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底辺YouTuberの僕たちが動画編集で見つけた謎の歌を、数週間後、姉の子供が口ずさむ件  作者: VANRI


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答えを探すノイズ

 僕は震える手でスマホを握り直し、恐る恐る琴音ちゃんに尋ねた。


「琴音ちゃん……。君がチャリティー演奏に行ったっていう、あの福祉施設って……具体的にどんなところだったの?」


 琴音ちゃんは涙を指先で拭いながら、記憶を絞り出すようにぽつり、ぽつりと答える。


「えっと……色んな障害を持っている方たちが、共同で生活している施設で……。身体が不自由だったり、目が見えなかったり、あとは……耳が、聞こえ……」 


 そこまで言って、琴音ちゃんはハッと息を呑み、言葉を失って凍りついた。


「……耳が、聞こえない子供」


 包帯姿の奏多が、かすれた声で呟く。


「ちょっと、調べてみよう」


 僕は冷や汗で滑る画面に指を走らせ、検索バーに『山鳴トンネル 崩落事故』と打ち込んだ。


 すぐに、十数年前の古びたローカルニュースのアーカイブ記事がヒットした。

 画面に表示された白黒のヘッダー画像を、三人で息を殺して覗き込む。


『旧・山鳴トンネル内で天井崩落事故。施設利用者の男児(当時8歳)が逃げ遅れ死亡』


 記事には、胸が締め付けられるようなあまりにも惨い真実が記載されていた。


 当時、施設の散歩の途中でトンネル内に入り込んでしまったその男児は、生まれつき耳が完全に聞こえなかったという。

 だから――天井のコンクリートがギチギチと軋み、崩落が始まっているという『周囲の異常な音』に、一人だけ最後まで気づくことができなかった。 


 気づいた時には、逃げ道は完全に塞がれていたのだ。



 ――おみみちょうだい。


 あの時、もし自分に『耳(周囲の音を察知する力)』があれば、死なずに済んだのに。置いていかれずに済んだのに。


 トンネルの底に渦巻いていたのは、そんなあまりにも悲しくて、おぞましい子供の怨念だったのかもしれない。

 元々、山鳴トンネルには、『山が鳴いているような声がする』という言い伝えがあった。それが、その子の魂と共鳴し合った結果かはわからない。



 その真実の重さに、僕たちの間に今までにない強烈な悪寒が走り、三人とも言葉を失ってゾッとするしかなかった。


 他人の本物の悲劇の場所で、僕たちはカメラを回し、お化けが出ただのなんだのと、遊び半分で大騒ぎしていたのだ。バチが当たらないわけがなかった。 


 ――そして、恐怖はそれだけに留まらなかった。


 その夜を境に、僕たちの周囲で本格的な異変が起き始める。


 翌朝、僕たちがアップしたばかりのコラボ動画のコメント欄を開くと、いつもなら『面白い!』と並ぶはずの画面が、ある異様な書き込みで埋め尽くされていた。


『他人の死に場所でふざけるな』

『お前らの耳も、あの子と同じにしてやる』

『ミサンガ、気に入ってくれた?』


 アカウント名はすべてバラバラ。だけど、それは明らかに、僕たちへの激しい憎悪を剥き出しにした、生身の『人間』からの復讐のカウントダウンだった。


 それを見て、奏多が恐る恐る呟いた。


「幽霊……は、こんなことしない……よな」


 僕はゆっくり頷きながら答えた。


「うん……これは、明らかに人間の仕業だね……」


 あの夜のトンネルに行った日以降、琴音ちゃんだけでなく、奏多の発する言葉にもノイズが聞こえるようになっていた。

 やはり、怪異に呪われた者が発するノイズなのだろう。



 また、ネットの脅迫コメントだけでは終わらなかった。

 生身の『人間』からの嫌がらせは、日を追うごとに恐ろしい速さでエスカレートしていった。



 深夜、寝ている時に、突如としてスマホの着信音が部屋の中にけたたましく鳴り響いた。

 跳ね起き、冷や汗ばんだ手で慌てて画面を見ると、そこには『非通知』の文字が妖しく光っている。


 琴音ちゃんや奏多に何か緊急の異変があった可能性も考え、僕は慎重に通話ボタンを押した。


 ――そこから、奇妙な『無音の時間』が始まった。 


 耳が良い僕の鼓膜には、受話口の向こうから聞こえるはずの、服の擦れる音や、微かな吐息すら一切聞こえてこない。まるで世界から音が消え去ったかのような、完全な、不気味な空白。


 耐えかねて、僕は自分から言葉を発した。


「もしもし……?」


 しかし、やはり何も音は聞こえず、すぐにブツッと冷酷に通話が切れた。


 この不審な電話が、毎晩のようにかかってくるようになった。多いときは、一晩で三回を超えることすらあった。

 もちろん、すぐにスマホの設定で非通知着信は自動拒否にした。だが、着信があったという無機質な『通知履歴』だけは、朝起きると画面にしっかりと残っているのだ。画面の向こう側の相手が、確実に僕を監視し、呼び出し続けているという事実だけが突きつけられる。


 朝起きてその通知を見るたびに、僕の肩には、のしっと目に見えない重りがまた一つ新しく積もっていくような感覚がした。



 

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