エピローグ2
「まぁ、でもよかったじゃないか。翔太も、前向きになることができてよ。なんだか、今日は、いい日だな」
「えっ、どういうこと?」
僕と雄大が、揃って一輝の顔を見る。
「いゃあ、実はな、俺の仕事も、ここにきて上向いてきてな。一時は通信販売に力を入れようとしていたけれど、やっぱりやめたんだ。なんか、俺にはあんな、こまごました作業は合ってなくてな。それで、代わりに始めたのが、『あなたの力になります配達』なんだ」
「それって、どういう……?」
なんとなくその先が聞きたくなって、とっさに反応してしまった。
「俺たちが住んでいる地域って、一昔前のニュータウンだろ。できた当時は、若い世代が多かったけど、今は高齢化してきているだろ。息子や娘が遠くに出て行ってしまって、高齢の人だけで住んでいる家が多いんだ。照明器具のLEDの取り換えとか、高いところに積んであるものを下ろすとか、そういった作業ができずに、困っている人が多いと知った。どうせ俺が配達でその家に行くんだから、だったらそのついでにそれらの作業を手伝おうっていう訳さ」
「一輝の話を聞いていると、家事代行とか出張○○とは、また違った感じだね」
そう口を挟んだのは雄大だった。さすが、雄大は、今の世の中の動向には詳しい。
「いや、それらはお金を取る商売だろ。でも、俺がやっているのは、あくまで助け合い。せっかく同じ地域に住んでいるんだからさ。できる人ができることをほんの少しやることで、みんなが幸せに暮らせるようになるといいじゃん。その甲斐あってか、最近、いろいろと俺に声をかけてくれる人が増えてな。まだまだこれからだけど、俺にしかできないことを頑張っていこうと思うんだ」
そう話す一輝の顔は、いつもよりも輝いて見える。きっと、自分らしい素敵な働き方に出会えたのだろう。
「一輝、いい笑顔だね。今の仕事、とても楽しそう」
「そっ、そうか」
僕が放った言葉に、照れ笑いをしてみせる一輝。
そう言った僕も、最近、自分の働き方で変えたところがある。それは、一輝と同じように僕にしかできないことを常に考えること。そりゃ、会社組織の中で働いている訳だから色々と制約があるけど、自分に任された範囲の中で、自分らしさを出していこうと思った。
僕にとってのそれは、教材をセールスするときに、大人ではなく子供と向き合うこと。だって、その教材を使って勉強をするのは子供たちなのだから。向き合うと言っても、僕は学校の先生ではないので、子供の心理や心身の発達など専門的なことはわからない。だけど、子供たちの話し相手になることはできる。僕が、かつて一輝たちとやっていたように、ゲームやアニメ、最近で言えば動画サイトやSNSのことを話題にして、その子供がどんなことを考えているのかを受け止めることにしている。
子供たちが描いている夢を追い求めるために、僕が紹介した教材に興味を持ってもらえたらいい。そういうスタンスで営業をしているので、僕の営業成績は課内で未だに最下位を保っているが、解約率で言えばほぼゼロ。つまり、課員たちの中で断トツのトップ。最近は、子供の保護者から、「子供が勉強にやる気を出してくれた」とか、「今まで散々勉強をするようにうるさく言ってきたのに、ある日突然……」なんて、嬉しい便りが届くようになってきたから、課長は僕に何も言わなくなった。
スター選手のように豪快なシュートは決められないけれど、全身を自在に操って果敢にボールを止めるようなことはできないけれど、僕は自分にできることを考えて、これからも相手チームのフォワードの前に立ち向かっていこうと思う。




