呼ばれない名前
間奏:明かり
入学式からもうすぐ三週間、明かりはついに焦げていないクッキーを作ることに成功した。
彼女は目の前の天板を、ほとんど過剰なほどの誇らしさで見つめた。周りの料理部の部屋はバターと砂糖の匂いがして、二年生の先輩たちが感動した演劇の観客のように小さく拍手していた。隅に座ってノートを開いていた瀬奈は——なぜか付き添いに来ることにしたらしい——眼鏡を上げて言った。「やっとね。近所は避難しなくて済むわ。」
「ひどい!」
「事実よ。」
明かりは笑った。彼女はいつも笑っていた。それは呼吸のように、考える必要のないことだった。笑い続けていれば、誰も彼女が大丈夫かどうか尋ねないし、その質問に答える手間も誰にもかけさせない。
彼女は一番完璧なクッキーを四つ選び、淡い黄色の薄い紙で包んだ。一つは瀬奈に。一つは自分に、だって自分にはその価値がある。残りの二つは小さな箱に分けて、密輸品のように鞄の中に隠した。
その二つのクッキーは誰のためでもない。ただ、念のため。
夕方、彼女は駐輪場でハルを見つけた。
彼は自転車の前にしゃがみ込み、ただのチェーンなのに何かとても重要なことを考えているような顔でチェーンを点検していた。センター分けの髪が風に少しなびき、今にも切れそうな紐の鞄が前かごに載っていた。
明かりは彼の数歩後ろで立ち止まった。なぜいつもこうやって立ち止まるのか、自分でもわからなかった。中学校の三年間、彼女はハルの後ろから叫びながら近づくことに一度も躊躇したことがなかった。今はいつも数歩を残す。地面に見えない線でもあるかのように。
「ハル!」
彼女はいつもと同じ調子で呼びかけた。それは古い習慣の一部で、古い習慣はいつだって新しい勇気より簡単だった。
ハルが顔を上げた。「うん。」
「見て!」彼女は小さな箱を開けて差し出した。「焦げてない!練習したんだ、それで結果は……まあ、完璧じゃないけど、焦げてない!」
ハルは立ち上がり、クッキーを一つ取って迷わずかじった。黙って噛んでいた。明かりは思わず息を止めた。
「焦げてない」とハルは言った。
「それ、褒め言葉?」
「事実。」
「満足のいく事実?」
「まあまあ。」
その二つの言葉で、明かりの胸は膨らむように感じられた。馬鹿げているとわかっていた。二つの言葉。でもハルにとって、二つの言葉は長い演説だった。
彼女はうつむいて箱を閉じ、顔があまりはっきり見えないようにした。
ハルは再び自転車を回し始め、明かりは小さくて痛いことに気づいた。
もうすぐ三週間。ハルはほとんど毎日彼女と話していた。教室で、道で、ロッカーの前で。彼女の質問に答え、ボタンを直し、飴を拾ってくれた。でも一度も、ただの一度も、彼女の名前を呼んだことがなかった。
お前。 おい。 うん。 ハルはいつも、その名前を使わずに彼女に話しかける方法を見つけていた。自分だけがそこに穴があると知っている道を避けて歩く人のように。
昔、中学校では、ハルは彼女を明かりと、本人も気づかないほどの怠けた調子で呼んでいた。昔は五分ごとにその名前を口にしていた。
「ハル」と明かりは突然言った。
「うん。」
「携帯、まだ直ってないの?」
ハルの手の動きが一瞬だけ止まった。長く知っている人にしか見えない一瞬だった。
「まだ。」
「いつまで?」
「金ができるまで。」
その答えは嘘ではなかった。明かりにはわかっていた。でもそれは真実の全部でもなく、明かりにはそれもわかっていた。この男と友達でいる時間が長すぎて、半分で切られた文を読めないわけがなかった。
「できたら」と彼女は、軽く聞こえるように気をつけた調子で言った。「私に一番に教えてよ。他の人じゃなくて。」
ハルはすぐには答えなかった。自転車のチェーンを少し見つめてから、静かに言った。
「うん。」
それは約束ではなかったが、拒否でもなかった。明かりはそれを前者だと考えることにした。
その時、なぜか彼女は東棟の方へ顔を上げた。
二階の窓、駐輪場に面した図書室に、静かに立つ一つの影があった。長い黒髪、頭の後ろに小さな白いリボン。遠くからでは明かりには顔は見えず、まっすぐで静かな体の線だけが見えた。
その影は半歩動き、それからカーテンの陰に消えた。
深町さん、 と明かりは思った。きっと読書してるだけだ。
彼女は自分にうなずいた。もう考える必要のないことを片付けるように。そしてハルの肩を軽く叩いた。
「私、先に帰るね。明日続きやろう!」
「うん。」
「それはイエスの意味だからね!」
彼女は手を振って歩き去った。ポニーテールが鞄の後ろで揺れていた。
帰り道は草と夕暮れの匂いがした。明かりは川に架かる短いコンクリートの橋で立ち止まり、欄干にもたれて小さな箱を開けた。クッキーが一つ残っていた。誰にもあげなかったもの。
彼女はそれをかじった。甘さはちょうどよかった。焦げていなかった。
もうすぐ三週間。ハルはまだ彼女の名前を呼んでいない。ハルはまだ携帯がなぜ通じないのか話していない。ハルはまだ、卒業間近のある日、なぜすべてのメッセージへの返信をやめ、二人で歩いた道から姿を消したのか、その説明を一つもしていない。
でも彼はここにいる。彼は彼女のクッキーを食べた。彼はまあまあと言った。
明かりは橋の下をゆっくり流れる川の水を見つめ、シンプルなことを決めた。
待てる。彼女は三週間よりずっと長く待っていたのだから。




