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⑭1億円で「家族」を販売する男。

「村松社長っ!」

「あの2人上手くいっていまぁす。」

「成功報酬はずんでくださいね。」

ドアが開き加奈子とミイナのはしゃいだ声が響く。


「まだ1ヶ月じゃないか。

3ヶ月続いたらデカく渡す約束だろ。」


「そうですけど。」

「もう家族みたいになってますよ。」

「ねー。」

2人は顔を見合わせてケラケラ笑う。


「再婚式とか挙げちゃったら

社長、サプライズで出席してあげたら?

パパさん驚くんじゃないですか。」

加奈子が提案してきた。


「ないね。

あいつの性格知っているからな。

仕組んだとわかったら全ておじゃんだ。

2度と会わないのがお互いのためってやつ。」


「へえ。」

と加奈子とミイナは残念そうに顔を見合わせる。

しかし今月の報酬を受けとると嬉しそうに今度行く旅行の話をしながらオフィスを出て行った。



その孤独な女から金を奪ってしまおう。

漠然(ばくぜん)と考えたのが始まりだった。


40代後半になり急に事業が上手くいかなくなった。

借金がかさみどうにでもなれと思っていた矢先に

1億円の遺産が入った女の話を聞く。


女はそれまでの生活を変えることもなく(わび)しい一人暮らしを淡々と続けているという。


弁護士をしている友人と飲んだ時である。


その友人が担当しているわけではなかった。

しかし内情にかなり詳しいようで

女のことをこと細かに面白おかしく話す。


女の両親は女が高校進学とともに離婚。

1億円の財産はその時離婚した父親からのものだった。


「25年以上も会ってない父親から1億円だなんて棚ぼただよな。ほら、この女。」

友人はスマホでSNSの記事を見せて来た。

どこかの子ども食堂がアップしたものである。


黒髪をシニョンにまとめた中年女が子ども達にご飯をよそっている。

優しそうな笑顔だが

先ほどの一人暮らし云々を聞いていたからか寂しげに見えた。


誰かに似てるな。

あー、あいつのかみさんか。


20年前までよくつるんでいた5つ下の調子のいい色男。

顔が良くて俳優になろうとしていたっけ。


あいつが銀座のママの愛人を辞めたあたりから連絡を取らなくなった。


音沙汰なしの20年。

それがつい最近、共通の知り合いから

かみさんを亡くして大変そうだと聞く。

俺はあいつが普通のサラリーマンになり普通に結婚したことの方に驚いた。


それからあいつのSNSを見た。


あいつはほとんどアップしていないが

かみさんの方は家族や自分の写真をちょくちょく上げている。


結婚した時の記事までさかのぼって順に読んでみた。

 

結婚、出産、引っ越し、子どもの入園、また出産、入園、入学と時々どこかへ出掛けたエピソードなんかをはさみながつらつらと続く。


まともな道に進んでいったんだな。


今年の4月2日、長男の誕生日の記事で更新が止まる。


ああ、死んだのか。


そんなことがあった次の週。

その死んだかみさんによく似た孤独な女の話が出る。


俺はその女の金がほしい。

フッとふざけた詐欺を思いつく。


バツニの俺の経験からいうと

家族はパズルみたいなもんだ。

似たようなピースで代用がきく。


はめ込んでしまえばそれなりの絵が出来上がる。


女の方は俺が引っ掛ける。

あいつの方は若い女に引っ掛けさせるか。


イベント会社を経営しているから人脈はそこそこある。

適当な20代の女、加奈子とミイナに声を掛けた。


育ちがいいから詐欺の手伝いでは断られる。

古い友人を助けたいから協力してほしいという名目にした。

そして悪くない報酬額を提示する。


女というのはこういう世話が好きなんだろう。

2人ともやけに乗り気だった。


俺はホームページを作り

オフィスの看板を変える。

そしてその寂しい女に声をかけ

パンフレットを渡す。


さあ、くだらないショーの幕開けだ。

金が転がり込んでくる。


寂しい女は信じたようでオフィスに姿を現す。

あとは簡単だった。


あらかじめ作っておいたそれってぽい資料を見せる。

納得感を出すために夫、子どもたちは女に選ばせた。


カタログに載っている男たちはAIに作成。


あいつは顔が良く、下町とはいえ都内住み。

年収も平均よりも高いから

中年女からは選ばれやすい。


仮に違う男を選んだとしても

売れてしまったなどと言って

あいつに誘導してしまえばいい。


子どもたちの写真は女に似るよう少し顔を加工した。

元から死んだかみさんに似ているからそのままでもよかったかもしれない。


女はドンピシャで2人を指名する。


こっちも他の子どもたちを選ぼうとしたら俺が誘導するつもりだったが上手くいった。


さて、次は加奈子とミイナの仕事。


あいつの身辺に探りを入れ

近々山に登ることを知る。

檜洞丸(ひのきぼらまる)」という山だった。

覚えにくい名前である。


加奈子とミイナにも登らせることにした。

2人とも売れないながら舞台に立っていてジムに通っている。

休日はスキューバにスノボとレジャーを楽しんでいるから体力は申し分ない。


まずは顔見知りになるだけのつもりだった。


しかし何の流れかトントン拍子にことが進む。


俺は引っ掛けておいた女に電話をかけた。


「お買い求め頂いた家族の手配が整いましたので明日の朝、迎えに参ります。」


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