第9話:盤上の蹂躙2
頭蓋骨の内側で、世界が音を立てて完全に砕け散っていく音がした。
リリアーヌが。私の愛した、私を誰よりも理解し、私をこの世界の王だと讃えてくれたあの可憐なリリアーヌが、私を嘲笑うような冷たい視線を投げた後、ヴィクトリアの足元にひざまずいている。
彼女の口から飛び出した、その低く冷酷な言葉の意味が、私の硬直した脳髄を通過する前に、手の中の羊皮紙が再び強烈な青白い光を放った。
視線が、強制的に、まるで目玉を指で押さえつけられるような暴力的な力で、手元の紙面へと引きずり込まれる。蠢いていた黒い蟲のようなインクの染みが、完全に静止し、新たな文字となって、私の網膜を焼き切らんばかりの黒さで飛び込んできた。
『――ヴァロワ家当主、および次期当主ジュリアン・ヴァロワは、王家に対する国家反逆を企図し、公爵家を貶めようとした大罪をここに自白する』
「……は?」
肺の奥から、空気が完全に消失した。
極限まで締め上げられたコルセットに圧迫された肋骨が、内側から巨大なハンマーで叩き割られたかのような激痛を放つ。
呼吸ができない。
酸素が、一滴も脳に届かない。
視界の端が急速に黒く侵食され、砂嵐が吹き荒れる中で、私の目は、呪われたようにその下の決定的な文字列を追い続けた。
『……以上の大罪を償い、一族の極刑を免れる代償として、ヴァロワ一族の保有する全領地、全財産、魔石鉱山、および爵位のすべてを、アシュクロフト公爵家に無条件で永久に完全譲渡することに同意する。この誓約と自白は、ジュリアン・ヴァロワ本人の血判を以て、不可逆の契約として成立する』
ページの一番下。
そこには、私が先ほど意気揚々と、勝利を確信しながらサインした自らの署名。そして、私の真っ赤な血の紋章が、残酷なほど鮮明に私の破滅の証として刻み込まれていた。
ヴィクトリアから贈られた婚約指輪が、私の魔力と血を吸い取り、自動的に血判として刻み込む呪具だったのだ!
「あ、あ、ああ、あぁ……ッ!? ああああああっ!!」
喉から飛び出したのは、人間の声帯から発せられたとは思えない、首を絞められた豚のような、あるいは車輪に轢かれた獣のような醜い鳴き声だった。
膝の力が完全に抜け、私の身体は重力に逆らうことなく、大理石の床へと無様に崩れ落ちた。
ゴツン、という鈍い音とともに、膝の骨にヒビが入るような痛みが走るが、そんなものは今の私の精神を覆い尽くす絶望に比べれば、羽毛に撫でられた程度のものに過ぎなかった。
「う、嘘だ……こんなの、嘘だ! 何かの間違いだ!」
「リリアーヌ! お前が持ってきた証拠だろう!? 俺を嵌めたのか!? 王家の血を引くこの俺を、こんな罠に……!」
私は床に這いつくばったまま、狂乱して首を振り回し、リリアーヌに向かって絶叫した。
乱れた金髪が顔に張り付き、涙と脂汗と鼻水が混ざり合って大理石の床にポタポタと落ちる。せっかく時間をかけて整えた美しい顔は、もはや見る影もないほどに醜悪に、恐怖と絶望で歪んでいるはずだった。
胃袋が不規則に痙攣し、吐き気が喉元まで込み上げてくる。
リリアーヌが、ゆっくりとこちらを振り返った。その瞳には、私に向けられていた甘い熱や尊敬の念など、一切存在しなかった。そこにあったのは、路傍で潰れて死に絶えた羽虫を見るような、徹底的な無関心と軽蔑。
「私が貴方を愛している? ふふっ、鏡でその滑稽な顔をご覧になってはいかが?」
「本当に、救いようのない方……。貴方のような、自分の身の程も知らず、コルセットで腹をへこませて美しさを気取ることしか脳のない無能な男が、我が主の盤上に立てるはずがありませんでしょう? 貴方は初めから、合法的に一族ごと破滅させられるための、ただの愚かな肉の塊だったのですわ」
彼女の赤い唇が、美しい弧を描いて笑った。
その笑みが、私の精神の最後の支柱を完全に粉砕した。
視界が完全に白濁する。
耳の奥で、キーンという不快な耳鳴りが爆音となって鳴り響く。
自分の呼吸の音だけが、ヒュー、ヒューと、壊れた楽器のように情けなく響いていた。
胃袋が激しく痙攣し、私は床に顔を擦り付けながら、酸っぱい黄色い胃液を大理石の上に撒き散らした。
私の誇り、私の美しさ、私の未来。そのすべてが、この冷たい床の上で汚物と混ざり合い、永遠に消滅していく。










