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新訳 曽我物語 〜 復讐系なろうの原点、父を殺された兄弟の二十年の復讐譚 〜  作者: 条文小説


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75/109

8-1 譲り受けた源氏重代の神器

挿絵(By みてみん)


 曽我物語そがものがたりは、鎌倉時代に富士野で起きた曾我兄弟の仇討ちを題材にした軍記物風の英雄伝記物語。作者・成立年ともに不詳。後年、能や歌舞伎などの演劇や物語・小説の題材となり人気を博し、文芸界に「曽我物」と呼ばれるジャンルを築いた。「日本三大仇討ちもの」の一つとされる 出典:Wikipedia

 建久四年。復讐の舞台となる「富士の巻狩り」決行当日。


 曾我十郎祐成と五郎時致の兄弟は、母との涙の和解を経て、ついに最終チェックポイントへと到達した。


 関東第一の霊場、箱根山。後ろには険しい山々がそびえ、前には煩悩を洗い流す生死の海が広がる。文殊師利菩薩が衆生を導くというその聖域は、かつて五郎が稚児として過ごし、復讐の刃を研ぎ澄ませた修行の地でもあった。


 今回は、兄弟が恩師である箱根別当に告げた「命懸けの暇乞い」。そして、別当から授けられた「源氏・平氏の歴史を塗り替えてきた伝説の武器」の正体について語ろう。


 箱根の山道、冷涼な空気が兄弟の頬を打つ。五郎時致は、かつて自分がいた坊の前に立ち、静かに手を合わせた。


「……帰命頂礼。どうか、俺たちを浄土へ導いてください。十一歳でこの山に来てから今日まで、父上の供養とこの復讐のために、毎日三巻の『観音経』を欠かさず読んできました。……どうか、その功徳を今夜の力に」


 五郎にとって、ここは単なる修行の場ではない。毎日欠かさず続けたルーティン――それは、復讐という大願を成就させるための儀式だった。


 そこへ、山を統括する最高責任者、箱根別当・行実ぎょうじつが現れた。彼は兄弟の顔を見るなり、すべてを悟ったような悲しげな瞳で微笑んだ。


「……よく来たな、十郎。そして時致。立派な男になったものだ」


 別当は彼らを奥へと招き入れた。十郎は努めて「巻狩りの見物に来たついでです」と装うが、別当は首を振った。


「よそよそしい芝居はやめなさい。お前たちの心にあるもの、私は最初からすべて知っている。……恨みなどあるはずがない。むしろ、お前たちの志を不便ふびんに、そして誇らしく思っているのだよ。……私がもしあと二十年若ければ、袈裟けさを脱ぎ捨てて、お前たちの『千騎万騎の援軍』となって駆けつけたものをな」


 別当は墨染めの袖で顔を覆い、さめざめと泣いた。師の深い愛情に触れ、十郎と五郎もまた、堪えていた涙を流した。


「……師匠。ありがとうございます。……俺たちは今から、富士へ向かいます。生きて帰ることはありません。……どうか、最期の祈祷をお願いいたします」


「承知した。……ならば、お前たちの門出にふさわしい『贈り物』を授けよう」


 別当がまず十郎に差し出したのは、一振りの鞘巻さやまきだった。


「十郎、これを持っていけ。名を『微塵みじん』という」


 『微塵みじん』の由来は木曾義仲が所持していた三つの至宝(龍王の長刀、雲落としの太刀、そしてこの短刀)の一つであり、特性は通らぬ物なし。あらゆる装甲を紙のように切り裂く。


