第二話 勇者は二度目から知っていた
「脱いで」
翌朝。
墓守小屋へやって来たアルドに、リーゼは開口一番そう言った。
「……朝から幼なじみに言われる台詞として、どうなんだそれ」
「鎧」
「分かってるけどさ」
「早く」
「お前、少しは恥じらいとか」
「死体の服を脱がす仕事もする墓守に、何を期待してるの?」
「言い方が怖いんだよ」
アルドはぶつぶつ言いながら、白銀の鎧を外した。
肩当て。
腕甲。
腰具。
最後に胸当て。
リーゼはそれらを床へ並べる。
昨夜。
自分の墓石から聞こえた音。
こん。
低く。
濁った。
中に何かがある時の音。
そして今朝。
アルドの胸当てを叩いた時。
まったく同じ音がした。
偶然。
そう片づけるには。
少し気味が悪すぎる。
リーゼはしゃがみ込んだ。
「叩くよ」
「もう叩いてるだろ」
「ちゃんと調べる」
「壊すなよ?」
「高そうだしね」
「俺の心配じゃなくて鎧の値段?」
「アルドは壊れても直るでしょ」
「その言い方、すごく嫌だな」
リーゼは無視して、指の関節を鎧へ当てた。
こん。
肩。
普通。
こん。
腕。
普通。
こん。
腰。
普通。
そして。
胸。
――こん。
リーゼの手が止まった。
もう一度。
こん。
やはり違う。
「……同じ」
「何が?」
「墓」
アルドの顔から。
ほんの少しだけ表情が消えた。
「私の墓石と、この胸当て」
リーゼは叩く。
こん。
「同じ音がする」
「石と金属だぞ?」
「材質の音じゃない」
「じゃあ何の音だよ」
「分からないから調べてるの」
リーゼは胸当てを持ち上げた。
表面に傷はない。
昨日。
黒角鬼の拳をまともに受けたはずなのに。
新品同然。
「これ、いつから使ってる?」
「勇者になった時から」
「ずっと同じ?」
「ああ」
「六回死んでも?」
「そのたびに修復されてる」
「誰が?」
「聖堂」
「もっと具体的に」
アルドが少し嫌そうな顔をする。
「エノク司祭」
「行くよ」
リーゼは立ち上がった。
「どこへ?」
「聖堂」
「今?」
「今」
「朝飯は?」
「帰ってから」
「俺、昨日死んだばっかりなんだけど」
「今日は生きてる」
「墓守ってたくましいよな」
「死んだら優しくしてあげる」
「今まで六回あっただろ、その機会」
「全部忙しかった」
「最低だな」
そう言いながら。
アルドは笑っていた。
だが。
リーゼは見逃さなかった。
胸当てを手渡した時。
アルドの指が。
ほんの少しだけ震えていたことを。
―――――
エノク司祭は、生きている人間を数字で呼ぶ。
「負傷者三名。軽傷者十二名。勇者一名」
そのくせ。
死者だけは。
必ず名前で呼んだ。
「ロイド・バルクさん」
「ミア・フェインさん」
「トーマス・レルさん」
二十八歳。
痩せた身体。
銀縁の眼鏡。
いつ見ても少し寝不足そうな顔。
リーゼは昔から。
変な人だと思っていた。
「司祭」
「墓守一名。勇者一名。おはようございます」
「その呼び方やめて」
「では、リーゼさん。アルドさん」
「そっちも気持ち悪い」
「注文が多いですね」
アルドが横から言った。
「分かる」
「勇者は黙ってて」
「はい」
エノクはため息をついた。
「それで、何のご用でしょう」
リーゼは胸当てを机へ置いた。
「これ」
「アルドさんの聖具ですね」
「中、どうなってるの?」
エノクの目が。
胸当てからリーゼへ動いた。
「どう、とは?」
「昨夜、私の墓から変な音がした」
アルドがリーゼを見る。
聞いていなかったらしい。
「音?」
「心臓みたいな音」
「……」
「今朝、これを叩いたら同じ音がした」
沈黙。
エノクは。
答えなかった。
リーゼは腕を組む。
「何か知ってる?」
「何についてでしょう」
「私の墓」
「存じません」
「じゃあ鎧」
「管理しております」
「何のための鎧?」
「勇者を守るためです」
「昨日守れてなかったけど」
「……」
アルドが小声で言う。
「そこ突っ込むのか」
「心臓潰れてるじゃん」
「一応戻ってきただろ」
「そこ」
リーゼはアルドを見る。
そして。
エノクへ視線を戻す。
「どうやって生き返ってるの?」
