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『十五階の迷宮 ――神の家から出られない』  作者: こうた


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第6話 神の家



――ガチャ。


鍵の開く音がした。


誰も動かなかった。


十五階。


この巨大な屋敷に、本当にそんな階が存在するのか。


神崎が扉の前に立つ。


「俺が先に行く」


「待って」


とおるが呼び止めた。


「入らない方がいいんじゃないか」


神崎は振り返った。


「そう思う理由は?」


「……分からない」


とおるは扉を見る。


「でも、あそこから聞こえた声は、俺たちを助けようとしてた」


「だから?」


「だから……罠じゃない気がする」


ゆうこが頷いた。


「私も、とおると同じ」


ひとみは腕を組んだ。


「私は反対。ここまで異常なことが起きてるのに、声だけ信用する理由がない」


「私も」


ジェシカが即答した。


「十五階とか絶対おかしいって。普通の家じゃないもん」


まなみは扉を睨んでいた。


「私は……入ってもいい」


全員が彼女を見る。


「この家から出る方法を探すなら、上を調べるしかない」


「危険だぞ」


神崎が言う。


「分かってる」


まなみは短く答えた。


「でも、逃げ回ってるだけじゃ何も変わらない」


神崎はしばらく黙った。


そして――


扉を開けた。


ギィ……


古い木の軋む音。


中は、広い部屋だった。


しかし。


家具がない。


絵もない。


窓もない。


ただ中央に、一脚の椅子が置かれている。


その椅子には――


古い写真が一枚、立てかけられていた。


とおるが近づく。


写真には、大勢の人間が写っていた。


男女。


老人。


子供。


全員が黒い服を着ている。


その中央に、一人の男が立っていた。


白い髭。


黒い服。


そして、異様に大きな十字架のような飾りを首から下げている。


「……誰?」


ゆうこが尋ねる。


神崎が写真の裏を見る。


そこには文字があった。


御堂恒一郎


「御堂……?」


神崎の表情が変わった。


「知ってるの?」


ひとみが聞く。


「名前だけだ」


神崎は写真を裏返した。


「昔、この山で宗教団体を作った男だ」


「宗教団体?」


「かなり大きな組織だったらしい」


「じゃあ、この屋敷は……」


神崎は頷いた。


「信者のための施設だった可能性がある」


そのとき。


部屋の奥から音がした。


カタ……


全員が振り返る。


壁に扉が現れていた。


「また……」


ジェシカが呟く。


扉の上には、


礼拝室


と書かれている。


「この家、本当に増えてる……」


ひとみが後ずさった。


神崎は扉を開けた。


そこには、小さな祭壇があった。


祭壇の前には古い椅子が何十脚も並んでいる。


そして壁には――


人の名前が大量に刻まれていた。


「……何これ」


ゆうこが近づく。


名前。


名前。


名前。


数百人分はある。


だが、最後の列だけが異様だった。


そこには最近の日付が並んでいた。


2020年。


2021年。


2022年。


2023年。


2024年。


2025年。


そして――


2026年


「……今年?」


とおるの声が震える。


その下には、六つの名前が並んでいた。


一つ目。


とおる


二つ目。


ゆうこ


三つ目。


ひとみ


四つ目。


ジェシカ


五つ目。


神崎蓮


六つ目。


まなみ


全員が凍りついた。


「……いつ書いたの?」


ジェシカが震える声で言った。


誰も答えられない。


とおるは自分の名前に近づいた。


その横に、小さな文字がある。


入居日


その下には、


今日の日付。


「俺たちが来る前から……」


とおるが呟いた。


「知ってたんだ」


ゆうこが言う。


「この家は、俺たちが来ることを……」


その瞬間。


背後から声がした。


「違う」


全員が振り返った。


誰もいない。


「この家は……」


女の声。


今度は、はっきり聞こえた。


「来る人を選んでいる」


とおるは息を呑んだ。


「じゃあ、俺たちは……」


「そう」


女が答える。


「呼ばれたの」


「何のために?」


沈黙。


やがて女は言った。


「住むため」


その瞬間。


祭壇の奥にある壁が開いた。


そこには、巨大な肖像画があった。


御堂恒一郎。


その隣に、女性が描かれている。


しかし女性の顔だけが――


黒く塗り潰されていた。


「この人は?」


ひとみが尋ねた。


女は答えた。


「妻」


「……あなたは誰?」


長い沈黙。


そして。


「私は――」


声が震えた。


「この家から出られなかった女」


その瞬間。


祭壇の床から、


――ドン。


何かが突き上げた。


一度。


二度。


三度。


そして床板の隙間から――


血のように赤い指が一本、ゆっくりと伸びてきた。


「逃げて」


女が叫んだ。


「今すぐ――!」


床が一気に割れた。


無数の手が噴き出してくる。


悲鳴が響く。


神崎が全員を押し戻した。


「走れ!」


とおるはゆうこの手を掴んだ。


二人は走った。


その途中。


とおるは一瞬だけ振り返った。


祭壇の奥。


肖像画の前に――


一人の女が立っていた。


顔は見えない。


長い髪で覆われている。


その女は、逃げるとおるたちを見つめていた。


そして――


静かに頭を下げた。


まるで、


「ごめんなさい」


と謝るように。


扉が閉まる。


その直後。


壁に新しい文字が浮かび上がった。


入居者六名。


そして、その下に――


退去者〇名。


とおるは立ち尽くした。


「……まだ、一人も出てないってことか」


神崎が答える。


「違う」


彼は壁を見つめていた。


「この家が言ってるのは――」


神崎の顔が青ざめる。


「一人も出すつもりがないってことだ」

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