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新訳 曽我物語 〜 復讐系なろうの原点、父を殺された兄弟の二十年の復讐譚 〜  作者: 条文小説


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2-4 潜龍の脱出、信じられるのは敵の息子だけ

挿絵(By みてみん)


 曽我物語そがものがたりは、鎌倉時代に富士野で起きた曾我兄弟の仇討ちを題材にした軍記物風の英雄伝記物語。作者・成立年ともに不詳。後年、能や歌舞伎などの演劇や物語・小説の題材となり人気を博し、文芸界に「曽我物」と呼ばれるジャンルを築いた。「日本三大仇討ちもの」の一つとされる 出典:Wikipedia

 かつて源氏と平氏が覇を競い、平家の栄華が頂点に達していた時代。伊豆の地に流された源頼朝の周囲では、一族の執念が絡み合い、歴史を揺るがす「暗殺計画」が実行されようとしていた。


 愛する我が子・千鶴を殺され、愛する女性を奪われた頼朝。だが、伊東祐親の怒りはそれだけでは収まらなかった。


 伊東祐親いとうすけちかという男は、もはや正気ではなかった。平家への恐怖が、彼を「狂気」という名の深淵へと叩き落としていたのだ。


「源氏の種は、根絶やしにせねばならん。千鶴を殺しただけでは足りぬ。……今夜、頼朝を夜討ちにする」


 祐親は密かに郎等を招集し、暗殺の準備を進めた。だが、この暴挙に異を唱える者が、身内にいた。祐親の次男、伊東九郎いとうのくろう祐清すけきよである。


(父上は、取り返しのつかないことをしようとしている……!)


 祐清すけきよは闇に紛れ、頼朝の居所へと走った。


 そこには、何も知らずに静かな夜を過ごしている、かつての義兄――源頼朝の姿があった。


「――すけ殿! 今すぐここをお逃げください!」


 祐清は息を切らしながら、頼朝の前に平伏した。


「私の父、祐親が……物に狂ったように、貴方様を討とうと兵を催しております。一刻の猶予もありません。どこへでも、お隠れください!」


 だが、頼朝は動かなかった。その瞳には、冷徹な疑いの色が浮かんでいる。頼朝は、かつて古典に読んだ『長沙王』の悲劇を思い出していた。


 (……歴史は繰り返す。王が害されたのは、微笑みの裏にある刃に気づかなかったからだ。人は、笑いながら刀を抜くもの。ましてや、私を殺そうとしているのは父であり、それを告げに来たのはその息子。……これは、私を誘い出して仕留めるための、巧妙な罠ではないのか?)


 頼朝は、祐清をじろりと睨みつけ、静かに言い放った。


「祐清よ。本気で私を殺すつもりなら、どこへ逃げても同じことだ。だが、見苦しく逃げ回って人手にかかるよりは、マシな死に方がある。……いっそ今ここで、お前が私の首を取れ。そして父である入道に見せ、忠義の証とするがいい」


 祐清は、頼朝の疑いを聞いて震え上がった。無理もない。この乱世、親子ですら殺し合う時代だ。ましてや敵対する一族の警告など、罠だと思って当然である。


「……仰せの通り、人の心ほど語り難いものはございません。蜂を衣に忍ばせて毒を盛るような、偽りの計略が渦巻くのがこの世の常。貴方様が私を疑うのも、当然の道理です」


 祐清は、頼朝の目を真っ直ぐに見据えた。そして、腰の刀を抜き、自らの喉元へ寄せた。


「ならば、私はこの国を統べる伊豆・箱根の大明神にかけて誓いましょう! 弓矢の冥加を長く失い、私は今ここで、貴方様の前で命を絶ちましょう。不忠な偽りがないことを、この祐清の死をもって証明いたします!」


「――よせ、祐清」


 頼朝の手が、祐清の腕を掴んだ。祐清の瞳には、打算など微塵もなかった。あるのは、ただ一つの純粋な「誠実」だけだ。頼朝は、ようやくその手を離し、小さく息を吐いた。


「……信じよう。お前のその志、無駄にはせぬ。では、どうすればいい?」


 祐清は、素早く頭を回転させた。


「準備はできております。藤九郎 盛長もりながと、弥三郎 成綱なりつなの二人は、この館に留めてください。彼らが貴方様のふりをして、しばらく時間を稼ぎます」


デコイを立てるのか」


「はい。貴方様は、名馬『大鹿毛おかげ』にお乗りください。従者は鬼武おにたけ一人のみ。身軽な格好で、北条の館を目指して忍び出すのです。……あそこには、北条時政殿がおります。父の支配が及ばぬ場所は、そこしかありません」


