⑨サリバンが来た。パート2
マックから出て長男と次男は公園にかけて行った後、
俺とサリバンは夕食の買い出しに行った。
サリバンが「夏野菜が旬君の旬ですから。」と
夕食は夏野菜カレーになる。
家にスーパーの袋を置いてから
俺はジムへ行くことにした。
久しぶりにフルセットが出来る。
ジムから帰ると長男は塾の課題を済ませ、
次男は1人で本を読み、
サリバンは神妙な顔つきで野菜を切っていた。
子どもの分はサリバンが市販のルーで作ると言う。
市販のカレーじゃ気持ちが上がらん。
大人の分は俺がスパイスカレーを作ることにした。
具材は子どもも大人も一緒で
鶏肉、玉ねぎ、トマト、にんじん、ズッキーニ、ピーマン。
サリバンは嬉しそうだった。
どの女も料理する男に弱い。
俺が食うカレーはだいぶ辛い。
サリバンは辛くて食べられないに違いない。
俺の分だけ香辛料を増す。
サリバンは俺のカレーが気になるらしく
一口味見をした。
「私は無理だわ。」
と慌てて水を飲む。
ほらな。
カレーを食べている時に
ダイニングテーブルに置かれたアレクサに
過去に撮った写真が流れ始める。
サリバンがのぞき込むように見ていた。
日付も場所もランダムで再生されている。
入園式、卒園式、入学式、
赤ちゃんだった頃の長男と次男、
最近登った檜洞丸、
長男の誕生日会、次男の誕生日会、
どうということのない日常の写真、
結婚前の若い妻。
「消そうか?」
死んだ妻が何度も出てくるから聞いた。
「あら、どうして?
よく出来ているわ。
過去の記憶は残しておいた方が
人生は豊かになるでしょう。
同じ体験を共有したことを
家族で確認する、
確認じゃないわね。
一緒に思い出すって素敵だわ。」
「よく出来ている」は
「よく撮れている」のいい間違えか。
俺の聞き間違えかもな。
半日以上一緒に過ごして
サリバンのト書き部分を読むような
理屈めいた言い方に慣れてきた。
風呂がすむと次男がサリバンに絵本を読んでとせがむ。
寝室には子どもの2段ベッドがある。
その横に俺が寝ているマットレスが置かれていた。
俺が寝ているマットレスに次男が寝転ぶ。
サリバンは添い寝をする感じで横になり読み始める。
いつの間にか長男も俺のマットレスに乗っかり一緒に話を聞いていた。
声が聞こえなくなり寝室をのぞくと
3人ともくっつき合って眠っている。
俺はソファーで寝るつもりだったが
空いた2段ベッドの上で寝ることにした。
そのままストンと眠りにつき
妻が夢に出る。
怒っているのかと思ったが
夢の中の妻は俺を見るなり大笑いしていた。
ひとしきり笑った後、何か言っている。
たぶん「ごめんね。」
だったと思う。
そこで夢は終わる。
サリバンに起こされたからだ。
朝7:00。
「これから仕事に行って来ますから
後はよろしくお願いします。」
当たり前の様に言われ当たり前の様にサリバンは家を出る。
てっきり朝食の用意をし子供を学校の送り出すと思い込んでいたので当てが外れた感じがした。
ただコーヒーメーカーにはコーヒーが淹れられ、食卓には「サクサク」の袋が置かれている。3枚敷かれたランチョンマットには白い皿とスプーンが並べられていた。
洗濯物がベランダに干してあり
風に揺られて気持ちよさそうである。
「サクサク」の袋には付箋が貼られ
「冷蔵庫にオレンジとキウイが切ってあります。
必ず食べてから出かけてください。
人間はビタミンCを体内で作れないので
こまめな摂取が必要です。
いってらっしゃい。」
と書かれている。
メモも長ぇな。
「パパおはよう。」
次男が起きてきた。
7時15分に起きてくる長男はまだベッドの中。
いつもの朝だ。
子どもたちは8時に学校へ。
俺は8時半に会社。
次男は18:00まで学童。
長男は学校が終わると塾で帰宅は21:00近い。
サリバンは次男が家に着いたあと18:30に家に着く。
職場から出る時、
家に着いた時、
次男が家にいることを確認した時
それぞれラインをよこしてくる。
リビングに置かれているアレクサにスマホから
次男に電話してみた。
「なぁに?パパ?
おばちゃんいるよ。ご飯作ってる。」
サリバンが次男の後ろで手をふる。
大丈夫そうだな。
仕事が終わり夜11:00に家に着く。
妻が死んでから初めての残業。
寝室をのぞくと昨日と同じで
俺のマットレスでサリバンは次男に絵本を読みながら一緒に寝落ちしていた。
その隣の2段ベッドの下で長男もスヤスヤと寝ている。
俺はシャワーを浴びてプロテインを飲んで
2段ベッドの上で寝た。
そんな感じで一週間が過ぎる。
山ガールたちの提案は快適だった。
平日、朝は俺が子どもたちを見て
夜はサリバンが見る。
妻が生きていた頃の生活リズムに自然と戻っていく。
サリバンは自分の世界に没頭することが多く
何か独り言を呟やきながら家事をこなす。
俺と目が合うと
あわてて子どもの名前を呼ぶ。
「お兄ちゃん、ちょっとお手伝いして。」
「旬くん、今日の絵本を選んでおいて。」
顔が赤くなっているから
俺に好意があるんだろう。
家が片付く。
残業ができる。
仕事帰りのジムも再開。
加奈子とミイナのグループLINEも悪くない。
「上手くいってますね!」
「さすがパパさん。」
「奥さんメロメロじゃないですか。」
顧客トラブル回避のフォロー。
百も承知だがそれでも嬉しかったりする。
10代、20代水商売やっていた頃は
そんな簡単な手口に引っかかる中年の男たちをバカにしていた。
ついに俺も仲間入りってわけか。
「結果オーライでしょ。」
長男が言った言葉が免罪符だな。




