表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/16

⑫サリバンと金北山。

「また息子たちを連れて来るよ。」

と山頂付近を見上げて富士を後にした。


さて時間が空いてしまったので

富士山の近くにある子どもの国による。


広い公園でアスレチックやカヌー、魚釣りなどが出来る。


その他、色んなイベントをしていた。


子どもたちは富士登山のことなどもう忘れて

夢中になって遊んでいる。


ほどなくして似たような年頃の子たちと仲良くなる。


向こうの家族構成は

父親、母親、兄、妹。


兄は長男と

妹は次男と同じ歳だった。


流しそうめんが始まると放送が流れ皆で行く。


小雨が降って来た。


そうめんって気分じゃねぇな。


俺はパスして野外に設置されたテントの下で待つことにする。


ダイニングテーブルとイスが並べられていた。


向こうの父親もそうめんはごめんだったようで

イスに座って子どもたちをぼんやり見ている。


サリバンは向こうの母親とすっかり打ち解けていた。


自分と子どもたちがそうめんを箸ですくっている様子をお互いのスマホを交換して撮りあいっこをしている。


父親は俺に気づくと軽く会釈をした。

俺も会釈を返して少し離れたイスに座り

やっぱり子どもたちをぼんやり見る。


この父親と俺、

同じようなこと考えてんだろうな。


仕事で疲れてるとはいえ

家族サービスはいやじゃない。

むしろ楽しみと言える。


しかしこういう状況、

初対面のちょっとわずらわしい交流は

妻に任せてしまいたい。


そして楽しそうにしている自分の家族を

遠くから眺める。


いいもんだ。


そうめんを食べ、2時間ほどまた一緒に遊ぶ。

長男の塾の時間が気になる頃になった。


午前12時前にその家族とはお別れとなる。



昼時だったので帰り道、地元の定食屋に寄ることにした。


「僕、カニクリームコロッケね!

僕カニクリームコロッケ大好き。」

次男は壁に張り出されたお品書きを見ながら興奮気味に騒ぐ。


そんな次男にサリバンは豚肉料理をすすめる。


「ソース豚カツどうですか。

旬くん甘いソース好きでしょう。

カツ丼も甘いタレとトロッとした卵が美味しそうです。」


「ヤダよ。カニクリーム!」


「豚肉にはビタミンB1が豊富含まれ疲労回復にいいんですよ。

もっと言うとニンニクやネギとと一緒にとるのが好ましいです。

ニンニクやネギに含まれるアリシンがビタミンB1と結合して小腸でのビタミンB1を吸収を良くしてくれるんです。」

サリバンは食い下がる。


「好きなもの食わしてやれよ。

今日頑張ったんだから。」

見かねて俺が言う。


サリバンはハッとしたようだった。

「そうですね。

好きなものを食べれなかったというストレスでコルチゾールが出てきて糖新生を起こしたら身体の損です。

旬くんカニクリームにしましょう。」


「だから最初からカニクリームって言ってるでしょ。」

次男は足をパタパタさせている。


別にサリバンの言うことを気にしたわけではないが

俺は豚ニラ炒め、

長男は豚肉ネギ塩丼を頼む。


サリバンは豚肉甘みそ焼きを頼み

次男の皿に少しのせる。


「お肉を食べたらママがキャベツを半分食べてあげます。」


そして長男が白飯をおかわりすると

その上にも甘みそ焼きをのせていた。


どこかの田舎のおばあちゃんみたいだな。


飯がすみ、ライズの乗りこむ。

高速に入ると助手席に座っている長男も

後部座席に乗っている次男も眠ってしまった。


「いい山でした。」

静かさを破るようにサリバンが言う。


「そうか? 登頂出来なかったけどな。」

「いいんです。

全部いい思い出になるんです。


私は本ばかり読んで実際に山に登ったのは

今日を除くと一度しかありません。


小学一年生の時です。


故郷の島で一番高い金北山に登りました。

確か年に一度の地域イベントだったと思います。


一番高いと言っても1171.9メートルほどの山です。


でも当時小学一年生の私にとってはずいぶん険しい登山に感じられました。


足が痛くなってもうダメだと思った時に

突然視界が開けたんです。


高い木々がなくなり

空気が変わりました。


私は何もない白っぽい山肌に立っています。


天国かと思いました。


続く尾根が見え、

眼前に広がる雲海と下界。

あの感動は忘れられません。


『頂上だよ。おめでとう。

今日の金北登山で

登りきった一年生は君だけだ。』


先に登頂していたガイドのおじさんに言われました。


私は誇らしかったです。


辛かったけれど頑張って登って良かったと思いました。


山頂で配ってもらったぬるいほうじ茶も美味しく感じました。


私の他に一年生がもう一人登っていました。


その男の子は途中で歩けなくなり

自衛官のお兄さんにおんぶされて登頂を果たしていました。


自分の足で登頂できなくて残念だったね。

当時の私はその子に同情していました。


でも歳を重ねて気づいたんです。


自衛官におんぶされて登ったこともいい思い出なんです。


大人になってふと思い出す時、

そんなこともあったな、

自衛官のお兄ちゃんは軽々と俺を持ち上げたな、

背中、あったかかったな、

全ていい思い出に変わるだけなんです。


今日の富士山(ふじ)もそんな思い出なんです。」


「ふぅん。」と適当に相槌を打つ。


相変わらず話長ぇな。


「あと、これを。」

サリバンは後ろから俺に何か渡し

そのまま寝てしまう。


「カフェイン増量!激辛注意!!」

とでっかく印字されたミントタブレットだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