⑥「この人と結婚してくれませんか。」
檜洞丸の縦走でなんとなくパーティーを組んだ山ガール2人。
夕食も一緒なる。
山を下り、次男が楽しみにしていた山バッジを売店で買う。
その後、各自の車に乗りバイバイのはずだった。
しかし帰りに寄った定食屋が人気の店だったらしく山ガール2人も来ていた。
せっかくだからと言われて同じ座敷席に座る。
次男は買ってもらった山バッジを山ガール2人に見せ、
長男も俺はお小遣いで買ったと自慢げにバッジを見せていた。
山ガール2人は相変わらず
「カッコいいバッジじゃん!」
「お小遣いで買ったの?えらいじゃん!」
と息子たちとを上げている。
側から見るとバレバレのヨイショ。
でもまあ、嬉しくなるよな。
続続と定食が届く。
次男 「手を合わせてください。」
全員 「いただきます。」
長男は俺より食べ、3杯目の白飯だ。
俺が長男のおかわりを店員に頼んでいると
「パパさん、この女性と再婚してくれませんか?」
とミイナが出し抜け言う。
そしてスマホの画面を俺に差し出した。
「ほら、この人。」
死んだ妻に似ている。
いや、気のせいか。
中年女はモブだからな。
どれも同じに見える。
「これが経歴です。
ほら、病院の管理栄養士さん。
しかもその病院、有名人とかよく行くところなんです。
病院の名前、聞いたことないですか?
大学もマーチ出てます。
短大で栄養士の免許とった後、編入したそうです。
頭いい人なんでしょうね。
栄養士さんだから子どもちゃんたちに美味しいご飯作ってくれますよ。
栄養バランスもバッチリ。」
写真をスクロールしてプロフィール欄を見せてくる。
写真の女は俺より二つ下の41歳。
死んだ妻と一緒だ。
子どもを育てたいという強い希望を持っているらしい。
つましいながらも経済的に自立しており精神面も安定している優良物件。
婚姻歴はなく両親は今年になって他界。
1人になり愛情を注ぐ対象がほしいのだろうとミイナが解説する。
「ちょっとよしなさいよ。」
加奈子が口を挟む。
「とてもいい人だから早く旦那さん見つけてあげたいって加奈子ずっと言ってるじゃない。」
加奈子は個人がやっている結婚相談所のスタッフらしいかった。
写真の女はそこの会員。
「しばらくそういうのはいいですよ。
時間も気持ちも余裕がなくて。
でもありがとう。
色々心配してくれたんだね。」
俺は満腹になって寝てしまった次男の方を見る。
大福餅の様な頬っぺたにご飯粒が付いていた。
これ以上、面倒なタスクを増やせるか。
「そうですよね。
お見合いしてやり取りしてデートしてとか大変ですよね。
お互い仕事していると日程決めるだけでも一苦労だし。
そんな会員さん沢山見ているな。」
加奈子はしみじみ言った。
「じゃあ、もうそんなのすっ飛ばしちゃえば。明日から一緒に暮らしちゃうとか。」
ミイナがかっ飛ばした解決案を出す。
「ああそれ、意外とうまくいくかも。」
まともそうに見えた加奈子が一転して言い出した。
そして前のめりになって提案して来る。
「パパさん、明日からこの人と一緒に暮らして快適だったら再婚、ダメだったら解散にしましょ。」
おいおい。
要するに俺にその中年女を押し付けて仕事の成績を上げたいわけだろ。
新手のデート商法か?
昔バイトで営業をやった事がある。
家を訪問しドアが開く。
話を聞く女とはだいたい契約が取れた。
別に商品が気に入ったからではない。
セールストークをしている俺に惹かれて契約しているのが大抵のパターン。
幼い頃から容姿は褒められた。
俺、弟、妹3人とも似た様な顔立ちで近所の女たちから美形三兄弟と呼ばれて育つ。
16歳くらいでイベント会社に所属しオーデイションを受けたり某有名テーマパークで踊ったりしていた。
高校卒業後もそんなことをしながら銀座のクラブのママの愛人にもなる。
女のあざとさは嫌というほど見る羽目になったわけだが。
20代後半に差し掛かりこの生活は続けられないと悟る。
大手下請けのIT会社に潜り込んだ。
そんな時に死んだ妻と出会う。
出会って1年で結婚。
結婚1年で長男が生まれた。
その年に親会社の親会社にまで引き上げられ給料が倍になる。
「私、絶対上手くいくと思う。
私の勘、当たるんです。」
加奈子の熱を帯びた声で
回想が破られる。
「もう再婚しちゃったと言うことにして
その人のこと『ママ』って呼んじゃって
型からはまりましょ。」
あほか。
呆れている俺。
その俺に向けられた山ガール2人の期待に満ちた目。
しばしの沈黙の後、
「パパ、試してみようよ。」
聞いていないようで全部聞いていた長男がポツンと言った。
皆一斉に長男に視線を注ぐ。
「もう家の中ヤバくて限界でしょ。
ママがいた頃だって
旬がまだ幼稚園の時、
色んなベビーシッター来てたし。
俺も旬もよその人が家のいるの慣れてるよ。」
「お兄ちゃん、協力してくれるの?」
加奈子は長男の手を取る。
「まあそんな感じ。
そのベビーシッターのおばさんを『ママ』って呼べばいいだけでしょ。
取り敢えず今は家が片付けば何でもいいよ。」
長男は家庭が回らなくなりつつある現状をヒシヒシと感じているのだろう。
突飛な提案でもすがる様な思いなのかも知れない。
9時間山で苦楽を共にしたからなのか。
単にデート商法に引っ掛かっているのか。
いや、今回は前者だ。
山を登るやつに悪いやつはいない。
「そうだな。試してみるか。」
「じゃあ、明日連れて行きますね!」
俺も焼きが回ったな。




