ただ一人、振り向かなかった者
幕間:美月
美月は、相手に拒絶されたと感じさせないためには笑顔をどれだけの時間保てばいいのか、そして相手に誘われたと感じさせないためにはどれだけにすればいいのか、正確に知っていた。それは本から学んだことではない。中学三年間、そしてほんのわずかな口角の動きからあまりにも多くのことを察してしまう、あまりにも多くの人々から学んだことだった。
その朝、彼女はいつもより早く家を出て、少し遠回りの道を選んだ。特別な理由はない。ただ、その道の方が人が少ないだけだ。
それでも、門の近くになると、あの視線がやってくる。彼女はその感覚をよく知っていた。左右から頬を撫でる小さな風のようなものだ。痛くはない。ただ、絶え間なく続くだけ。男子二人が囁き合う。女子が一度、また一度と振り返る。美月は肩をリラックスさせたまま、視線はまっすぐ前に向け、誰にも応じなかった。一人に応じれば、他の者たちも自分にも応じてもらう権利があると感じるからだ。
鞄の中、彼女の指は脇のポケットにある小さくて柔らかいものに触れた。ガチャガチャで三百円で買った、クリーム色の太った猫のキーホルダー。その存在を誰も知らない。それが彼女の身の回りで唯一、誰にもコメントされたことのないものだった。だから彼女はそれが好きだった。
下駄箱の部屋で、彼女はすでに自動化された動きで靴を履き替えた。それから、二列隣で金属製の扉が閉まる音が聞こえた。
美月はすぐには振り向かなかった。自分のロッカーをゆっくりと閉め、階段の方へ歩き出し、そして最初の段に足をかけたところで初めて、鞄の紐を直すふりをして肩越しに後ろをちらりと見た。
一人の男子生徒がロッカーの前に立ち、こちらに背を向けていた。七三分けの髪に、紐がちぎれそうな鞄。佐々木ハルだ。彼は外履きをロッカーにしまうのを、今日一番の重要な仕事であるかのように行っていた。頭は微動だにせず、階段の方へは一切振り向かない。
美月は一秒待った。二秒待った。
何もない。
彼女は歩みを進め、階段の角に差し掛かって初めて、自分の唇が小さな笑みを形作っていることに気づいた。自分でも意図していなかった笑みだ。彼女は両方の唇をきつく閉じて、その笑みを消した。あれは普段使う笑顔ではない。計算できる笑顔ではない。
教室で、彼女は席に座り本を開いた。表紙は書店の茶色い紙で包まれているので、誰もタイトルを読むことはできない。中身は分厚いミステリー小説で、端の方はもうヨレヨレだ。クラスメイトたちは、彼女が甘くて花のような本を読んでいるとでも思っているのだろう。彼女はそう思わせておくことにした。
それから彼女は、一文字も理解できないまま、同じページを三回読んだ。
月曜日のことだ。時間割の紙を渡した時、彼女は後ろの席の男子生徒の顔を非常に注意深く観察していた。普段なら、美月に注目されると人は緊張する。赤くなる者、どもる者、急に自信過剰になる者。しかしあの男子生徒は何もしなかった。「ありがとう」と言って、まるで紙を渡したのが自動販売機であるかのように、うつむいて時間割を読み始めたのだ。
彼女は自分がその名前を繰り返したことを覚えている。佐々木くん。 彼女はいつも人の名前を覚える。それは昔からの癖だ。しかしその日は、本人の目の前で声に出して繰り返し、振り返ってから初めてそれに気づいた。
ただの癖よ、と彼女は自分に言い聞かせた。
後ろから足音が近づいてきた。後ろの席の椅子が静かに引かれ、鞄が机に置かれる音がした。
美月は振り向かなかった。心の中で三つ数えた。階段のところで決めていた通りに。
「おはようございます、佐々木くん。」
それは自然に出た挨拶ではない。彼女はわざと先に話しかけた。自分が持つ最も中立的な声色で、誘いにも義務にも聞こえないように。彼女が知りたかったことはただ一つ。普段なら誰かが先に話しかけてくる側の人間が先に話しかけたら、この男はどう反応するのか。
「おはよう」とハルは答えた。
それだけだった。一言、間もなく、何の感情もなく。それから鞄のチャックが開く音と、ノートが開かれる音がした。
美月は再び本に目を落とした。同じページ。同じ文章。
彼女は失望しなかった。それが奇妙だった。失望するか、少なくとも安心するはずなのに、感じたのはむしろ温かくて少し困惑するような感覚だった。合わないボタンばかりの箱の中で、ぴったり合うボタンを一つ見つけた時のような。
明日も試してみよう。明後日も。ただ、結果が同じかどうかを確かめるために。
実験。彼女はその言葉を選んだ。他の言葉では重すぎるから。




