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私が不要と捨てた元婚約者が身の程を知らずに「ざまぁ」を企てているようですが?  作者: あとりえむ


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第3話:極上の陶酔

舌先で転がした琥珀色の液体は、微かな渋みを残して喉の奥へと滑り落ちていく。最高級の茶葉がもたらすダージリンの芳醇な香りが鼻腔を抜けるのと同時に、私の太腿に、熱く、そしてひどく濡れた感触が這い上がってきた。




「……クロード」



私の膝の上に重い頭を預けていた巨大な黒豹のような男が、私の静かな呼びかけに応えて、喉の奥でゴロゴロと低い、獣のような音を鳴らした。


彼の無造作な硬い黒髪が、私の薄手の室内着越しに肌を擦り、微かな静電気のような刺激を絶え間なく与えてくる。見下ろすと、闇夜で光るような黄金色の獣の瞳が、下から私を真っ直ぐに射抜いていた。



彼の分厚く、異常なほどの熱を持った舌が、私のドレスの裾を捲り上げ、むき出しになった膝から太腿にかけての柔らかな肌を、ひたすらに舐め上げている。


ザラリとした舌の感触。


それはまるで、獲物の骨から肉を削ぎ落とす獣の貪欲な食事のようでもあり、絶対的な神の足元を浄化する狂信者の祈りのようでもあった。



「ヴィクトリア様……あぁ、私の女神。私の唯一の光。貴方様の肌は、まるで極上の絹のようです」


「私の汚れた唾液で濡らしてしまうのが惜しいほどに……でも、止めることができない。貴方様の匂いを、味を、私の身体の奥深くまで刻み込みたいのです」



「私が貴方様のものだと、何度も、何度でも確認させてください……」




クロードの唇から漏れる、熱に浮かされたような吐息。それが私の肌に触れるたび、私の下腹部に重く、甘い痺れが広がっていく。




私はティーカップをソーサーに戻し、空いた手で彼の頭を撫でた。


私の冷たい指先が彼の熱い頭皮に触れると、彼はビクリと身を震わせ、さらに深く私の太腿の間に顔をうずめてくる。



彼の強靭な顎の骨が私の肌に押し付けられ、その質量と熱量が、彼が圧倒的な戦闘力を持つ危険な『オス』であることを嫌でも実感させた。


この女尊男卑の世界の理において、最も忌み嫌われ、排除されるべき純粋で暴力的な闘争本能の塊。それを、私だけの手のひらで完全に制御し、ひざまずかせているという事実が、私の背筋に極上の陶酔感をもたらしていた。




銀のトレイの上に置かれたままになっていた一枚の封筒に目を向ける。


真っ赤な蝋封はすでに切られている。それは、先ほど私の忠実で優秀な小鳥であるリリアーヌから届いたばかりの、暗号化された報告書だった。



私は、クロードの首に巻かれた銀のチョーカーに人差し指を掛け、軽く手前に引いた。



わずかに首が締まるその刺激だけで、彼は即座に私の肌から口を離し、息を荒くしながら、期待に満ちた目で私を見上げる。


しつけの行き届いた、なんて愛らしい猛獣だろう。




「ねえ、クロード。私の可愛い小鳥が、とても面白い囀りを聞かせてくれたわ」




私は報告書の羊皮紙を指先で軽く弾いた。硬い紙が乾いた音を立て、この甘く澱んだ空気を切り裂く。


そこには、ジュリアンがいかに意気揚々と私が用意した『偽の証拠』を書き写し、私を断罪する日を待ちわびているかが、リリアーヌの冷徹で的確な筆致によって克明に記されていた。


文字を追うごとに、私の唇から冷たい呼気が漏れる。



愚か、という言葉すら生ぬるい。自分の首を絞めるための縄を、自らの手で、それも最高の絹糸を使って喜々として編み上げているようなものだ。その縄の端を握っているのが誰かも知らずに。




