7.エピローグ(1)
私はごく普通の中学生として暮らしている。
パパとママがいて、当たり前のように「おはよう」と言ってくれる。その当たり前が、泣きたくなるほど嬉しかった。
土曜日の午後、私は友達と、駅前の図書館に来ていた。
「ねえメグ、探してる本、こっちにありそう」
「今行く」
友人の声に返事をしながらも、私の目は、閲覧室のテーブルに座る一人の少女に釘付けになっていた。
明るい栗毛のおかっぱで、前髪をぱつんとそろえている。ロングスカートをはいて、背筋をぴんと伸ばし、一冊の本に夢中になっていた。その姿から、なぜだか目が離せない。
「メグ? どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
その場を離れようとしたけれど、足が動かなかった。
その瞬間、胸を締め付けるような懐かしさが私の心を貫いた。
夕暮れの図書館。並木道を急ぐ
門の先にいた、栗毛の少女……
さらさら落ちる砂の瓶
天を衝く無限の塔
囚われた私の手を握る温かい手
黄色い大地
沼に沈んでいく彼女の恐怖に歪んだ顔
必死で掴んだ、泥だらけの冷たい手
崩壊する図書館……
渦巻く無数の本の中で、私を最後まで抱きしめてくれた腕のぬくもり
魂が叫んでいた。
声を、かけなくちゃ。
どうしてそう思うのか分からない。でも、今ここで声をかけなかったら、私はきっと、一生後悔する。そんな衝動が私の背中を押した。
私は「先に行って」と友人に言うと、少女のテーブルへと向かった。一歩近づくごとに、心臓の音が大きくなる。
「あの……」
少女が、ゆっくりと顔を上げた。いかにも賢そうな、くりくりした大きな瞳が、驚いたように私を見つめている。
「その本、面白いですか?」
私の言葉に、彼女は一瞬きょとんとした後、ふわりと花が咲くように微笑んだ。
「ええ、すごく」
その笑顔を見た瞬間、分かった気がした。私たちは、出会うべくして出会ったのだと。運命なんかじゃない。私のシリアルナンバーが、彼女を選んだのだと。
「私、メグミ。メグって呼んで」
「わたしはアシュリン。アッシュでいいわ」
すっと差し出された手を私は固く握った。
図書館からの帰り道、一羽の黒い鳥が私の目の前に降りてきた。口に手紙をくわえている。私は手を伸ばして手紙を受け取り、ゆっくりと開いた。




