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『十五階の迷宮 ――神の家から出られない』  作者: こうた


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12/20

第12話 消えたジェシカ



「ジェシカ!」


とおるが廊下を走る。


返事はない。


床に落ちたカメラだけが、赤いランプを点滅させていた。


神崎が拾い上げる。


「まだ録画してる」


「何か映ってる?」


ひとみが尋ねる。


神崎は画面を確認した。


映像には、ジェシカが一人で廊下を歩いている。


「おかしい」


まなみが言った。


「さっきまで私たち全員、一緒だった」


「そうだ」


神崎が頷く。


「なのに、この映像ではジェシカが一人だ」


映像の中のジェシカが立ち止まる。


「……ここ、どこ?」


彼女自身も場所が分かっていない。


カメラが左右を映す。


古い廊下。


壁には見覚えのない肖像画。


そして――


奥に階段。


ジェシカが近づく。


「誰かいる?」


階段の上から、


コツ。


足音。


ジェシカが顔を上げる。


「……誰?」


黒い影が立っている。


顔がない。


身体だけが、人間の形をしている。


ジェシカが後ずさる。


「いや……」


影が一歩下りる。


ジェシカが逃げる。


しかし映像が激しく揺れ――


そこで途切れた。


「……」


全員が黙った。


「最後の場所を探す」


神崎が言った。


「この映像の場所に行けばいい」


「どうやって?」


ひとみが聞く。


神崎はカメラを操作した。


「壁の模様だ」


映像を止める。


そこには奇妙な花の模様がある。


「この屋敷の壁は全部違う」


まなみが言った。


「同じ模様の場所を探せばいい」


六人ではなく――


五人になってしまった一行は、廊下を歩き始めた。


「……五人」


とおるが呟く。


ひとみが振り返る。


「何?」


「最初の文字」


――五人では多すぎる。


「もしかしたら……」


とおるは言葉を止めた。


「この家は、最初から人数を減らすつもりだったんじゃないか」


ゆうこが不安そうに言う。


「ジェシカが最初に選ばれた?」


「分からない」


神崎が答える。


「ただ、あの写真には六人の名前があった」


「でも、ジェシカは消えた」


まなみが言う。


「じゃあ次は……?」


全員が黙った。


その瞬間。


ゆうこが、とおるの手を握った。


「……離れないで」


「うん」


「絶対に」


「約束する」


ゆうこは少しだけ笑った。


「約束ね」


二人の手が重なったままになる。


それを見たひとみは、何も言わず視線を逸らした。


そして。


廊下の角を曲がった。


「……あった」


まなみが壁を指差した。


映像と同じ花の模様。


「ここだ」


神崎が壁を調べる。


押しても動かない。


引いても動かない。


黒田が突然、壁を叩いた。


「そこじゃない」


全員が振り返る。


「何?」


「この家の扉は、普通の方法では開かない」


黒田が壁の一部を指した。


「ここ」


小さな傷がある。


「昔、作業員が使ってた仕掛けだ」


黒田が押す。


カチッ。


壁が開いた。


その奥には――


小さな部屋があった。


中央に椅子。


椅子の上に、


ジェシカのスマートフォン。


「……ジェシカ」


とおるが近づく。


画面は割れている。


だが、電源は入っていた。


通知が一件。


新しい動画が投稿されました。


「……投稿?」


ひとみが眉をひそめる。


「電波ないのに?」


神崎が画面を確認する。


動画の投稿時刻は――


10分後。


「未来……?」


まなみが呟く。


神崎が再生する。


映像が始まる。


真っ暗な画面。


そして。


ジェシカの声。


『ここ……どこ?』


「ジェシカ!」


とおるが画面に近づく。


『誰か聞こえる?』


その声は震えていた。


『私、まだ生きてる』


全員が息を呑む。


『でも……変なの』


ジェシカが言う。


『この部屋には、私以外に――』


一瞬、映像が明るくなる。


ジェシカの背後。


壁一面に、


人間の顔が並んでいた。


「……!」


ゆうこが口を覆う。


顔だけ。


身体はない。


老若男女。


目を閉じた顔。


そして、その中に――


御堂恒一郎の顔がある。


『この人たち……』


ジェシカが呟く。


『壁の中から、こっちを見てる』


映像が揺れる。


突然。


ジェシカが叫んだ。


『待って!』


画面の外から、


女の声がした。


『こっちへ来て』


「……老婆」


とおるが呟く。


ジェシカが声の方向へ歩いていく。


『誰?』


『ここから出してあげる』


『本当に?』


『ええ』


そこで映像が止まった。


全員が沈黙した。


「老婆がジェシカを助けようとしてる?」


ひとみが言った。


「でも、ジェシカは消えた」


「……まだ生きてる可能性はある」


神崎が答える。


そのとき。


部屋の奥から、


――コン。


音がした。


壁。


とおるが振り返る。


――コン。


もう一度。


そして。


壁の中から声がした。


「……助けて」


ジェシカの声だった。


「ジェシカ!」


とおるが壁へ駆け寄る。


「どこにいる!?」


返事。


「ここ……」


「今開ける!」


とおるが壁を叩く。


「待って!」


ゆうこが叫んだ。


しかし遅かった。


壁の一部が突然、


ぐにゃりと膨らんだ。


まるで人間の顔が、


壁の内側から押しつけられているように。


「……!」


顔が浮かび上がる。


ジェシカだった。


「とおる……」


「ジェシカ!」


「お願い……」


ジェシカの顔が苦しそうに歪む。


「ここから……」


その顔の横から、


別の顔が浮かび上がる。


一人。


二人。


三人。


無数の顔。


そして最後に――


少年の顔。


少年が笑った。


「おじさん」


「……」


「ここ、いっぱいだよ」


とおるは後ずさる。


「何が?」


少年は答えた。


「人」


壁一面の顔が一斉に目を開いた。


そして全員が、


とおるを見た。


「次は――」


少年が笑う。


「誰を入れる?」


その瞬間。


ゆうこの手が、とおるの手から離れた。


「……ゆうこ?」


ゆうこは立っていた。


しかし。


目を閉じている。


「どうした?」


返事がない。


とおるが肩に触れる。


ゆうこがゆっくり目を開けた。


その瞳には――


黒い影が映っていた。


「……とおる」


「何?」


「私……」


ゆうこの声が震える。


「さっきから、ずっと聞こえてる」


「何が?」


ゆうこは涙を浮かべながら、


とおるを見た。


「誰かが……私の名前を呼んでる」


壁の奥から。


女の声がした。


「……ゆうこ」


「……!」


「ゆうこ」


「いや……」


「ゆうこ」


声がどんどん近づいてくる。


そして最後には、


とおるのすぐ後ろから聞こえた。


「ゆうこは――」


老婆の声だった。


「この家の子よ」


とおるが振り返る。


誰もいない。


しかし床には、


濡れた足跡が一つ。


それは――


ゆうこの足元から、


壁の中へ向かって続いていた。

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