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眩い日の初恋  作者: 松山 さくら


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第二章 綾乃 エピソード4

 中学校生活で最後の夏休みは、受験勉強の傍らで、僕はグラウンドを走り続けた。校内での練習試合で僕に与えられたのは、ディフェンダーのポジション。三年生だからと、顧問の先生が校内試合に出場させてくれた。

 ディフェンダーの役目は、相手チームのフォワードをマークして、パスやシュートを防ぐこと。だが、僕の身体の反応は遅かった。相手チームのフォワードに向かい始める頃には、すでにパスをまわされて、シュートを決められてしまっている。「先を読むんだ。相手がどう動くのかを見極めるんだ」顧問の先生から檄を飛ばされたが、わからないものはわからない。ただ闇雲に、相手チームの選手たちに翻弄され続ける僕。

 そんな僕の姿を哀れに思ったのか、練習が終わって部員たちが家路に就いた後に、一輝と雄大が僕の練習の相手をしてくれた。夕暮れ迫るグラウンドを駆けまわる三つのシルエット。一輝たちは、容赦なくゴール前で守る僕のそばをすり抜けて、ゴールを決める。それでも、僕は諦めなかった。毎日へとへとになるまで、グラウンドを走り続けた。

 そして迎えた校内での最後の練習試合。すでに他校との試合は終わっていたので、三年生にとってはまさに引退試合のようなものだった。だから、試合は熾烈を極めた。

 前半は、コートの脇から試合の経過を眺めていただけの僕だったが、後半になって僕に出番がまわってきた。

 コートに向かうとき、顧問の先生から、「これが最後だから、悔いのないように走りまわれ」と激励された。相手チームでゴールキーパーをしていた一輝からは、「翔太の底力を見せてみろ」と肩を叩かれたし、同じくフォワードの雄大からは、「翔太ならいけるよ」と、意味ありげな言葉をかけられた。

 同点で迎えた後半戦、一輝たちのチームが攻めに攻めて、二点を立て続けに取る。奮い立った僕のチームのフォワードが、見事な連携パスを見せて、二点をもぎ取る。さらに、一点追加。それから、試合は膠着状態が続く。

「先を読むんだ」顧問の先生から言われた言葉の通り、僕は相手チームの選手の動きに、必死に食らいつく。だけど、どうしても身体がついて行かない。一歩も二歩も、出遅れてしまう。

 そうして迎えた、アディショナルタイム。残り一分を守り切ると、僕のチームが勝利すると言う場面だった。

 一輝がゴールキックしたボールを、相手チームの選手が巧みに受ける。パスを小刻みに繋いで、あろうことか僕の正面にいる雄大に渡った。まさに一対一の勝負。僕は雄大の目の前に立ちはだかった。フェイントをかける雄大の動きを冷静に見つめる僕。ふと、放課後に一輝たちと練習していたときのことが蘇った。雄大には癖があった。ディフェンスと対峙したときに、左側にすり抜ける癖。そのことに気づけなかった僕は、何度となく雄大にすり抜けられて悔しい思いをしていたのだが、今は違う。

 僕の目は、ボールをしっかり捉えていた。雄大は必ず、左にボールを出してすり抜ける。そう思った僕は、雄大がボールを蹴るタイミングを見計らった。「よし、今だ」自分の中のもう一人の僕が叫んだ。

僕は左足で踏ん張って、右に出る。出した僕の右足が、ボールを捉えた。時間はほとんど残っていない。コートの外に出すだけで十分だった。僕がカットしたボールは、見事、タッチラインを割った。

 慌てて、相手チームの選手が、ボールが出た場所からスローインをする。そのとき、ホイッスルが鳴った。大きく三回。

 それが耳に届いた瞬間に、僕はその場に倒れ込んだ。「やったぁ」「よっしゃ」同じチームの選手たちが喜びの声を上げる中で、僕はさっきのボールに触れた感触を、いつまでも右足で感じていた。

 僕の視界に誰かの腕が入った。見上げると、雄大が自分の腕を差し出している。その隣には一輝の姿もあった。

「ナイスプレー」

 と、雄大。

 それから、鼻を啜る仕草を見せながら、一輝が言った。

「翔太の底力、この目で見てやったよ」

 僕は、雄大の腕を握ると、ゆっくり立ち上がった。雄大と一輝、それぞれと固く手を握り合う。こうして、僕たちの、いや、僕の部活動が幕を下ろした。最後に、土まみれになった体操服と、雄大たちとの堅い絆を残して。


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