 義仲の嫡男・清水冠者が頼朝への人質として鎌倉へ向かう際、必勝を祈願して箱根に奉納したエピソードがある。


「この刃に斬れぬものはない。敵の鎧を微塵に砕き、本懐を遂げなさい」


 次に別当が五郎に差し出したのは、重厚な「兵庫鎖ひょうごくさり」の太刀だった。その刀身から放たれるプレッシャーは、これまでの武器とは一線を画していた。


「時致。……お前にはこれだ。かつて源頼光、頼義、義家……名だたる源氏の英雄たちが継いできた『源氏重代の太刀』だ」


 五郎はその太刀を手に取り、息を呑んだ。この太刀には、あまりにも禍々しく、そして華々しい「名称変更の歴史」があった。


■太刀『友切ともきり』の進化系統図

【当初:蝶丸ちょうまる】 ―― 頼光が唐の鍛冶師に作らせた二尺八寸の傑作。

【進化:虫ばみ】 ―― 抜くだけで周囲の虫の羽が斬り落とされたことから命名。

【進化:毒蛇どくじゃ】 ―― 頼義の枕元に現れた九尋(約16m)の大蛇を、刀が独りでに抜けて四つに斬り捨てた。

【進化:姫切ひめきり】 ―― 源義家を川へ引きずり込もうとした宇治の橋姫(鬼女)の腕を、自動迎撃で斬り落とした。

【最終形態:友切ともきり】 ―― 源為義が、自分より六寸長い別の太刀と並べておいたところ、夜中に喧嘩して相手を六寸斬り落とし、自分と同じ長さに(友に)してしまった。


「……この太刀はその後、九郎判官義経が鞍馬山から盗み出し、奥州の強盗十二人を一人で斬り伏せた時にも使われた『高名の太刀』だ。……今は、縁あってこの箱根にある」


 別当は真剣な表情で五郎を見据えた。


「もし、これを奪ったことが鎌倉殿にバレて『狼藉者め!』と不審がられたら、こう言いなさい。『京都の四条の町で適当に買ったものです』とな。……いいか、この刀がお前の『志』を完遂させてくれるはずだ」


 「……師匠。……必ず、やってみせます」


 五郎は腰の新たな太刀の感触を確かめ、深く頭を下げた。十郎もまた、短刀を懐に納める。

 

 師匠との三三九度の盃。それは、この世での最後のご馳走だった。別当は縁側まで立ち出て、馬を飛ばして去っていく兄弟の背中を、いつまでも、いつまでも、涙ながらに見送っていた。


「……ああ。あの子たちが帰ってきた時、私はどんな顔で迎えてやればいいのだ……」


 師匠の祈祷バフを受け、伝説の武器という名の「神器アイテム」を手にした曾我兄弟。彼らはもはや、ただの浪人ではない。


 源氏の歴史を象徴する刃をその身に宿した、最強の復讐者へと進化したのだ。駒に鞭を打つ。三島が近づき、富士の裾野が見えてくる。

 

 建久四年五月二十八日、夜。降りしきる雨、轟く雷鳴。ターゲット、工藤祐経の寝所まで――あと、わずか。




曾我物語 巻第八(明治四十四年刊 國民文庫本)