 祐清は立ち上がり、最後のアドバイスを口にした。


「……討手が来るまで、私が父を足止めします。事態をできるだけ引き延ばしてみせましょう。さあ、一刻も早く!」


 祐清はそう言い残すと、夜の闇へと消えていった。


 頼朝は、大鹿毛の背にまたがった。側に控えるのは、忠実な稚児、鬼武。


「主君、行きましょう」


「……ああ。伊東祐清……。お前のこの恩、いつか必ず報いよう」


 頼朝は、かつて自分が愛した女性と、愛した子が眠る伊東の地を振り返ることなく、馬の腹を蹴った。闇を切り裂く蹄の音。それは、平家への反旗を翻すための、長い長い「反撃」の第一歩。


 背後では、伊東祐親の兵たちが、何も知らずに空っぽの寝所を包囲しようとしていた。そしてその中心には、父の目を欺きながら、主君の無事を祈る祐清の姿がある。


親子でありながら敵対し、敵対しながら守り合う。

坂東武者たちの、あまりにも複雑で、あまりにも熱い「義」の物語。


 頼朝が北条の館に辿り着き、そこで運命の女性、北条政子と出会うまで――歴史の秒読みは、もう止まらない。




曾我物語 巻第二 (明治四十四年刊 國民文庫本)




 〔頼朝よりとも伊東いとうたまこと


 あまつさへ、すけ殿どのをも、夜討ようちにしたてまつらんとて、郎等らうどうもよほしける。此処ここに、祐親すけちか次男じなん伊東いとう九郎祐清すけきよふものり。ひそかにすけ殿どのまゐり、まうしけるは、「おやにてさうら祐親すけちかこそ、ものくるさうらひて、きみたてまつらんとつかまつさうらへ。何処いづくへもおんしのさうらへ」とまうしければ、頼朝よりともこしし、ちやうさいわうが、がいにあひしも、いつはことらでなり、ゑみのうちかたなをぬくは、ならひなり、人のこころがたければ、君臣くんしん父子ふし、いをもつておそるべし、いはんや、たんとするは、おやなり、らするは、なり、方々(かたがた)、不審ふしんおぼえたり、いかさま、われをたばかるにこそとて、ちとけたまことし。「まことおもけられなば、何処いづくきてものがるべきか。れども、左右さう自害じがいするにおよばず、人手ひとでにかからんよりは、なんぢはや頼朝よりともくびりて、ちち入道にふだうせよ」とおほせられければ、祐清すけきようけたまはりて、「おほせのごとく、かたらひがたき人のこころにてさうらふ。はちりて、ころもくびかへして、親子しんしこころたがひしも、いつはるたくみなり。きみおぼすも、御理ことわりまこと御志おんこころざしとはおぼさずして、いしやうのはう、もつともおんうたがひ、ことわりなり。かたじけなくも、不忠ふちゆうまうさうらはば、当国たうごく二所にしよ大明神だいみやうじん御罰ばちかうぶり、弓矢ゆみや冥加みやうがながき、祐清すけきよいのち御前ごぜんにてはてさうらひなん」とまうしければ、すけ殿どのこしし、おほきにおんよろこりて、「斯様かやうらするこころざしならば、如何いかにもよきやうあひはからひさうらへ」とおほせければ、祐清すけきようけたまはりて、「とう九郎盛長もりなが弥三郎やさぶらう成綱なりつなをば、きみ御座やうにて、しばらこれかれさうらふべし。きみは、大鹿毛かげされて、鬼武おにたけばかりし、北条ほうでうおんしのさうらへ」とまうきて、「御討手うつてもやまゐさうらはん、ことをのばしさうらはん」とて、いそ御前ごぜんちにけり。

〜参考記事〜

国民文庫「曾我物語」明治44年 / 菊池眞一研究室

https://share.google/uMQE6XFcSP1zbLr1W


〜舞台背景〜

 この作品では原典を併記していますが、これがなかなか厄介で、原文の体裁を、ストーリーを考える数倍の手間を掛けて整えています。

 せっかくなので、小説と原文を見比べながら、原典の迫力や雰囲気を感じてもらえたらと思います。この原文併記という形式は教科書はまだしも小説ではあまり見ない試みです。もし面白い試みだなと思って頂けたら☆5とは申しませんが、☆3〜4くらい頂けると嬉しいです。

 逆に「ウ~ン」と思われた方は、遠慮なく☆1で意思表示して頂ければ率直なご意見として謹んで承りたいと思います。

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