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辞表を出した王宮翻訳官、翌朝から王国の契約魔法が全部止まりました  作者: 花守りつ


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食材搬入口第三棚は、夜食皿と証人の外套を聖女院備品にできません

聖女院食材搬入口の第三棚には、食材ではないものが並んでいた。


欠けた夜食皿が一枚。泥の乾ききらない外套が一着。短く巻かれた帰宅灯の芯が二本。ロウの名を裏にした捜索灯油札が一枚。


棚札だけは、白く新しかった。


『候補者備品整理済み。第三棚へ戻入』


ミトは夜食皿を見たまま、半日賃金札の紐を握りしめている。


「皿は、たしかに戻しました。でも、食べた人の名前は、戻っていません」


聖女院側の帳簿係が、棚札を指で叩いた。


「備品です。皿も外套も灯芯も、聖女院が貸したものなら、戻入済みで足ります。町側証人の生活物として別に残す必要はありません」


サラの外套の裾から、乾いた赤土が落ちた。彼女は洗い桶へ手を伸ばしかけ、途中で止めた。


洗えば、泥は消える。泥が消えれば、彼女がどの門を通って呼名できなかったのかも、誰かの都合のいい一行へ沈む。


リディアは第三棚の前へ、青い保留印を置いた。


「戻った場所だけでは、到着したことになりません」


帳簿係が眉を寄せる。


「到着?」


「夜食皿は、食べた人の口へ届いてはじめて完了です。外套は、洗われて明朝の証言者が着られてはじめて完了です。灯芯は、帰宅灯に入って、帰る人を曲がり角まで照らしてはじめて完了です。捜索灯油札は、ロウ様を探す灯りとして燃えるまで、備品棚へ戻せません」


ユアンが短い灯芯包みを胸元から出した。前よりも手は震えていない。


「これを棚に戻したら、捜索は終わったことにされます。だから、戻しません」


彼は油札の裏に、拙い字で書いた。


『捜索継続。備品戻入不可』


ミトが息を吸う。夜食皿の縁を、煤けた指でなぞった。


「では、わたしの賃金札も……皿を戻したから終わり、ではないんですね」


「終わりではありません。あなたが誰へ運び、誰が食べられず、誰の名が空いたままなのか。その生活影響が読まれるまで、賃金札はあなたの名前で保留します」


リディアは皿の下へ小さな紙を差し入れた。


『ミト夜食皿一枚。食事到着未確認。半日賃金保留ではなく本人名で支給待ち』


ミトの肩から、少しだけ力が抜けた。


サラは外套を抱え直した。泥を洗わないまま、裾の赤土と袖口の黒い煤を別々の紙へ押し当てる。


「この泥は聖女院裏門です。こちらの煤は裏台所です。わたしの外套は、罰の証拠ではなく、呼名できなかった場所を分けるために残します」


ミナがその横へ、エルミアの白札を置いた。


以前なら、聖女院の名が出ただけで、誰かがエルミアを犯人欄へ押し込んだだろう。だがミナは、赤札を取らなかった。


「エルミア様の欄も、第三棚の備品欄と同じです。本人が読んでいないのに、戻入済みにはできません」


リディアはうなずき、棚札の文を三つに割って写した。


『皿――食事到着未確認』


『外套――証人帰着未確認』


『灯芯・油札――捜索継続未確認』


そして最後に、別の青札を加える。


『候補者本人欄――読了未確認。第三棚備品欄との同一鍵照合待ち』


帳簿係の顔色が変わった。


「同一鍵など、どこに」


その言葉の終わりを待たず、第三棚の奥で、小さな金具が床へ落ちた。


ミトが拾い上げたのは、棚板の裏に貼られていた貸出票だった。薄い紙には、きれいすぎる字でこうある。


『本人未読欄一括保管鍵。聖女院略号E欄/第三棚備品欄 共通』


サラの外套を抱く腕が強くなる。


リディアはその貸出票を破らず、青い糸で棚札に結んだ。


「皿も、外套も、灯芯も、人の名前も。同じ鍵で閉じるものではありません」


第三棚の白い札は、もう備品棚には見えなかった。


まだ誰かの朝へ届いていないものが、ここで閉じられるのを待たされていた。

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