第〇〇九六話 次世代魔王の拠点確保
一仕事終えたラゴンは、カミヤの鹿車を探した。ミリンのほうは、マフィアの主力を倒してしまっている。王都にはまだ、戦力的により小さいユニトータが蔓延っているものの、それだけでは動けはしないはずだ。なにしろミリンの周りは頼りになるマーガレッタや、ゲテモノ食らいだがゴードフロイなどが集結してきた。おそらく早々に王城へ引き揚げるだろう。
「 ── やっと帰ってきたようじゃ」
「あ、兄さん、こっちですよ」
王都に出入りする手続きを臨んで待機する、鹿車の駐車場の端で待ち続けた、ミツとタオ、御者を務めるカミヤから声がかかった。
「けっこう長かったなぁ、知り合いを見かけたってミツが言っておったが、見つかったのか?」
「あ、いや、見うし・なって‥‥」
「すぐに帰ってくりゃいいのに。またグズグズしてると、変なやつにつかまるぞ」
タオはユニトータの口から漏れた、『シンジケートのほうの主力』を心配しているのかも知れない。それは今片付けてしまったと思う。
とはいえそんな事件が起こったのは、まだここまで伝わっていないようだ。いや普通に考えて、王都内で殿下暗殺があったこと自体、国民に知らされるかどうか疑問と言えた。
ただ、あれほど大々的に行なわれたテロ事件なので、箝口令が敷かれても、ほどなく噂としては広まるだろう。裏の顔役を自他共に認めるタオには、噂くらいすぐにも入りそうだ。
「すみません、道に・迷って‥‥」
「タオさん、すいません。兄さんは方向音痴で ── あ、でも兄さん、これ」
差し出されたミツの手には、身分証があった。門を抜けてすぐに手続きは終えて行ったので、ラゴンを待っている間に手続きが終了したのだろう。
「あー・タオさん、すいません」
「いいってことよ。しかしまたしゃべりが ── うん他人目があるからか? まあいいじゃろう。お主たちには助けられておるしな」
「いやあ、たしかに。あんたらがいなかったら、俺らも危なかった。細かいことは言わないぜ」
なにか含んだようなカミヤのセリフだが、それは軽くかわしておく。
「ううん、たまたま。相手が弱かった」
「まあ、そういってくれりゃ、まきこんだ儂らも気まずくねえ。しかし、恩は変えさせてもらいたい。泊まるところがないんじゃな?」
「ううん、身分証・もらえたら、大丈夫」
「そうはいかねぇ、なにかさせてもらわんと‥‥」
「これも、もらってる」
ラゴンに、ドワーフの逸品と言われた、伸縮ゴルフクラブ ── 打撃匙を出させた。ラーゴは既成知識で、猿が振り回していた如意棒とかいう武器を彷彿とさせる、魔法道具はけっこうお気に入りである。
(─ 無詠唱でできるんだけど、『ノビロニョイボー』という詠唱呪文暗号をくわえてもいいかも)
「あたりまえじゃ。そいつぁ、お主が持ってたから、儂らの命も救ってもらえた。それをそんなにうまく、武器として使えるのはお主くらいじゃろう。これからも、護身用に持ってればいい。儂との仲間の印じゃ」
(─ まあ、それには千里眼と、結界の助けも必要なんですけどね)
そして帰り道、ミツに相談していたことを提案させる。
「ミツ」
「実は、わたしたちのほうからお願いがあるんですが」
「なんじゃ? 儂らでできることなら‥‥」
「はい。実は領地を出たとき、わたしたちの母から護身術と称して特別な訓練を受けた、女性数人と子供たちが後を追ってきています。その子供たちも一緒に住めるところを、お世話してもらえませんでしょうか? たとえば、昨日襲撃事件があった場所でもかまわないんですけど」
近隣住人のためにも、自分たちの組織がふたたび、くだんの事務所を使わないほうがいいというのは、タオも考慮していたようだ。ミツから自分たちも当面のお金はあるが、先のことも考えて、プレイする日にキャディもやらせてもらえるとよい。そんな水を向けている。今日の評判を思えば、ミツ同様のキャディがきてくれるのは嬉しいはずだ。
「そりゃ、手伝ってもらえたら、その人たちの身分保障もできるが‥‥」
などと悩んでいたようだが、ほどなく決断し、貸してくれる運びとなる。万が一のときは、ご近所に迷惑をかけないよう逃げてほしいと言うが、ラゴンたち程度に戦えるなら問題ないと判断したようだ。
「でラゴンたちは、いつごろあちらへ発つつもりなんじゃ」
それは ── 今日の襲ってきた様子から見れば ── 、共和国で音信不通になっている友人の、命もかかった問題であろう。タオは、心配で仕方ない、というのも理解できる。
