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眩い日の初恋  作者: 松山 さくら


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第三章 初恋 エピソード5

 お風呂に入るのも忘れていた。とにかくそういうことだったのだ。さっき、雄大は、今も綾乃は、メッセージカードの返事を待っているようなことを話していた。

 卒業してから十年の月日が経つ。綾乃のことは、卒業と同時に、心の奥底にしまっていた。もう済んだ過去のことだと、自分に言い聞かせて、忘れようとしてきた。だけど、どうだろう。本当に、忘れることができただろうか。

 思えば、僕は中学校時代、答えを知ることから逃げてばかりいた。綾乃から答えを聞かされて、傷つきたくない一心で、綾乃に近づくことを避けてきた。

 だけど、卒業式の日、綾乃は僕に答えを示してくれていたのだ。僕が迂闊だったせいで、その意味を知ることなく、制服のポケットにしまったままにしていたが……。

 いや、今、僕が気づけたくらいだから、頭がまだ柔らかかった当時の僕なら、その気になればもっと早くに気づけたはず。後悔しても過去を変えられないことはわかっているけど、自分の脇の甘さが身に染みる。

 今、僕は、あの日のまま吊るしてあった制服を見つめている。もしも今、僕がこれを着たならば、あの日にタイムスリップすることができるだろうか。返事を書いて、かつてやっていたように、綾乃の下駄箱に返事を書いたメッセージカードを入れることができるだろうか。いや、あの日に戻れなくてもいい。この先に綾乃と過ごす未来が続いて行くのならば、ほんの少しでもそれを追い求める可能性が、僕に残されているならば、僕は今すぐにでも伝えたい。

 そう思った僕は、次の日、文房具店で、新しいメッセージカードを買った。十二本のバラの花が描かれたメッセージカード。本当は、直接会って伝えるべきだと思った。だけど、面と向かったら言えないような気がした。それほど、僕は臆病な性格なのだ。だけど、臆病なら、臆病なりに、僕に合った方法があると思った。そう、かつて誰にも気づかれずにやっていたように、メッセージカードに言葉を乗せて、伝える方法。

 ただ、ストレートに伝えるのには、ほんの少し勇気がいった。それならば、綾乃のメッセージカードへの返事らしく、僕もひらがなの五十音表になぞらえて、正直に僕の気持ちを打ち明けてみよう。

『1-5 4-3 2-2 1-1 1-2 3-2 4-1 1-2 〝4-4 3-3』

 まるで、昔流行ったとかいうポケットベルに送信するときのような暗号のようだが、綾乃だったら気づいてくれるだろう。十二本のバラの花言葉とともに……。


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