表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/16

④妻を突然亡くした男

さて、困った。

妻が死んで2ヶ月が過ぎた。

動脈瘤(どうみゃくりゅう)破裂(はれつ)

救急車(きゅうきゅうしゃ)で運ばれたが病院に着く前に死亡。


あれから大変だった。

病院で死んでいないから

警察(けいさつ)が来た。

保険関係(ほけんかんけい)など形式的(けいしきてき)に聞かれる。


規則(きそく)なのはわかるが

(はらわた)が煮え()り返った。


こっちは妻が死んだんだ。

ふざけんなよ。


葬式(そうしき)がすみ、親戚(しんせき)や友だちが入れ替わり立ち替わり来た。

あまり覚えていない。


少し落ち着き、日常に(もど)り始めた。


子どもたちは学校へ。

俺は仕事。


長男は小学4年。

次男は小学2年。

まだまだ母親が(こい)しい頃だ。


長男は「俺がしっかりしないとママが悲しむから。」

と泣くのを(コラ)える。


次男は「僕もママの所に行きたい。」と泣く。


俺が支えてやらないと。

残業(ざんぎょう)なしで帰る日が続く。


妻の母親は遠方(えんぽう)に住み認知症(にんちしょう)傾向(けいこう)が見えた。

父親は亡くなっている。


自分の両親には(たよ)る気はサラサラない。

上手くいかなくなるのは目に見えていた。

父親も母親もそれは承知(しょうち)でいる。

心配はしてくれているが

向こうから積極的(せっきょくてき)には関わってこない。


俺なら一人でも息子二人を育てられる自信(じしん)はある。

が、やはりハードだ。


(わずら)わしくて人間に相談する気になれずAIに相談する。

俺を(いたわ)る教科書通りのような言葉が返ってくる。


そんなものは役に立たない。

今ははっきりとした解決策(かいけつさく)がほしい。


AIは俺の意図(いと)()んだかのように続ける。

「何らかの『助け』が必要でしょう。」


家事代行(かじだいこう)、ベビーシッター、俺でも思いつく。

毎月いくらだ?


誰かにやってもらいたいがそこに金を()けたくない。

教育費(きょういくひ)だってある。


中学受験の(じゅく)がバカ高い。

長男はやる気になっていて今更(いまさら)辞めさせるのは(コク)すぎる。

二馬力(にばりき)が俺だけになったのは正直(しょうじき)痛かった。


食事は何とでもなる。

死んだ妻は料理(りょうり)はする方じゃなかった。


掃除(そうじ)洗濯(せんたく)だって極限(きょくげん)まで汚くしても俺と息子たちは大丈夫だ。

週末(しゅうまつ)まとめてやればいい。


と思っていたが

週末やればいいは()てが(はず)れた。


俺たち3人は休みになると家にいない。

どこかしらの山に登る。


仕事のある日は仕事で気が(まぎ)れる。

しかし休みの日は現実(げんじつ)と向き合うことになる。

息子たちを連れて山に行かないと気が(くる)う気がした。


だから家の中は片付(かたづ)かない。

足の()み場がないほどだ。


いや、足の()み場は点在(てんざい)している。

そこを足がかりに歩くから困らなくなる。

それで余計(よけい)片付けない。


キッチンのシンクは見たくもなかった。


さすがに限界(げんかい)だ。


AIは次々と提案(ていあん)してくる。

「お子さんの理解(りかい)充分(じゅうぶん)に得た上で再婚(さいこん)検討(けんとう)してもいいでしょう。」


AIのくせに月並(つきな)みだ。

どこから調達(ちょうたつ)すればいい?


