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#007






 キリィ・ソブはこう言った。



 ──見えなかった。

 




 俺とギオンの打ち合いを目で追うことができなかったんだろう。

 だが、それはなにも俺たちの剣速の異常さを表すとは限らない。

 動くものを見る視力もまた生命力に依存する。視力、聴力、血流、生命の危機に立たされたとき、生存本能によって切り離される順番はだいたい決まっている。


 ガチンコの打ち合いとしながら、ギオンはなおも《クロニクルズ》で騎士たちから力を吸い上げ続けた。


「うっ……ぐぅぅ……!」

「みんな、もっと、もっと俺に力を!!」


 能力を使用して、ギオンはなお俺と五分。

 その事実だけで十分であるはずなのに、ギオンはなおも攻め立てた。

 自分が強くなればなるほど、それに容易く対応する俺に焦りと驚愕を隠せないでいる。


「──もっとだ、もっとっ、みんな頑張れええええ!」


 この打ち合いは、魔物相手ではない、正義のためでもない。だから勝敗に意味はない。騎士たちが命を投じる理由はどこにもなく、その場合、その死は名誉にいたるのだろうか。

 

 キリィ・ソブはこう言った。


 ──冗談じゃねえと思った。

 





(もう限界だな)


《クロニクルズ》によって騎士たちはあとすこしで限界を超える。つまり死ぬ。そして攻撃の手を休めないギオンはあきらかに彼らの死への際限も配慮ももっていなかった。

 俺はひゅっと剣を地面に突き立てると、ギオンの懐に飛び込んだ。

 ギオンの唖然とした顔。

 その顎を拳でぶん殴る。

《クロニクルズ》は使い手の意識を媒介するスキルだ。使い手が昏倒すればそこで途切れる。

 吹っ飛び、倒れたギオンはぴくりともしなかった。

 騎士たちはスキルから解放された。

 解放されて、彼らは立ち上がれなかった。

 きっと体力だけの話じゃない。


 後片付けが染み付いて、俺は辺りを見回した。まだブレスの名残は森中を覆っている。

 相性が悪かったな、と思う。

 ギオンのデバフにかけられた者たちは当然動きが鈍くなる。ドラゴンのブレスはそれを簡単に捉えた。損害は甚大だった。──名誉ある死かは、わからない。


《クロニクルズ》に吸い上げられた力は還るわけではないが、力というのは、わずかでも残っていればそれを循環させいずれ回復する。さすがといったところか、騎士たちは半刻もすればのろのろと動き出した。

 彼らがまずしたことは、ギオンを──肩に担いだことだった。

 その頃には、アイス・ドラゴンが討たれたと知った後方部隊が支援のために到着し始めた。


「ああっ、ギオン様!」

「ギオン様、まさか、お怪我を!?」

「大丈夫だ。疲れて眠られているだけ」

「さすがでございます、さすがでございます。さ、こちらに馬が!」


 ギオンを担いだ騎士がふたり、最後にすこし振り向いて、俺に目礼した。

 バシン、と、背中を叩かれた。

 キリィだった。


 なんだよ、と思ったが、彼は何も言わなかった。

 




 キリィ・ソブはこう言った。



 ──でも、たしかに、あれが勇者の力なんだと思ったよ。








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