聖女院搬入口帳は、候補者の声を荷受け封蝋にしてはいけません
聖女院の搬入口は、礼拝堂の白い石とは違う匂いがした。
赤土を踏んだ荷車の轍。藁くずの混じった外套洗い桶。夜食籠を戻すための低い棚。裏口門灯の油皿。その横に、半日賃金札を紐で束ねた小さな箱が置かれている。
リディアが青札を持ってそこへ着いたとき、搬入口帳の上には赤い封蝋が一粒、押し潰されていた。
聖女院の帳簿係が、薄い声で言う。
「荷受け封蝋がある。聖女院は受け取った。候補者本人、または同伴者が搬入口を通った扱いで足りるはずです」
その一文で、黒髪候補者の声も、エルミアの名も、搬入口の荷の中へ押し込まれかけた。
荷役見習いの少年が、半日賃金札の箱の前で固まっている。彼の名はリオ。昨日、赤土のついた籠を受けた者として、帳面の端に小さく書かれていた。
「ぼくが受けたなら、人も受けたことになるんですか」
リオは喉を鳴らした。
「籠と、外套包みだけです。人の声は、聞いていません。名前を呼ばれた人も、返事をした人も、見ていません」
帳簿係はすぐに筆を動かそうとした。
「ならば、荷受け不備だ。半日賃金は差し止め――」
「止めません」
リディアは搬入口帳の上へ、青い線を引いた。
「荷が届いたことは、人が声を出して到着したことではありません。荷受け封蝋は、籠と外套包みがここへ来た印です。黒髪候補者がここで名を呼ばれ、返事をし、夜食籠を本人として受けた印ではありません」
サラが呼名帳を開く。雨で波打った紙の上に、まだ返事のない空白が残っていた。
「搬入口でも、この方の名は呼ばれていません。呼ばれていないなら、宿舎呼名未到達のままです」
ミナはエルミアの略号E写しを見て、唇を噛んだ。それから、自分の夜食札を赤い封蝋の横へ置く。
「エルミア様の名も、声ではなく封蝋で届いたなら、まだ犯人欄には書けません。黒髪候補者と同じ、本人未読の名として保留します」
リオの肩が震えた。
リディアは彼の前へ、細い証言札を差し出した。
「あなたが書くのは、誰を受け取ったかではありません。何を見て、何を見ていないかです」
リオはぎこちなく筆を持った。
『荷役見習いリオ。赤い封蝋つき夜食籠一、外套包み一を受領。人の声・本人返事・同伴者確認なし。人物受領責任者へ転記不可』
最後の字が震えた。けれど、彼は自分の名を書いた。
リディアはその下へもう一枚、青札を置く。
『荷受け封蝋あり。本人到達未確認。黒髪候補者およびエルミア名を本人同伴欄へ転記不可。荷役見習いの半日賃金は、証言を理由に差し止め不可』
外套洗い桶の前にいた見習い少女が、そっと息を吐いた。
「洗い桶へ入れる前、外套にはこの荷札が結ばれていました。洗わなかったことも、書いていいですか」
「書いてください。洗わなかった怠慢ではなく、荷と人を分ける証拠保全です」
赤土、藁くず、夜食籠、外套包み、半日賃金札。
それぞれが、ようやく一つの言葉へ押し潰されずに机の上へ戻ってきた。搬入口帳は、候補者の声を荷にする帳面ではなくなった。
帳簿係は赤い封蝋を睨む。
「では、この封蝋番号は何だと言うのです」
トマが、搬入口帳の下から薄い控えを引き出した。
「同じ番号があります。候補者控室じゃない」
紙の端に、灰で汚れた親指の跡がある。
『聖女院裏台所 灰捨て帳』
リディアは封蝋を剥がさず、青い糸で帳面へ留めた。
「次に読むのは、誰が犯人かではありません」
赤い番号は、外套洗い桶の水面に小さく映っている。
「人の声を荷にしたあと、誰がそれを灰へ捨てようとしたのかです」




