表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新訳 曽我物語 〜 復讐系なろうの原点、父を殺された兄弟の二十年の復讐譚 〜  作者: 条文小説


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/109

10-4 因果応報、処刑人の末路は『島流し』と『謎の病』。

挿絵(By みてみん)


 曽我物語そがものがたりは、鎌倉時代に富士野で起きた曾我兄弟の仇討ちを題材にした軍記物風の英雄伝記物語。作者・成立年ともに不詳。後年、能や歌舞伎などの演劇や物語・小説の題材となり人気を博し、文芸界に「曽我物」と呼ばれるジャンルを築いた。「日本三大仇討ちもの」の一つとされる 出典:Wikipedia

 物語の舞台は建久四年。富士の裾野で巻き起こった日本史上もっとも有名な復讐劇、「曾我兄弟の仇討ち」は、ついにその血塗られた幕を下ろした。


 しかし、物語には続きがある。英雄たちが命を散らした後に残された、残酷なまでの「報い」と、主君の遺品を抱えて故郷へと走る従者たちの「忠義」。


 「――伊豆の二郎の奴、なんて無様な真似を!」


 鎌倉の街は、一つの噂でもちきりだった。


 曾我五郎時致の処刑を執行した伊豆二郎祐兼が、あろうことか「手際が悪い」振る舞いをしたというのだ。


 これを聞いて黙っていなかったのが、鎌倉随一の「ガチ勢」武将、畠山重忠である。


「五郎ほどの英雄の最期なら、この重忠が賜り、我が家の重代の刀で誇り高く送ってやるべきだった。それを、あんな不覚者の伊豆二郎などに任せるとは……。なんと口惜しいことか!」


 源頼朝(鎌倉殿)も、重忠の言葉を聞いて顔をしかめた。


「……そんな不覚者だったとはな。誰でもいいから任せれば良いというものでもなかったか」


 結果、伊豆二郎は頼朝の怒りを買い、最果ての地、奥州・外ヶ浜へと流刑に処された。そしてその年の九月。彼は原因不明の「悪しき病」に侵され、わずか二十七歳で命を落としたのである。


 人々は口々に囁き合った。


「これは五郎の怨念、あるいは因果応報というやつだ……」


 五月に五郎が斬られ、九月に処刑人が逝く。あまりにも出来すぎた因果のループに、鎌倉中の人々が戦慄した。


 一方その頃。兄弟に「生きて帰れ」と命じられた二人の忠臣、鬼王おにおう道三郎どうざぶろうは、富士の裾野から曾我の里を目指して馬を飛ばしていた。彼らの腕の中には、主君から託された「次第の形見」がある。だが、その足取りは重い。


(……もし、もし若殿たちが無事に世に出られる日が来たなら、我らこそが真っ先に側でお仕えするはずだったのに)


 幼い頃から我が子のように育て、守り、仕えてきた。その未来が、あの一夜ですべて断ち切られたのだ。二人は道の途中で幾度も足を止め、富士の空を振り返っては、人目も憚らず泣き崩れた。


 「……見ろ、道三郎」


 振り返った富士の夜空には、無数の松明の火が走っていた。それはまるで、仏教の儀式である「万燈会まんどうえ」のような、この世のものとは思えない光景。


「……始まったんだな。若殿たちの『本意』が」


 火の光が激しく揺れ、次第に消えていく。その光の明滅が、主君の命の灯火と重なって見えた。二人は地面に倒れ伏し、声を限りに泣いた。馬までもが、主との別れを察したのか。富士の空を見上げて、二度、三度と、悲しげにいなないた。


 「――おい、そこの者! 待て!」


 山道を進む二人の後ろから、一人の使いの者が急ぎ足でやってきた。道三郎は必死に袖を控え、問いかける。


「富士の屋形で何が起きた! あの松明の群れは一体何だったのだ!」


 使いの者は足を止め、興奮した様子で語り始めた。


「……知らないのか! 曾我の十郎・五郎という兄弟が、親の仇である工藤祐経殿を討ち取ったのだ!


 それだけではない。兄弟は頼朝様の御所(本陣)まで切り入り、向かうところ敵なし。日本中の侍たちがなぎ倒され、死傷者は二百、三百にも上るという。……まさに天魔、あるいは鬼神の暴れっぷりだ!」


「……だが、兄の十郎殿は夜半に討死。弟の五郎殿は、明け方に生け捕られた。この大事件を、大磯の虎御前の妹・亀鶴が、姉に知らせるために俺を走らせているのだ。じゃあな、急ぐんで!」


 使いの者は風のように去っていった。


 「……やり遂げられた。若殿たちは、やり遂げられたのだな」


 二人は、悲しみの中に灯った一筋の光、いや、巨大な「勝利」の知らせに震えた。二人の若者が、十万の軍勢を相手に暴れ回り、ついに十七年の宿願を晴らした。


「行こう、道三郎。この形見を、一刻も早く母上に届けなければ」


 二人は涙を拭い、再び馬の口を引いた。彼らが運ぶのは、単なる遺品ではない。日本一の勇士として歴史に名を刻んだ、曾我兄弟の「誇り」そのものだったのだから。




曾我物語 巻第十 (明治四十四年刊 國民文庫本)




