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底辺YouTuberの僕たちが動画編集で見つけた謎の歌を、数週間後、姉の子供が口ずさむ件  作者: VANRI


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3/20

残響のノイズ

「……あつ。冷房切れてんじゃん……」


 じりじりと肌を焼くような朝の光で目が覚めた。 

汗でベタついたTシャツが、気持ち悪く背中に張り付いている。


 カーテンの隙間から、容赦ない真夏の日差しが差し込む。クーラーのタイマーが切れた部屋は、すでに蒸し暑さを増していた。


 僕の声で起きた奏多が、寝ぼけ眼で「こんなんで寝てたら熱中症になるわ〜」とあくびをし、寝癖のついた茶色の頭をガシガシ掻きながら冷房のスイッチを入れた。

 冷たい風が、汗ばんだ首筋を撫でる心地よさに勝るものはないと思った。

 とりあえずシャワーを浴びて着替えよう。

まずは、それからだ。



 シャワーを浴びて、乾いた新しいTシャツに袖を通す。それだけで、肌にまとわりついていた不快な汗と一緒に、昨夜の悍ましい記憶まで洗い流されたような気がした。


「生き返ったわ……。あ、響、冷蔵庫の麦茶飲んでいい?」


 奏多がすでにいつもの調子で笑いかけてくる。昨夜あんなに激しい喧嘩をしたことなんて、お互いもう忘れてしまっていた。


「いいよ。……てか奏多、お前昨日の夜、スピーカーからあの音がしたとき、本気で腰抜かしてただろ」


 昨日のことを思い出し、からかうように言ってみた。


「はぁ!?  抜かしてねえし!  ちょっと尻もちついただけだし!  響こそ顔真っ青で、お化けに出会った小学生みたいになってたじゃんか!」


「な、なってねぇよっ!!」


 図星だったため思わず顔が赤くなってしまう。

 お互いの無様な怯えっぷりをからかい合いながら、僕たちは自然と笑っていた。


 僕たちの名前は『響』と『奏多』だ。二人で音を奏でて、世界に響かせる。他のありきたりな底辺YouTuberとは違う、特別なチームなんだ。そんな強い仲間意識が、僕たちの胸には確かにあった。


 今日の昼間は奏多はバイトだと行って、昼前に出て行った。

 俺は一人になり、昨日スピーカーから聞こえた、歌のような音程を思い出してしまっていた。

 不協和音が流れ続けるような、不気味でひどく気持ちが悪い音の並び。


 ネットで軽くその音程を自分で再現し、それで検索をかけるがヒットしない。

 耳には自信があるのに。合ってないわけはない。


 じゃあ、この世に知られてないメロディなのかもしれない。このメロディ探しは難しいと早々に諦め、今度はネットで、昨日聞こえた『おみち』について、調べることにした。


 ――お導き……


 そうなのかな? なんかピンと来ないけど。

だが、どうしても昨日の音声を一人で聞く勇気などは持ち合わせていない。


 特にすることもなかったので、近くの図書館に行ってみることにした。


 外に出ると、めまいがするほどの強烈な日差しが降り注いでいた。

 熱せられたアスファルトから湧き上がる独特な夏の匂いやもわっとした湿気が、喉の奥にじっとりと張り付くような不快感がある。

 ハンカチで額の汗を拭いながら、近くの図書館へ足早に向かった。


 静まり返った図書館の館内は、外の猛暑が嘘のように肌寒いくらいに冷えていた。

 夏休みだということもあり、本を読んでいる小学生や、母親に連れてこられたであろう幼い子供たち、勉強している学生や、高齢者も数人見て取れた。

 この区域の図書館はここだけなので、大抵休みはこうなる。

 外の暑さに耐えきれなくなった人間が大勢避難してきているように思えた。


 その静かに賑わっているコーナーを通り過ぎ、あまり人が来ないであろう、郷土資料がある棚へと進む。

 先ほどと雰囲気がガラッと変わり、本をめくる音すら聞こえなくなってくる。

 古い本独特の埃っぽい匂いに少し顔を歪めながら、端から順に本のタイトルを追っていく。


 『地域の古い伝承』や『方言辞典』といった分厚い背表紙に目が止まり、それらを引き抜いた。

 木製の机に腰を下ろして、ページをめくり始める。めったに人が来ないその部屋には、指先が冷たくなるような静けさが、さも当然のように充満していた。


「おみち……お導き、か……」


 僕はカサカサと乾いた音を立てる黄色く褪せたページをめくりながら、「おみち」という単語の影を追い求めた。


 ……ない。それらしき言葉も、それに似た言葉もない。

 もう帰ろうかと腰を上げた瞬間にふと思った。


 あ! トンネルのこと調べてなかった!


 もう一度、郷土資料の本に目を通す。


 ……山鳴、山鳴、やまな……


 一つの文面に目が止まる。

山鳴(やまなり)の由来』

――明治時代、あのトンネルがある山の周辺で、周囲の人間には聞こえない「謎の歌」が聞こえると言い出した人がいた。その人が「山が鳴いている」と表現したことから、その一帯が『山鳴』と呼ばれるようになった――


 その一番下にこう書いてあった。

「山の向こうから聞こえる『呼び声』には応えてはならない」


 背中にゾクッと寒気が走る。よく効いた冷房のせいではない。


 この、「謎の歌」が俺たちが見つけたメロディなのかもしれない。だが、確信は持てず、大きな収穫はないまま帰ることにした。




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