エノクの表情が。
わずかに変わった。
「復生の儀式によって」
「それは知ってる」
「では質問の意味が分かりません」
「死んだ人間を、どうやって元に戻してるの?」
答えはなかった。
リーゼは目を細める。
「知らない?」
「いいえ」
返事は早かった。
「じゃあ教えて」
「申し上げられません」
「なんで?」
「申し上げられません」
「言いたくない?」
「違います」
また。
即答。
エノクは繰り返した。
「申し上げられません」
リーゼは黙った。
妙な言い方だ。
知らない。
ではない。
話したくない。
でもない。
――話せない。
「何かの契約?」
エノクの指が。
机の上で止まった。
返事はない。
しかし。
それだけで十分だった。
リーゼはアルドを見る。
「知ってる?」
「……何を」
「復生の仕組み」
「知らない」
アルドの声は。
いつもと変わらなかった。
リーゼはそれ以上聞かなかった。
代わりに。
聖堂の奥を見る。
「過去の記録、見せて」
「お断りします」
「なんで」
「聖堂の内部資料です」
「アルド本人いるじゃん」
「そういう問題ではありません」
「じゃあ、私が昨日借りたこれは?」
リーゼが懐から紙束を出した。
エノクの顔が固まった。
「……それは」
「復生記録」
「返してください」
「あとで」
「今です」
「墓守の勘で必要だと思った」
「それは窃盗です」
「墓守の勘」
「二回言っても罪状は変わりません」
アルドが吹き出した。
リーゼは紙を机へ広げた。
昨夜。
墓石の心音が気になって眠れず。
朝一番で聖堂の書庫へ入り。
勝手に持ってきた。
第一戦。
生命活動停止。
復生儀式実施。
帰還確認。
第二戦。
同じ。
第三戦。
同じ。
六戦すべて。
ほとんど同じ文面だった。
「これ」
リーゼが指を置く。
「アルドが死んだ記録でしょ?」
「いいえ」
エノクは答えた。
リーゼの指が止まる。
「……え?」
「私は、それをアルドさんが死んだ記録とは申し上げておりません」
「でも」
リーゼは紙を見る。
生命活動停止。
「心臓が止まって」
「はい」
「呼吸も止まって」
「はい」
「聖堂へ死体で運ばれて」
アルドが横から言う。
「死体って言うなよ」
「死んでるでしょ」
「まあ」
リーゼはエノクを見る。
「それを死んだって言わないの?」
「記録上は、生命活動停止です」
「なんで?」
「規則です」
「蘇生って言葉もない」
「ありません」
「生き返ったとも書いてない」
「ありません」
「復生って名前なのに?」
「一般には、そのように呼ばれています」
一般には。
その言葉が。
妙に引っかかった。
リーゼは紙を一枚ずつ確認する。
第一戦。
第二戦。
第三戦。
そして。
第二戦の記録で。
指が止まった。
一番下。
小さな文字。
本文とは違う筆跡。
第二適用後――使用者本人への告知完了。
リーゼは。
その一文を読んだ。
もう一度。
読む。
「……告知?」
アルドが動かなかった。
リーゼは紙を持ち上げる。
「これ何?」
エノクは答えない。
「第二適用後」
読む。
「使用者本人への告知完了」
そして。
アルドを見る。
「何を聞いたの?」
「リーゼ」
アルドの声が低くなる。
「二回目の復生のあと」
「……」
「何を教えられた?」
アルドは答えなかった。
「アルド」
「言えない」
リーゼの眉が寄る。
「知らないんじゃなかったの?」
「……」
「さっき、知らないって言ったよね」
アルドは。
しばらく黙ったあと。
小さく息を吐いた。
「全部は知らない」
「じゃあ、何を知ってるの」
「言えない」
「またそれ?」
「本当に言えないんだ」
「契約?」
アルドは答えない。
リーゼはエノクを見る。
エノクも答えない。
同じだ。
二人とも。
知っている。
そして。
二人とも。
言えない。
リーゼの中に。
昨日の記憶が戻ってきた。
――今朝、私の墓ができてた。
アルドは。
驚かなかった。
いや。
少しは驚いたように見えた。
でも。
普通の人間なら。
幼なじみが。
「まだ生きている自分の墓ができた」
と言えば。
もっと騒ぐのではないか。
――見てく?