「その子たちの身の振り方がついたら、なるだけ早くに行こうと兄さんは言ってます」
ここへ帰ってくるまで地図も見せてもらったし、ミツとは今後の予定とかをある程度打ち合わせておいた。
「すまねえな。じゃあそこはお互いさまってことで、自由に使ってくれたらいい。それと、女ばっかりじゃ不安じゃろう。うちから密かに何人か見張りにつけ、何かあったら助けに行くようにさせてもらうが」
「ありがとうございます。でも、大丈夫だと思いますよ」
「まあそういうわけには行かねえ。周りの住民にも迷惑かけないよう配慮するから、しばらく様子を見させてくれ」
ただし今晩は葬儀があるので、明日朝から引き払うとして、家が使えるのは午後以降になりそうだ。それでも根無し草の自分たちには、十分ありがたい。とりあえず、その日だけはタオの紹介で、一般的な宿を紹介してもらえることになった。コウモリも、一緒に泊まれるところらしい。
葬儀の準備もあって、タオたちとは紹介された宿の前で別れることになる。この時点ではタオには何の情報もないはずなので、マフィアの強襲も想定して、葬儀の防衛を強固なものにするようだ。タオの意識では、すでに屯所に届け出て、衛士もかなり出てくれると予想している。たしかに殿下襲撃も起きたため、おそらく厳戒態勢で行なわれるだろう。
紹介された宿では、カミヤが連絡済みだったようで、タオの客人ということもあって手厚く優遇された。ついでにチップを弾んで、二人には大きすぎる二間続きの部屋に変えてもらう。ここの設備は良心的な価格のわりに、行き届いた施設だ。聖泉こそひかれていないものの、魔法道具の備わったシャワールームが共用で利用可能らしい。
部屋に入ると、カマールの姿の親衛隊がどんどん集まってきた。そのころには、ラーゴの身も無事檻に返され、そろそろ日が暮れようとしている。
「窮屈だろうけど、今日はこのままでいてね。部屋がいっぱいになっちゃうし」
「わかりました、主様」
代表して返事したのは、ナオコだ。まとめ役として、クラサビがいないときは連絡の中心を担っている。さすがテレパスだ。
「今日はみんな、よく働いてくれたね。本当に助かったよ。それとありがとうミツ、戻ってくる間、みんなに魔力を補給してくれてたんだね」
「はい、役に立ってよかったです。とくにけっこう、ヤヤが消耗していましたから」
「でも、どうやって?」
「それは ── 秘密です」
と、少し顔を赤らめる。なぜだろうか?
人には言えない、授受方法があるのかと勘ぐってしまう。考えてみれば、自分も形だけ見るならディープキスだ。若い女の子感情としては、知られたくないこともあるのかも知れない。意識にも、ガードをかけているように見えた。
しかし、もらったヤヤのほうに反応がある。漫画で言えば『汗』って感じだ。失礼して覗いてみると、なるほど隠したいはずであった。どうやらミツの特殊能力である魔力授与は、赤ん坊におっぱいを与える要領で行なわれるらしい。人間なら乳腺にあたる部分には、付与可能な魔力が溜まるようになっている。
平民は通常、ブラジャーの役目をする下着は着けないらしい。つぶさないよう気をつければ、カマールのまま服の中に入れて吸わせるという形で行なえる。乳腺のある部分なら乳首でなくてもよいようで、同時に何匹も一度に吸えるから効率的だ。ほとんど魔力がなくなったとき、バストラインが貧相だった理由が分かったような気がした。
それなら、ラゴンの口にカマールを出入りさせるより目立たないだろう。つぶさないよう考えると、舌を持ち上げ、口を開けっぱなしにしておかないといけないのは、けっこうだらしない。クラサビが言うように、ミツへどんどん魔力を与えて、みんなまで分けてもらえると助かる。どこから魔力を分け与えているとしても、自分がもらう側ではないため、そこは気にとめないでいいだろうと思うラーゴ。
「主様。ところで、いただいた袋はどうしたらよろしいでしょう?」
「あー、ミツが集めた芝球か。たくさんあるから重いよね」
「はい、動くときに嵩張ります。お昼は助かりましたけど。これも一緒に幾つかいただいてきましたので‥‥」
ミツの手を見ると、カミヤから記念にともらった複数のグリーンフォークとティーだ。これならけっこうな数、ポケットに入れておけるし、投げてもサイキックで飛ばしても、十分な武器になるに違いない。芝球もポケットに入る程度 ── 三個以外は、すべて聖霊の金庫に放り込む。
念のため、必要なときに使っていいかとミツには了解を取っておいた。




