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私が不要と捨てた元婚約者が身の程を知らずに「ざまぁ」を企てているようですが?  作者: あとりえむ


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第8話:盤上の蹂躙1

天井から降り注ぐシャンデリアの暴力的なまでの光の粒が、ジュリアンの顔面に浮かぶ大量の脂汗をギラギラと、ひどく見苦しく照らし出している。


彼が息を吸い込み、そして言葉を吐き出すたびに、むせ返るような安物の薔薇の香水と、胃液の酸っぱい臭いが混ざり合った不快な風が、私の鼻腔を微かに掠めた。




私は、彼が天高く、まるで勝利の旗のように掲げていた羊皮紙の束へと、手にしていた黒革の扇の先端をゆっくりと向けた。広間を支配する完全な静寂の中、扇の先が空気を切る微かな音だけが、不気味なほど鮮明に、そして決定的に響き渡る。



「……語り終えたかしら?」


私の口から滑り出た声は、磨き上げられた大理石の床を這う極寒の冷気のように、一切の熱も、一抹の感情の揺らぎすら持たずに、彼の足元へと真っ直ぐに滑り込んだ。



その一言が耳に届いた瞬間、ジュリアンの口元から、歓喜の絶頂で硬直していた歪な笑みが、まるで乾ききった土壁が崩れ落ちるかのように、パラパラと剥がれ落ちていくのが見えた。


彼の焦点の合わない濁った瞳が、理解の及ばない恐怖に小刻みに揺れ始める。顔の筋肉が痙攣し、彼が必死に保っていた『勝利者』の仮面が、音を立ててひび割れていく。



「その羊皮紙に書かれているインクの染みを、もう一度、最初から貴方自身の声で読み上げてみなさい。貴方のその貧弱な脳で、それが本当に自分の求めていた言葉なのか、確かめてみるといいわ」


私の言葉と同時に、体内の深奥で静かに眠っていた魔力の塊が、ドクン、と大きく脈を打った。


私の指先から放たれた、目に見えない極寒の波動が、空気を物理的に凍らせながら、ジュリアンが強く握りしめている羊皮紙へと瞬時に到達する。



次の瞬間、空気が焦げるような強烈な匂いが広間に立ち込めた。

ジュリアンの手の中で、彼が『私を断罪する絶対の証拠』だと信じて疑わなかった羊皮紙の表面が、禍々しい青白い燐光を放って激しく発光し始める。


「な、なんだ……!? 熱い、いや、冷た……っ!?」



「手が、紙が……!」



ジュリアンの喉から、首を絞められたカエルのような潰れた悲鳴が漏れた。

彼が恐怖のあまり手放そうと指を開いても、羊皮紙はまるで彼の掌に呪いのように吸い付いたまま離れない。


青白い光の中で、彼が先ほどまで声高に読み上げていた『アシュクロフト家の不正記録』の黒いインクが、まるで意思を持った無数の気味悪い蟲のように蠢き、這い回り、紙面の上で黒い軌跡を描きながら、全く別の文字列へと無慈悲に再構築されていく。



その異様な光景と魔力の圧に、広間の貴族たちから一斉に息を呑む音が連鎖した。

ドレスの擦れる音、グラスを取り落としそうになる音。


だが、私が冷徹な視線だけで彼らを一瞥し射抜くと、その音すらも瞬時にして凍りつき、再び完全な死の静寂が大広間を完全に支配する。


私の背後では、クロードの巨体が発する凄まじい熱量と、獲物を前にした獣特有の、チッ、という舌打ちの音が響き、それが私の背骨に極上の痺れと陶酔感をもたらしていた。




ジュリアンの背後に控え、彼を盲信し、怯えたふりをしてすがりついていたはずの小柄な影が、優雅で隙のない足取りで前へと進み出た。


桃色のふわふわとした髪。純白のドレス。



私の忠実な小鳥、リリアーヌだ。彼女はジュリアンの横を通り過ぎる際、それまで彼に向けていた甘い砂糖菓子のような視線と表情を一切捨て去り、路傍の吐瀉物を避けるかのように、冷たい目でドレスの裾を小さく払った。



「リ、リリアーヌ……? お前、どこへ……行くんだ……? 俺の側に……」


ジュリアンの間抜けで状況を理解できていない声が響く中、リリアーヌは私の足元から三歩離れた正確な距離で立ち止まり、流れるような美しい動作で、深く、深く膝を折った。


純白のドレスが、大理石の床に花びらのように美しく広がる。彼女の細い首が恭しく垂れ下がり、私に対する絶対的な臣従の姿勢が、何百人もの貴族たちの前で明確に示された。


「ヴィクトリア様、ご命令通り、この阿呆鳥を一番高い枝の先まで誘導いたしましたわ」



「……間近で嗅ぐあの男の香水と、恐怖で滲み出た汗の臭いは、私の鼻を永遠に破壊するかと思うほど不快でございました。ようやくこの任務から解放されること、心より感謝申し上げます」


リリアーヌの口から紡がれたのは、ジュリアンに媚びへつらっていた時の頭の弱そうな甲高い声ではなく、氷のように冷たく、そして有能な知性に満ちた、我が家の密偵本来の低い声だった。

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