――やめとく。
そして。
別れ際。
――今日は町の外に出るなよ。
あの時は。
黒角鬼の仲間がいる可能性を心配しているのだと思った。
もちろん。
それも本当なのだろう。
でも。
もし。
それだけではなかったら。
「アルド」
「……何」
リーゼは。
ゆっくり尋ねた。
「私の墓ができること」
アルドの目を見る。
「知ってた?」
沈黙。
ほんの数秒。
けれど。
それで答えは分かった。
「……いつから?」
「二回目」
ぱん。
乾いた音が聖堂に響いた。
リーゼの平手が。
アルドの頬を打っていた。
アルドは避けなかった。
「最低」
「……そうだな」
「二回目って」
リーゼの声が震える。
「四回も前じゃん」
「ああ」
「なんで黙ってたの」
「言えなかった」
「言えないなら!」
リーゼは叫んだ。
「死ぬのやめればよかったでしょ!」
「俺がやめたら誰が戦う!」
初めて。
アルドも声を荒らげた。
「一回目は何も知らなかった!」
「二回目からは知ってた!」
「知ったからって魔物が消えるのか!」
「だからって!」
「俺が戦わなかったら町が滅びる!」
「だから私なら死んでもいいの!?」
アルドが。
何も言えなくなった。
リーゼ自身。
言ったあとで。
胸が冷たくなった。
まだ。
誰も。
自分が死ぬとは言っていない。
ただ。
そう思った。
自分の墓。
アルドの六つの死因。
六度の復生。
二度目に知らされた秘密。
「……私が死ぬんだ」
アルドが顔を上げる。
「リーゼ」
「だから墓ができた」
「違う」
「何が違うの?」
「それは」
アルドが口を開く。
その瞬間。
喉を押さえた。
「……っ」
息が止まったように。
膝をつく。
「アルド!?」
リーゼが駆け寄る。
アルドは数秒。
苦しそうに咳き込み。
やがて息を取り戻した。
「……だから」
荒い呼吸。
「言えない」
リーゼは。
初めて理解した。
秘密にしているのではない。
本当に。
言葉にできない。
何かに。
止められている。
リーゼは立ち上がる。
机に置かれた胸当てを見る。
こん。
あの音。
墓石と同じ音。
六つの死。
六行。
リーゼは指を置いた。
「この鎧」
「……」
「アルドを生き返らせてるんじゃない」
誰も答えない。
「心臓が潰れたのに、元通りになる」
「……」
「首を切られても戻る」
「……」
「でも記録には蘇生って書かない」
エノクの目が。
静かにリーゼを見ている。
「じゃあ」
リーゼは呟く。
「無かったことにしてるんじゃない」
一度目。
胸部貫通。
二度目。
頸部切断。
六度。
全部。
墓に残っている。
「……残してる」
アルドの顔が変わった。
リーゼは胸当てを叩く。
こん。
「死んだことを、ここに」
もう一度。
こん。
「どこかへ移してる?」
エノクが目を閉じた。
否定しない。
リーゼの心臓が速くなる。
「アルドは死んでる」
「……」
「でも、その死を」
墓。
自分の名前。
「別の場所に置いてる」
沈黙。
「それが」
リーゼは。
自分を指差した。
「私?」
アルドが目を閉じた。
その反応が。
何より雄弁だった。
「……なんで」
声が震える。
「なんで私なの」
エノクが口を開いた。
「そこまでご自身で推論されたのであれば」
アルドが振り向く。
「司祭!」
「契約に抵触しない範囲です」
エノクは眼鏡を外した。
目頭を押さえる。
そして。
リーゼを見る。
「復生聖具は」
一拍。
「死者を蘇らせる道具ではありません」
