ」


 こうして五人は、旧音楽室を出た。


* * *


 目的地は、学校から歩いて二十分ほどの古い公園だった。


 夏の日差しが強い。


「暑い……」


 岳が言った。


「さっきまで暑さに強いみたいなこと言ってなかった?」


「言ってない」


「言った」


「言ってない」


「言ったよな、樹?」


「俺に聞くな」


 樹が笑う。


 美咲は前を歩く。


 湊は少し後ろ。


 蓮が湊の隣まで戻る。


「なあ」


「何?」


「もっと前来いよ」


「別にいい」


「五人で来てるんだから五人で歩こうぜ」


 湊は少しだけ蓮を見る。


「……分かった」


 二人が前に戻る。


 五人が並んだ。


 その姿を見て。


 美咲が小さく笑った。


「何?」


 蓮が聞く。


「ううん」


「絶対何かあるだろ」


「なんか、変わったなって」


「何が?」


「人数」


「ああ」


 蓮は笑う。


「三人から五人になった」


「うん」


「賑やかになったよな」


 美咲が頷く。


「ちょっと騒がしいけどね」


「誰が?」


「蓮」


「俺だけ?」


「主に」


 樹と岳と湊まで笑った。


「ひどい!」


 蓮が叫ぶ。


 夏の空に、笑い声が響いた。


* * *


 公園に着くと、古い石碑があった。


 岳が写真と見比べる。


「これだ」


「本当?」


 美咲が近づく。


「写真の右側に写っている」


 樹も周囲を見る。


「昔はここに商店街があったんだな」


「今は何もないけど」


 湊が言う。


 蓮が石碑の裏を見る。


「……何かある」


「何?」


 五人が集まる。


 そこには、小さな文字が刻まれていた。


三人で見つけた町。

三人で守りたい町。


 以前見つけた言葉と同じだった。


「またこれか」


 蓮が言う。


「でも、前とは違う」


 岳が石碑の下を見る。


 そこには、古い金属の箱が埋め込まれていた。


「……これ」


 樹がしゃがみ込む。


「開けられる?」


「鍵がない」


 岳が答える。


 湊が箱を調べる。


「ここ」


 側面を指差す。


 小さな隙間があった。


「何か入ってる」


 蓮が覗き込む。


「紙?」


「たぶん」


 しかし。


 そのとき。


 公園の向こうから子どもの声が聞こえた。


「おーい!」


 五人が振り返る。


 近所の小学生だった。


「何してるの?」


「探検!」


 蓮が答える。


「宝探し?」


「そんな感じ!」


「いいなー!」


 小学生たちは走っていった。


 蓮は笑う。


「昔の俺たちも、あんな感じだったのかな」


「今も十分そんな感じだろ」


 岳が言う。


「岳、お前もだぞ」


「僕は違う」


「いや、同じ」


 樹が笑う。


 湊も笑った。


 五人の間に、自然な空気が流れていた。


 もう。


 湊が「外側」にいる感じはしなかった。


* * *


 帰り道。


 コンビニの前で、蓮が立ち止まった。


「アイス食おうぜ」


「また?」


 美咲が笑う。


「夏だから」


「理由になってない」


「いいじゃん」


 結局、五人でアイスを買った。


 店の前のベンチに座る。


 樹が食べながら言った。


「こういうの、いいな」


「何が?」


「みんなで帰りにアイス食べるとか」


 岳が頷く。


「悪くない」


 美咲も笑う。


「私も好き」


 蓮が湊を見る。


「湊は?」


「……うん」


「何?」


「悪くない」


「だろ?」


 蓮が笑う。


 湊も少し笑った。


「でも」


 湊が言う。


「俺、こういうの慣れてない」


「何に?」


「誰かと帰ったり、こういうところで話したり」


 四人が黙る。


 蓮は少しだけ考えてから言った。


「じゃあ、慣れればいいじゃん」


「簡単に言うな」


「簡単だろ」


 湊は笑った。


「……お前らしい」


「だろ?」


 樹が笑う。


「蓮はそういうところだけは強いからな」


「どういう意味?」


「考える前に突っ込む」


「それ褒めてる?」


「半分」


 また笑い声が起きた。


* * *


 夕方。


 五人は旧音楽室へ戻った。


 机の上に今日撮った写真を並べる。


 町の古い石碑。


 公園。


 昔の商店街。


 五人で食べたアイスのゴミまで写っている。


「これ、発表に使えるかな」


 美咲が写真を整理する。


「使えると思う」


 岳が答える。


 蓮は壁を見る。


 そこには、五人の名前が並んでいる。


 以前は三人だった。


 その横に美咲が加わり。


 そして湊が加わった。


「なあ」


 蓮が言った。


「何?」


 樹が振り返る。


「この五人で、もっといろんなとこ行こうぜ」


「突然どうした?」


「だって夏休みだし」


「まだ三日あるだけだろ」


「三日もある」


 美咲が笑う。


「いいね」


「美咲まで?」


「いいじゃん」


 樹も頷いた。


「俺もいいと思う」


 岳は少し考えた。


「予定を決めてからなら」


「よし!」


 蓮が湊を見る。


「湊は?」


 湊は五人の顔を見た。


 少しだけ考える。


「……いいよ」


「決まり!」


 蓮が笑う。


 旧音楽室に、五人の声が響いた。


* * *


 帰る時間。


 外は夕焼けだった。


 五人は校門を出る。


「じゃあ、また明日」


「またな」


「また明日」


「うん」


 それぞれの家へ向かう。


 湊だけが少し遅れていた。


 蓮が振り返る。


「湊!」


「何?」


「早く!」


 湊は一瞬、立ち止まった。


 昔なら。


 そのまま一人で帰っていただろう。


 誰かに呼ばれても。


「先に行って」


と答えていたかもしれない。


 でも。


 今は違った。


「……うん」


 湊は走った。


 五人のところへ。


 夕焼けの道を。


 五つの影が並んで伸びていく。


 三匹だったはずの物語に。


 いつの間にか、二人が加わっていた。


 蓮は笑っている。


 樹も笑っている。


 美咲も。


 岳も、ほんの少しだけ。


 そして湊も。


 笑っていた。


 夏は、まだ始まったばかりだった。


 誰も知らない。


 この時間が。


 この五人で過ごす夏が。


 どれほど大切なものになるのか。


 そして――。


 その大切なものほど。


 いつか失ったときには、痛いということを。

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