「あのゴミ虫のことですね」


クロードの声が、一瞬にして絶対零度の吹雪のように冷酷な響きを帯びた。


先ほどまでの甘い吐息は完全に消え去り、彼の身体から、肌を直接刃物で刺すような鋭い殺気が立ち上る。部屋の温度が急激に下がり、ティーカップの縁がカタカタと微かに鳴った。彼の黄金の瞳の奥で、私への狂信的な愛と、他者への残虐な破壊衝動が激しく入り混じり、渦を巻いている。




「あの男が、貴方様を陥れようなどと……」



「想像するだけで私の体中の血液が沸騰し、今すぐ飛び出してあの男の四肢を引き千切りたくなります。あのような汚らわしい存在が、貴方様と同じ空気を吸っていることすら、私には耐えがたい」


「今すぐご命令を!あの首と胴体を永遠に切り離してご覧に入れます」



クロードの太く節だった指が、私の膝掛けを強く握りしめた。その力が強すぎて、上質な生地がミリミリと悲鳴を上げている。彼の奥歯がギリギリと鳴る音が、私の耳にもはっきりと届いた。


私は、彼の怒りで熱く燃え上がる頬に両手を添えた。



私の体温の低さが心地よいのか、クロードの殺気が一瞬だけ揺らぐ。


私は親指の腹で彼の唇をなぞり、その口をわずかに開かせた。



鋭い犬歯に私の指先が触れる。指先を噛み千切られそうなほどの危険な感触。



「焦らないで、クロード。獲物は、一番高いところまで木に登らせてから落とすのが、一番美しい骨の砕ける音が鳴るのよ」


「彼が用意した『王宮の夜会』という最高の舞台。そこで、彼が勝利の美酒に酔いしれ、すべてを手に入れたと錯覚したその絶頂の瞬間に……」




「その足元の床板を、すべて消し去ってあげる」


私の脳裏に、夜会の豪奢なシャンデリアの光が浮かぶ。その光の下で、己の愚かさの全貌に気づき、呼吸の仕方すら忘れて絶望に顔を歪ませるジュリアンの姿。



それを想像するだけで、私の胸の奥で、ドス黒く甘い蜜のようなものがとろりと溶け出すのを感じた。


他者の破滅を完全に盤上でコントロールし、弄ぶこの圧倒的な全能感。これこそが、私という人間の本質であり、彼岸の歓喜なのだ。




「あぁ……ヴィクトリア様……」


「貴方様のその冷酷で、残酷なほどに美しい微笑み……」


「私の魂は、永遠に貴方様のその毒に囚われています。貴方様の悪意すらも、私にとっては救いなのです」




クロードは、私の親指を自らの口に深く含んだ。熱く、湿った口腔内の肉の感触が指先を包み込む。彼が強い吸引力で私の指を吸い上げるたび、私の背骨を電流のような快感が駆け抜けた。



彼の喉仏が大きく上下し、私の一部を飲み込もうとするかのような卑しい音が、静かな部屋に響き渡る。





「そうよ、貴方は一生、私の足元でその熱を捧げていればいい。私の手足となり、私の剣となりなさい。その代わり……」




私は身をかがめ、彼の耳元に直接唇を寄せた。


私の長い銀髪が彼の顔に降りかかり、視界を遮る。彼の耳介に私の熱い吐息を直接吹き込みながら、私は彼にだけ許す、最も甘く、そして重い命令を下した。



「今夜は、貴方のその狂気的な執着のすべてを……私の身体の奥深くまで、残さず注ぎ込ませてあげるわ」




その言葉を聞いた瞬間、クロードの身体が弾かれたように硬直した。




彼の瞳孔が極限まで開き、獣のような粗い息が彼の鼻から噴き出す。


彼の中で何かの鎖が完全に引きちぎられた音が、私の耳にもはっきりと聞こえた気がした。




次の瞬間、激しい力で視界が反転する。


私はクロードの太い腕によって、長椅子の背もたれに乱暴に押し付けられていた。



彼の巨大な影が私を完全に覆い隠し、私の視界には、狂気に染まった極上の黄金の瞳だけが映っていた。荒々しい所作でありながら、私を傷つけないようにと細心の注意が払われているのがわかる。



私は微かに口角を上げ、彼がもたらす熱と暴力の奔流に、自ら身を委ねた。

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