リーゼは。
何も言わなかった。
「死亡によって確定するはずだった結果を、一時的に保留する聖具です」
「保留?」
「死を消すことはできない」
エノクは胸当てを見る。
「だから、蓄積する」
「どこに?」
「最初は聖具に」
リーゼの指が。
胸当てへ触れる。
だから。
音がする。
「じゃあ墓は?」
エノクは少し黙った。
「精算標です」
「……精算?」
「六度目の適用後」
エノクは言う。
「蓄積された死を返却する対象に現れます」
リーゼは。
自分の墓を見るように。
聖堂の壁の向こうへ視線を向けた。
「返却……」
胸部貫通。
頸部切断。
全身焼損。
失血。
魔力枯渇。
心臓破裂。
全部。
「私に?」
エノクは答えない。
だが。
もう。
答えなど必要なかった。
「なんで私なの」
リーゼはもう一度聞く。
今度は。
誰に聞いたのか。
自分でも分からなかった。
エノクが静かに言う。
「復生聖具は、初回使用時に」
少し言葉を選ぶ。
「使用者の帰還を最も強く願った生命と接続します」
リーゼの呼吸が止まった。
記憶が。
勝手に蘇る。
十歳。
アルドが木から落ちた。
頭から血を流した。
リーゼは泣きながら。
何度も言った。
――死なないで。
十五歳。
勇者候補として町を出る日。
笑って。
冗談みたいに言った。
――死んだら、墓くらい掘ってやる。
でも。
アルドが背を向けたあと。
聞こえないくらいの声で。
――帰ってきてよ。
――絶対に。
「……私が」
リーゼは笑った。
笑えていなかった。
「一番、生きて帰ってほしいって願ったから?」
「おそらく」
エノクが答えた。
「そんなの」
リーゼの声が掠れる。
「そんなの、知らないじゃん」
誰も答えられない。
「願っただけじゃん」
拳を握る。
「死なないでって」
ただ。
それだけ。
それだけだったのに。
墓には。
六つの死が刻まれている。
「七回目は?」
エノクは黙る。
「墓には七行目ができた」
アルドが顔を上げた。
「何?」
「昨夜」
リーゼは言う。
「勝手に刻まれた」
第七の死――
そこまで。
「七回目で、どうなるの?」
「リーゼ」
アルドが止める。
「答えて」
「やめろ」
「司祭」
エノクは。
しばらく沈黙した。
そして。
「精算されます」
リーゼの喉が鳴る。
「六回分?」
エノクは首を振った。
「七度目に新たに生じたものを含め」
一拍。
「すべてです」
リーゼは。
言葉を失った。
七回。
アルドが受けた。
七つの死。
それが。
一度に。
自分へ来る。
「……死ぬじゃん」
誰も。
否定しなかった。
「私」
声が小さくなる。
「死ぬじゃん」
アルドが拳を握る。
「だから」
リーゼは彼を見る。
「二回目から知ってたんだ」
「……ああ」
「私が最後に死ぬって」
「ああ」
「それでも三回目、死んだ」
「ああ」
「四回目も」
「ああ」
「五回目も」
「ああ」
「昨日も」
アルドは。
ゆっくり頷いた。
「ああ」
リーゼは。
もう一度殴ろうとして。
やめた。
手が上がらなかった。
怒っている。
怖い。
悲しい。
でも。
それ以上に。
分からなかった。
「なんで」
「町を守るためだ」
「それだけ?」
アルドは黙った。
「本当に?」
「……」
「私を殺してまで町を守りたかった?」
「違う」
「じゃあ何」
「……」
「言えない?」
「これは言える」
アルドは。
少しだけ笑った。
弱い。
町で見せる勇者の笑顔とは。
