#006
《クロニクルズ》の本質は、他者の力を自分の力に換えるものだ。
力というもののおおきくは魔力と生命力を指す。魔力も元をたどれば生命力を起源にするものだから、いずれにしろ使い果たせばからっぽになって死んでしまう。
だからほどよく吸い上げたとして、他者はひどく脱力を覚えるし、そこが戦場であれば、それがいかに命取りになるかは想像に難くない。
吸い上げた本人は、それで自分に強化をかけることができる。
実に無双に向いているスキルだ。
他者を消耗品にできるなら。
ぼたぼたと剣に血が伝う。青い血だ。
アイス・ドラゴンがのたうち回る。首をほとんど寸断したからだ。かろうじてくっついているくらいじゃ二度と悲鳴はあげられない。
「……ローエン?」
ギオンが呆然と俺を見ている。
竜の首を叩き斬った俺を。
キリィたちも、首をもぎ取られそうだった騎士も、信じられないものをみる顔で俺を見ている。
俺も彼らとともにアイス・ブレスの磔になって並んでいたが、氷をとっとと踏みぬいて、ドラゴンの首を斬ったのだ。
そして体勢を立て直すと、俺は続けざまに、かろうじてくっついていただけの銀色の鱗を断ちきった。
ドロリと溶けた赤い目が血の涙のようにしたたる。もっとも、ドラゴンの血は青いから、この局地的な雨は青い。
アイス・ドラゴンの巨体と首が木をなぎ倒して、どうと斃れる。
「ローエン。君、そんなに強かったのか」
ぼたぼたと血の雨を叩きつけられながらギオンが呆然と言う。
「俺の弱体化を受けて? いや……君、かかってないな」
ドラゴンは死ねばそのブレスの残滓は脆くなる。騎士たちの足元の氷は、俺が剣を突き立てれば宝石の劈開のそれのようにパキンとわれた。
支えをなくして、ふらりと騎士が尻もちをつく。キリィもだ。こっちはデバフ云々より、足の出血がひどい。
「なぜ…………なぜだ? なぜ、俺の能力にかからない!」
ギオンが叫ぶ。俺はキリィの傷を覗き込む。
威勢よくやったのがよくわかる。
すねあてはまさに氷のごとく砕けて血を滴らせていた。
「生命転換」
「ヒール!?」
素っ頓狂な声を上げたのはキリィだ。
「お前、無能だったはずじゃ……!」
キリィの顔が青いのは、雨のせいか、超回復の反動か、あるいは俺を無能だドレイだと見下していた反動だろうか。
俺はキリィの治療を終えるとゆっくりと立ち上がった。
視線の先には、金の鎧をドラゴンの血で青ざめさせた《勇者》が立っている。ギオン・サエモンの顔からは、いつもの余裕ある笑みが消え失せていた。
「ローエン。答えろ。君はなぜ、俺の能力を受けない。俺の力は、女神より与えられし最強の祝福のはずだ」
俺は首を傾げた。
「単純な話では? 『より強力な能力は下位の能力を拒絶する』」
「……なんだと?」
ひく、とギオンの頬が震える。
「下位……? 俺が? 俺より強力な能力だと……?」
「確かに、あんたは素質から高位の能力者だ。いまいち使い慣れていない《鑑定》も、《クロニクルズ》で強化がかかっているいまなら、あの爺よりよっぽどよく見えるんだろうな」
はっとして、ギオンはスキルを行使させた。遅い。後発的な能力はだれしも忘れがちだ。
【ローエン・■■■】
ギオンが明らかに狼狽える。
「何だ、これは……? 見えない? いや、意図的に隠されているのか……? いやっ、そもそも君は、名無しではないのか!?」
一部とは言え《隠匿者》を破っている。
そのあたりはさすがだ。
あの爺鑑定士は、鑑えないことが鑑えなかったのだ。
「ま、まて、スキル……君の、スキルは……っ」
【ローエン・■■■】
【スキル:■■■】
【スキル:■■■】
【スキル:■■■】
【ステータス異常:覇爪の隠匿者(極)(すべてのステータスが隠匿され、また隠匿されたスキルは封印される)】
「何者なんだキミはぁぁぁぁっ!!」
「見ての通り、名無しで無能だろう。そのかわり、三百年前に俺を殺したとっておきの《首輪》は、あんた程度じゃ破れない」
トントン、と首のタトゥーを指す。
《覇双の隠匿者》。
当時の俺のスキルをぶち抜いて俺を支配したもの。
ギオンの目が血走る。
彼のプライドから血がもうもうとあふれている。
冷静な思考もできていない。
俺を叩き潰したくて、殺したくて、仕方がないって顔だ。
だが、俺に《クロニクルズ》は効かない。
「それじゃあ、ガチンコで行こうか」
俺は青い血を振り抜いて、再び剣を構えた。
「とある騎士様がお墨付きをくれたんだ。俺の剣はあんたをも凌ぐかもしれないって。あの人の目利きを試してみたい」
「ロウェェェェンンンンンンン!」
「来いよ。他人のお守りがないと、はしゃげないわけじゃないだろ」




