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底辺YouTuberの僕たちが動画編集で見つけた謎の歌を、数週間後、姉の子供が口ずさむ件  作者: VANRI


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16/20

真実を告げるノイズ

 深夜の救急病院の待合室。消毒液の匂いと、冷徹な白い蛍光灯の光が、僕たちの疲れ切った影を床に落としていた。


 琴音ちゃんと二人、パイプ椅子に身を縮めて待っていると、診察室のドアが開き、奏多がぴょこぴょこと軽く足を引きずりながら出てきた。


 トンネル内で派手に転んだ時の足の傷も深かったようで、半ズボンの下からのぞく生足には、痛々しいほどぐるぐる巻きにされた包帯が見えている。

 そして右耳も、何重ものガーゼと包帯で頑丈にくるまれており、一目で重傷を負っているのだと分かった。


「奏多! 大丈夫か……っ!?」


 思わず駆け寄った僕に、奏多は、

「ああ、まあ、なんとかなるだろ」 

と、驚くほどいつもの明るい声を返した。


 そして、今にも泣き出しそうな怯えた顔で見上げている琴音ちゃんに視線を向けると、


「俺も右耳聞こえなくなっちゃってさ。琴音ちゃんとお揃いになっちゃったね」


 そう言って、いつもの調子でケラケラと軽薄に笑ってみせた。


 耳からドス黒い血を流して絶叫していたくせに、病院に入って処置を受けたら、もういつもの奏多を取り戻している。


 医師の診断は、凄まじい衝撃による鼓膜の穿孔、破裂に伴う、激しい痛みと出血だった。 



 時計の針はすでに深夜の二時を回っていた。

 さすがにこんな時間だし、何より傷を負った奏多を休ませるためにも、一度琴音ちゃんを家に帰そうとした。

 だけど、彼女は僕のシャツの袖を涙目のままぎゅっと掴んで、激しく首を横に振った。


「一人で、家に帰るのは怖いよ……。お父さんとお母さんには、今日は友達の家に泊まるって、もう最初から言ってあるから……お、お願い……」


 怯えきって小刻みに震える琴音ちゃんを、一人にするわけにはいかなかった。何より、僕だって今夜一人になったら、恐怖で頭がおかしくなってしまいそうだった。


 結局、僕たちは再び僕のアパートへ戻ることになった。

 フロントガラスに真っ赤な油絵の具がこびりついた不気味な車を、なんとかアパートの駐車場に停める。 


 重い足取りで階段を上り、僕の部屋のドアを開けると――数時間前に点けたばかりのシーリングライトの光が、部屋の中をまばゆく照らし出した。


 目に飛び込んできたのは、壁一面に飾られたカラフルなバルーンと、天井から吊るされた手作りの輪飾り。 さっきまであれほど僕たちを幸せな気持ちにさせてくれていた『誕生日サプライズ』の残骸が、冷え切った部屋にそのまま残されていた。

 テーブルの上のケーキはクリームが少し乾き始めていて、まるで僕たちの輝かしい未来が、一瞬で色褪せてしまったかのような錯覚を覚える。


「……とりあえず、座ろうか」


 僕は包帯を巻いた奏多をソファに座らせ、琴音ちゃんにも麦茶を新しく淹れ直した。

 お祝いムードの装飾に囲まれながら、血とペンキに汚れた僕たち三人は、言葉もなくローテーブルを囲んで静まり返る。


 嵐のような深夜の静寂の中で、僕は絵の具の付いた自分の手をじっと見つめながら、この『人間の嫌がらせ』の正体を暴かなければいけない、と強く決意していた。



 琴音ちゃんが、すがるような、だけどひどく真剣な瞳を僕に向けて疑問を投げかけてきた。


「そういえば……響くん、あのトンネルから逃げる時に、『お水じゃない! 逃げろ!』って叫んだよね?

 ……どうして?」


 ソファで左耳をこちらに向けていた奏多が、包帯越しに微かに声を震わせながらそれに続ける。


「響はさ……昔から人より妙に耳が良かったよな。

 ……あそこで、俺たちには聞こえない『何か』が聞こえたのか?」


 二人の視線が、僕の口元に集中する。


 僕は少し迷いながら、きつく拳を握りしめた。こんな恐ろしい真実を口にして、二人をこれ以上怖がらせたくはなかった。

 だけど、言わなければ僕たちはこの泥沼から永遠に抜け出せない。


 僕は乾いた喉を鳴らし、ゆっくりと口を開いた。


「聞こえたんだ……。はっきりと、僕の耳に直接届いたんだよ……」


 部屋を飾るバルーンが、エアコンの風で小さく揺れて擦れる音がした。その微かな音さえ、今の僕たちにはひどく不気味に響く。


「『お水ちょうだい』なんかじゃなかった。ゆうくんが歌っていた歌の正体も、あのトンネルの底から響いてきた声も、全部違ったんだ。

 ……あれは、こう言ってた」


 一拍を置き、僕は二人を見つめて、呪いの本当の名前を告げた。



「――『おみみちょうだい』って」



 ぴしゃり、と部屋の空気が完全に固まった。


 琴音ちゃんは息を吸うことすら忘れたように両手で口を覆い、ガタガタと歯の根を鳴らして震え出した。


「おみ……み……?」


 奏多の顔から、今度こそ完全に余裕が消え失せた。自分の右耳を包む白い包帯を、血の気の引いた指先で恐る恐るなぞる。


 遊び半分でお水を供え、呪いを舐めてかかっていた僕たちに、怪異は最初から『お前の耳をくれ』と要求していたのだ。

 そして現に、奏多の右耳の音は奪われてしまった。


「だから、琴音ちゃんの手首のミサンガも……お地蔵様の首にあった紐も、お水を求めてる人のものなんかじゃないんだ。あのトンネルの崩落事故で亡くなったっていう子供……。

 一体、どんな事故だったのか、詳しく調べる必要があると思う」




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