まったく違う。
「死ぬ方が」
言った。
「楽だった」
リーゼは。
何も言えなかった。
「俺さ」
アルドは床を見る。
「敵を倒して、自分も死ぬ」
「……」
「それなら簡単なんだ」
「何が」
「考えなくていい」
アルドは自分の手を見る。
「槍を避けなくていい」
「……」
「腹を刺されても、そのまま相手の首を斬ればいい」
「……」
「腕が折れても、死ぬ前に勝てばいい」
「……」
「心臓を潰されても」
昨日。
黒角鬼を倒した時。
「先に相手を殺せれば、俺の勝ちだ」
リーゼは。
ようやく分かった。
なぜ。
アルドは毎回。
敵を倒したあとに死ぬのか。
勇敢だから。
ではない。
覚悟があるから。
でもない。
アルドの戦い方には。
最初から。
「生き残る」という条件がなかった。
「俺一人が死ねば済むと思ってた」
アルドが言う。
「どうせ戻るから」
「私が死ぬって知ってたじゃん」
「分かってる」
「じゃあ一人じゃない」
「分かってる!」
アルドが叫んだ。
そして。
すぐに。
声を落とした。
「……分かってた」
震えている。
「でも」
拳を握る。
「戦わない理由にしたら」
「……」
「今まで死んだ人間に、何て言えばいいか分からなかった」
リーゼは黙る。
「勇者が怖いから戦えませんって?」
「……」
「生き残る方法を考えたけど、分からなかった」
アルドは。
自嘲するように笑った。
「俺には」
ぽつり。
「死なずに勝つ方法が分からない」
その時だった。
ごぉん。
鐘。
二人が顔を上げる。
ごぉん。
二回。
三回。
祝福の鐘ではない。
警鐘。
魔物襲来。
聖堂の扉が勢いよく開いた。
兵士が転がり込む。
「勇者様!」
息が切れている。
「北門です!」
アルドが立ち上がる。
「数は」
「黒角鬼!」
兵士が叫ぶ。
「三体です!」
リーゼの身体が。
固まった。
昨日。
一体。
それを倒して。
アルドは死んだ。
今日は。
三体。
アルドは。
反射的に胸当てへ手を伸ばした。
リーゼが。
先に掴んだ。
「返せ」
「嫌」
「リーゼ」
「着せない」
「遊んでる場合じゃない」
「遊んでない」
「町が襲われてる!」
「だから何!」
アルドの顔が変わる。
「俺が行かなきゃ死者が出る!」
「行けばいい!」
リーゼは叫ぶ。
「でも、これを着て死ぬのは駄目!」
「そんな戦い方、俺には――」
「考えろ!」
聖堂が静まった。
リーゼは。
胸当てを抱えたまま。
アルドを見る。
「さっき自分で言ったでしょ」
アルドが黙る。
「死なずに勝つ方法が分からないって」
「……」
「じゃあ考えろ」
「時間がない」
「だからって死ぬな」
「無茶言うなよ」
「六回も死んだ奴に言われたくない!」
遠く。
黒角鬼の咆哮が響いた。
低く。
腹の底まで震わせるような音。
その瞬間。
リーゼの耳に。
別の音が聞こえた気がした。
ざり。
ざり。
墓地。
自分の墓。
七行目。
昨夜は。
第七の死――
で止まった文字。
リーゼは。
胸当てを叩いた。
こん。
低い音。
墓と同じ。
つながっている。
だったら。
「ねえ、司祭」
「何でしょう」
「これ」
リーゼは胸当てを持ち上げる。
「壊したらどうなる?」
エノクの顔色が変わった。
アルドも。
目を見開く。
「お前」
リーゼは。
腰の道具袋へ手を入れた。
墓石を削るための。
鑿。
握る。
「七回目になる前に」
胸当てへ。
鑿の先端を当てる。
「生き返れない勇者にしてやる」