出会って関係(かんけい)を深めて

子どもたちが(なつ)いて

そんな正統派(せいとうは)は気が遠くなる。


子育てパートナー、

注文(ちゅうもん) 当日(とうじつ) 郵送(ゆうそう) 翌日着(よくじつちゃく)

到着後(とうちゃくご) 即使用可(そくしようか)


なんてな。


2段ベッドから息子たちの寝息(ねいき)が聞こえて来る。


取り敢えず家事代行(かじだいこう)は頼むしかないだろう。

俺も寝るか。


明日は午前(ごぜん)4:00起きだ。


檜洞丸ひのきぼらまる縦走(じゅうそう)する。


ツツジ新道(しんどう)入り口から入り、ゴーラ沢出合(さわであい)展望台(てんぼうだい)()てツツジ新道(しんどう)檜洞丸(ひのきぼらまる)


青ヶ岳山荘(あおがたけさんそう)では長男にコーラを買う約束をしている。

次男はポカリにするか悩んでいるそうだ。


下山ルートは熊笹(くまざさ)(みね)から大笄(おおこうげ)小笄(ここうげ)犬越路(いぬごえじ)用木沢出合(ようきざわであい)東沢林道起点(ひがしざわりんどうきてん)、ツツジ新道(しんどう)入り口。


俺は一人で縦走(じゅうそう)したことがある。

下山時(げざんじ)対面(たいめん)する富士山(ふじ)圧巻(あっかん)だった。


子どもの足で9時間くらいか。


長男の(じゅく)が金曜日に振替(ふりかえ)になったから組むことができたルートだ。


小学2年の次男が少し心配だが最悪(さいあく)の場合、

荷物を置いて俺が肩車(かたぐるま)すればいい。

小学4年の長男は大丈夫(だいじょうぶ)だ。

あいつは自分のペース配分(はいぶん)をよくわかっている。




山を始めたのは長男が生まれた(あと)


丁度(ちょうど)アウトドアブームが来ていた。


子どもも出来たしなとブームに乗る。

そんなファミリーキャンプから始まった。


テントをそろえたりするうちに登山について興味(きょうみ)を持つ。

初めて登った(やつ)(がたけ)がきっかけでやみつきになる。


登山が趣味(しゅみ)だと言うと昔の知り合いからは(おどろ)かれた。


「あのチャラチャラしてたお前が?」


1番驚(おどろ)いているのは俺自身だな。

まさかこんなにはまるとは思わなかった。


妻が生きている(ころ)は1人で登っていた。


平日だったら有給(ゆうきゅう)を取る。

休みの日だったら登ろうと思う山を決め、その近くのキャンプ(じょう)を探す。


妻と子どもたちは1日中そこの近くの川や天然(てんねん)のアスレチックで遊び、俺は山に行く。


「山男に()れるんじゃなかったわ。

母さんの言う通り。」

妻の口ぐせ。


妻の父親も山に登る男だったから

俺が山を登ることに理解(りかい)はあった。


しかし大賛成(だいさんせい)というわけではない。


きっと妻の母親もそうだったのだろう。


妻はよく俺が山の準備(じゅんび)をする度にリュックをのぞいたりしながら

「あなたの好物は飯盒飯(はんごうめし)なんでしょ。

飯盒(はんごう)が入ってないわ。」

とからかってきた。


どうやら山男を歌った昭和歌謡(しょうわかよう)があるらしい。


そこの歌詞に

「山男の好物(こうぶつ)は山の便(たよ)りと飯盒飯(はんごうめし)

というくだりがあり妻の母親がよく歌っていたそうだ。


飯盒(はんごう)なんて重たくて持っていくやついねぇよ。」


妻は笑う。

「あなたが楽しそうにしていると何だか私も楽しい。」


(うそ)ではなかったと思う。

実際、登山を趣味(しゅみ)にしている俺を周りに(ひか)えめながら自慢(じまん)していたのを知っている。


ただ「冬の剱岳(つるぎ)に登る。」と言ったときは茶碗(ちゃわん)が飛んできた。


言わずと知れた名峰(めいほう)剱岳(つるぎだけ)

妻の父親は大学時代に登頂(とうちょう)している。


まあ、次男が生まれたばかりだったしな。

茶碗(ちゃわん)を投げつける妻の気持ちもわかる。

剱岳(ツルギダケ)は子どもが巣立ってからと約束させられた。


(さき)に死んだのはお前だったけどな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