 〔箱根にて暇乞いとまごひこと


 そもそもの箱根山とまうすは、関東くわんとう第一だいいち霊山れいさんなり。うしろには、高山かうざん峨々とつらなりて、真如しんによ月影かげ宿やどす。前には、生死しやうじの海漫々として、波煩悩ぼんなうあかをすすげば、無始むし罪障ざいしやう消滅せうめつすとおぼえたり。本地文殊師利菩薩ほんぢもんじゆしりぼさつ衆生しゆじやう化度けどたまへば、有為うゐみやこ名付なづけたり。れば、一度縁えんむすものは、ながく悪所にとさじとちかたまことたのもしくぞおぼえける。の人々は、御前おんまへまゐり、「帰命きみやう頂礼ちやうらいねがはくは、浄土じやうどかへたまへ。時致ときむね十一より、の御山にまゐり、いまいたるまで、毎日まいにち三巻さんぐわんづつ、普門品ふもんぼんおこたらずたてまつるも、ただためなり。あはれみたまへ」と念誦ねんじゆして、別当べつたうばうへぞきたりける。 行実ぎやうじつ、やがてたまひて、いにしへ今の物語ものがたりたまふ。「をとこになりたまへばとて、むかしはりておもふべきにあらず、御身おんみこそよそがましくしたまへ、面々の心中しんちゆうはじめよりくはしくりてさうらふぞ。あはれにのみこそおもたてまつれ。如何いかでかうらまうすべき。人にたのまるることは、在家ざいけ出家しゆつけによるべからず、愚僧ぐそうも、年だにわかさうらはば、などかはたよりにならざるべき」とて、墨染すみぞめの袖をかほて、さめざめとたまへば、十郎じふらううけたまはり、「御意ぎよいは、かしこまりさうらどもさら野心やしんさうらはず。時宗も、の後、やがてまかり上り、をとこりてさうらおこたりをもまうすべきにてさうらひしを、ははには不孝ふけうせられさうらひぬ。またおそれをなしたてまつゆゑ、今におそなはりさうらふ」。別当べつたうたまひ、「祈祷きたうたのもしくおもたまへ。千騎万騎の方人かたうどおぼせとて、さけだして、三三九度すすめたまひつつ、 「なにもつてか、方々の門出かどいでいははん」とて、鞘巻さやまき一腰こしだし、十郎じふらうかれけり。「かたなまうすは、木曾きそ義仲よしなか三代相伝さうでんとて、つのたからり。第一だいいちに、竜王りゆうわう作の長刀なぎなた第二だいにに、雲落としとふ太刀、第三に、刀也なり。名をば微塵みぢんふ。とほらぬ物無ければなり。れば、つのたから秘蔵ひさうしてたれたり。御子清水きよみづ御曹司ざうし鎌倉かまくら殿どのむこになりたまひて、くに大将軍たいしやうぐんたまはりて、海道かいだうめ上りたまさうらよしこえければ、たからいのりのためとて、の御山へまゐらせらる。宝殿ほうでんことは、一向いつかう別当べつたうはからひたるにりて、これ御分ごぶんたてまつる。高名かうみやうたまへ」とて、かれけり。五郎ごらうには、兵庫鎖ひやうごくさり太刀たち一振だし、かれけり。「太刀たちまうすは、むかし頼光らいくわう御時とき大国たいこくよりぶあく大夫たいふ莫耶ばくやし、三ケ月につくらせ、一月にみがかせ二尺しやく八寸すんだす。秘蔵ひさうなら物無くしてたれける。とき太刀たちを枕にたてられしときにはかに雨風ふきて、太刀たちをふきうごかしければ、刃風はかぜに、そばなりける草紙さうし三帖でうかみ数七十枚まいきれたりけり。頼光らいくわう、てうかと名付なづけてたれたり。れより、河内守かはちのかみ頼信よりのぶのもとへゆづられぬ。れにての不思議ふしぎに、太刀たちをぬかれければ、四方しはう五段たんぎりのむしも、つばさもきれちにければ、むしばみとぞけられける。れより、頼義らいぎのもとへゆづられたり。れにての不思議ふしぎには、折々御所ごしよぢゆう震動しんどうして、人死にうすること、度々なり。とき頼義らいぎ太刀たちまくらにたてられしに、れいごとくに、雷電らいでんはげしくして、御所ごしよぢゆうさわがし。太刀たちおのれとぬけでて、大地だいぢ一丈いちぢやうそこり、かる悪事仕つかまつ大蛇だいじや尾頭をかしら九尋いろりけるを、つにこそはりたりける。の後よりぞ、御所ごしよぢゆう狼籍らうぜきとどまりける。あやしみて、あとたづたづねてたまへば、かる不思議ふしぎをしたりければ、毒蛇どくじや名付なづけて、たれたり。れよりして、八幡はちまん殿どのゆづられける。れにての不思議ふしぎには、ころ宇治うぢ橋姫はしひめの、あれて人をると。夕暮ゆふぐれに、八満はちまん殿どの宇治うぢまゐられけるに、人のまうすにたがはず、かわみづ波しきりにして、十八九計ばかりなる美女びぢよ一人、はしの上にがりて、八満はちまん殿どのむまよりいだきろし、かわなかれんとす。太刀たちおのれとぬけでて、橋姫はしひめ弓手ゆんでかひなとす。ちからおよばず、かはりぬ、れより、宇治うぢ狼籍らうぜきとどまりけり。