7.エピローグ(2)
『宇宙の彼方へ:数、時間、そしてマルチバース』
エミリア・クワントウェル著
■第一法則
宇宙はシングルプロセッサ上に実現されたマルチタスク・オペレーティング・システムで動いている。個々の人間は一つのタスクに相当する。タスクにはシリアルナンバーが割り振られている。ひとつの宇宙でシリアルナンバーは決して重複しない。
■第二法則
物理的世界は、このオペレーティング・システムを動かしている宇宙プロセッサのクロックに従って動作する。ここで人びとは、一クロックより短い時間を、認識も測定も生成も決してできないことに注意しなくてはならない。現在のわれわれの宇宙プロセッサ・クロック周波数は
H_clk = 2×1.85×10^43 Hz
である。
■第三法則
宇宙はマルチバースを形成している。個々の宇宙には一から順に「宇宙番号」が振られている。番号は決して重複しない。つまり宇宙は可算無限的である。
私の説は一般にSingle-core Multitask Multiverse Model(SMMM、エス・トリプルエム)と呼ばれています。
SMMM 第一と第三法則は、宇宙番号と人のシリアルナンバーが、偶然一致する宇宙が存在すると主張しています。
ここに、『ある特定の人』が、全宇宙にとって特別な意味を担う可能性が生まれます。
考えてみてください。SMMM理論の導入によって、解決できる領域は増えました。運動のパラドクス、無限分割のパラドクスは解決され、時間の起源、可能世界の性質が明らかになりました。自由と因果は矛盾する概念ではなくなりました。
宇宙は無限にあります。その中に微妙に異なる「あなた」や「私」が存在します。しかし極小の違いしかない宇宙どうしを、わたしたちは分別できません。個々の宇宙が厳密に決定論的でも、自分がどの宇宙に属しているかを判定できないのだから、“どの決定論に従っているか”もまた、判定できません。よく聞いてください。百パーセント決定論的な世界の中で、私たちは、避けようもなく自由なのです。
追伸
メグ。あなたの選択は、どこまでもあなたのものです。なにしろ宇宙は避けようもなく自由なのですから。
追伸の追伸
メグ、手紙は送る前に、きちんと読み返しなさいよ
エミリアより 愛をこめて
私は読み終えた手紙をポケットにしまった。
色のなかった記憶が、色づき始める。
魂は確かに覚えていた。
私たちの新しい物語が、今、始まった。
<完>