 〔伊豆いづ二郎じらうながされしこと


 さても、悪事千里をはしならひにて、伊豆いづ二郎じらう未練みれんなりと、鎌倉かまくらぢゆう披露ひろうりければ、秩父ちちぶ重忠しげただ御前ごぜんにてことき、「曾我そが五郎ごらうをば、重忠しげただたまはりて、重代ぢゆうだいのかうひらにて、ちゆうさうらふべきを、不覚ふかく第一だいいち伊豆いづ二郎じらうくだたまはりて、かはゆき次第しだいうけたまはり、口惜くちをしさよ」とまうされければ、君聞こしし、「斯様かやう不覚人ふかくじんにてるべくは、誰にてもおほけらるべきものを」とて、伊豆いづ二郎じらうは、御不審ふしんをかうふり、奥州あうしう外浜そとのはまながされしが、幾程いくほどくて、しきやまひけて、たう年の九月に二十七歳さいにしてせにけり。これひとへに、五郎ごらういきどほりむくふところにやと、口びるをかへさぬはかりけり。時致ときむねは、五月にられければ、祐兼すけかねは、九月にせにけり。不思議ふしぎなるためし因果いんぐわ歴然れきぜんとぞえける。


 〔鬼王おにわう道三郎だうざぶらう曾我そがかへりしこと


 此処ここに、の人々の二人の郎等らうどう鬼王おにわう道三郎だうざぶらうは、富士の裾野すその井出ゐで屋形やかたより、次第しだい形見かたみり、曾我そがの里へぞいそぎける。れども、しみし名残なごりなれば、こころあとにぞとどまりける。にや、幼少えうせうよりそだたてまつり、にもたまはば、我々ならでは、誰かるべきと、人もおもひ、われまたたのもしかりつるに、斯様かやうたまひしかば、したひあくがれしもかなはで、曾我そがへぞかへりける。おもひのあまりに、みちほとりにしばしやすらひ、富士野ふじのそらかへりみしかば、松明たいまつおほはしり、ただ万燈会まんどうゑごとし。いまこそことぬるとえければ、きみ御命おんいのち如何いかがわたらせたまふらんと、こころもとかぎし。ただ二人坐しませば、大勢おほぜいめられ、如何いかひましますらん、今は御身おんみつかたまふらんとおもへば、はしかへりて、御最後さいごたてまつらまほしきも、へだたりぬれば、かなはず、ただくよりほかことき。しばらりて、たい松の数も、次第しだいすくなくり、ひかりも、うすくけば、きみ御命おんいのちもかくやと、ひかりも、名残なごりしくおもひければ、道のたふし、声もしまずたり。馬も、しやうものなれば、人々のわかれをやしみけん、富士野ふじのそらかへりみて、二三度さんどまでぞいばへける。さてるべきにあらざれば、をちこちのたづきもらぬ山中に、覚束無おぼつかなきは、富士野ふじのなり。むなしきこまの口をき、古里ふるさとへとはいそげども、きもられぬ山道の、すゑもさだかにえわかず。此処ここに、人の使つかひとおぼしくて、ふみちたるものあとよりいそたる。道三郎だうざぶらう、袖をひかへて、「での御屋形やかたには、今宵こよひ何事なにごとりければ、松明たいまつかずさうらひつる」とひければ、「ればこそとよ。たまはずや。曾我そがの十郎・五郎ごらう殿どのふ人、兄弟きやうだいして、一族いちぞく工藤くどう左衛門さゑもんじよう殿どのを、おやかたきとてたまひぬ。あまつさへ、御所ごしよの内までりて、日本国につぽんごくさぶらひどもの、られぬものさうらはず、手負ておひ死人しにん二三百人もさうらふらん。れども、あに十郎じふらうは、夜半やはん討死うちじにたまひぬ。おとと五郎ごらう殿どのは、あかつきおよび、生捕いけどられたまひき。の人々の振舞ふるまひは、天魔てんま鬼神きじんのあれたるにや、かるおびたたしきことこそさうらはざりつれ。斯様かやうことを、大磯おほいそ虎御前とらごぜんいもうと黄瀬川きせがは亀鶴かめづる御前ごぜんより、大磯おほいそげさせたまおん使つかひなり」とて、はしとほりけり。二人のものどもきて、しそんたまふべしとはおもはねども、一期いちご大事だいじなれば、こころもとおもたてまつりしに、何事なにごと本意ほんいたまひぬるよと、なげきのなかよろこびにて、次第しだい形見かたみを面々にたてまつり、

〜参考記事〜

国民文庫「曾我物語」明治44年 / 菊池眞一研究室

https://share.google/uMQE6XFcSP1zbLr1W


〜舞台背景〜

 この作品では原典を併記していますが、これがなかなか厄介で、原文の体裁を、ストーリーを考える数倍の手間を掛けて整えています。

 せっかくなので、小説と原文を見比べながら、原典の迫力や雰囲気を感じてもらえたらと思います。この原文併記という形式は教科書はまだしも小説ではあまり見ない試みです。もし面白い試みだなと思って頂けたら☆5とは申しませんが、☆3〜4くらい頂けると嬉しいです。

 逆に「ウ~ン」と思われた方は、遠慮なく☆1で意思表示して頂ければ率直なご意見として謹んで承りたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新訳 三河物語 〜 徳川家康と家臣団の戦国サバイバル 〜 with 逆行転生犬シロ
新訳 北条五代記 〜 近所の隠居が書いたメモがガチの戦記だった件〜
美しき女帝 北条政子 〜 婚約破棄どころか強制結婚!? 平家のエリートに嫁がされそうになったので、豪雨の山を越えて愛する無職の元へ走ってみた 〜
新訳 曽我物語 〜 復讐系なろうの原点、父を殺された兄弟の二十年の復讐譚〜
箴言・格言・名言集 〜頑張るあなたへ、今日を乗り越えるための一言〜
拝啓、愛読者様。― 想いを少しだけ 謹呈 条文小説
六道輪廻抄 〜 戦国転生記 〜
コミックス「六道輪廻抄〜戦国転生記〜」
動画生成AIが作成したイメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
動画生成AIが作成したなろう小説イメージビデオ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