しかれば、太刀たち姫切ひめきり名付なづけて、たれたり。れより、六条ろくでう判官はんぐわん為義ためよしのもとへゆづられたる。れにての奇特きどくには、太刀たち六寸ろくすんばかりまさりたる太刀をへてかれたり。りぬれば、ひける。判官はんぐわんよしたまひて、かねてよりようものをとて、五夜までこそへてかれけれ。五夜のあひだ隙無たたかひて、六夜とまうすに、すんまさりたるを、やすからずとやおもひけん、あま六寸ろくすんとす。れば、友切ともきり名付なづけて、たれたり。源氏げんじ重代ぢゆうだいにもつたふべかりしを、保元ほうげん合戦かつせんに、為義ためよしられたまひ、嫡子ちやくし左馬頭さまのかみ義朝よしともわたりけるに、仏法ぶつぽふ守護しゆごの仏とて、鞍馬くらま毘沙門びしやもんたまふ。れども、ぎにし合戦かつせんに、ちちたまひしかば、多聞たもんけずやおぼしけん、合戦かつせんけ、東国とうごくしてたまふ。尾張をはりくに知多郡ちたのこほり野間のま内海うつみところにて、相伝さうでん家人鎌田兵衛かまだびやうゑ正清まさきよしうと長田をさだ四郎しらう忠致ただむねたれたまひて後、つたふべき人無かりしに、義朝よしともすゑ子九郎判官はんぐわん殿どのいま牛若殿うしわかどのにて、鞍馬くらま東光坊とうくわうばうのもとに、学問がくもんして御座おはしけるが、如何いかにしてたまひけん、折々、毘沙門びしやもんまゐり、「帰命きみやう頂礼ちやうらいねがはくは、父義朝よしともの太刀、の御山にめられてさうらふ。ちち形見かたみに、一目ひとめせしめたまへ」と、祈念きねんまうされければ、多聞たもんあはれとやおぼしけん、太刀たちくだたまふと、夢想むさうかうぶり、よろこびのおもひをなし、いそまゐりてたてまつたまへば、うつつ御戸ひらき、太刀有り。ぬすだし、ふかかくきて、十三になりたまひけるとし相伝さうでん郎等らうどう奥州あうしう秀衡ひでひらたのみ、商人あきんどともなひて、くだたまひけるに、美濃みのくに垂井たるゐの宿にて、商人あきうどたかららんとて、夜討ようちおほりたりしかども、おきあふものかりしに、牛若殿うしわかどの一人おきひ、究竟くつきやうつはもの十二人切とどめ、八人におほせて、おほくの強盗がうだうかへす、高名かうみやうしたる太刀也なりとて、奥州あうしうまで秘蔵ひさうせられけるに、十九のとし兵衛佐ひやうゑのすけ殿どの謀叛むほんこしたまふとこしし、鎌倉かまくらに上り、見参げんざんり、幾程いくほどくして、西国さいこく大将軍たいしやうぐんにて、発向はつかうせられけるに、今度こんど合戦かつせんちかたせたまへとて、の御山へまゐらせられたまひてさうらふ。自然しぜん僻事ひがことだしさうらひて、かみよりおんたづねあらば、法師ほふし御辺へんたてまつりて、狼籍らうぜきなりと、御不審ふしんあらんときは、きやうのぼり、四条町でうまちにてかひりたるよしまうさるべし。御分ごぶんをとこになりたまへば、今は見参げんざんにはりたくはけれども、こころざしおもられて、あはれなるぞとよ。祈祷きたうたのもしくおもたまへ。法師ほつしいきかよはんほどは、明王みやうわうたてまつらんに、なにうたがひかるべき」とのたまひける。時致ときむねうけたまはりて、「おほかたじけなけれどもさら野心やしんさうらはず。御不審ふしんでう、もつともにてさうらへども、おそたてまつりてまゐらぬなり。狩場かりばよりのかへりには、まゐるべくさうらふ。又は、おぼはすることさうらひなん」とて、まかち、らぬていにはもてなせども、いまかぎりなれば、しのびのなみだながしける。別当べつたうも、えんまでたまひて、はるばるおくりつつ、名残なごりしくぞおもはれける。兄弟きやうだいの人々は、こまむちげて、いそがれけるほどに、三島みしまちかり、

〜参考記事〜

国民文庫「曾我物語」明治44年 / 菊池眞一研究室

https://share.google/uMQE6XFcSP1zbLr1W


〜舞台背景〜

 この作品では原典を併記していますが、これがなかなか厄介で、原文の体裁を、ストーリーを考える数倍の手間を掛けて整えています。

 せっかくなので、小説と原文を見比べながら、原典の迫力や雰囲気を感じてもらえたらと思います。この原文併記という形式は教科書はまだしも小説ではあまり見ない試みです。もし面白い試みだなと思って頂けたら☆5とは申しませんが、☆3〜4くらい頂けると嬉しいです。

 逆に「ウ~ン」と思われた方は、遠慮なく☆1で意思表示して頂ければ率直なご意見として謹んで承りたいと思います。

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