表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/55

25話

「貴方が竜神カウルと出会い、魔女の墓穴を巡る旅をした数万年前、歯車は狂った。しかし今!! すべての帳尻は合う!! この時を、俺はずっと待っていた!! さぁお望みどおり、貴方から罪を分離させようぞ! この星の色! ようやっと喰らわせてもらう!!!!」


「そういうことか。今までイデルバのフリをして、天界をめちゃくちゃにして、神すら傀儡にしたお前の目的……」


「えぇ、すべては貴方から罪を抜きとる、ただそれだけの茶番です。いやぁ、それにしても随分と遠回りをしましたが、漸く私にその力を行使してくれました。本当に、本当に長かった。まさか数千年前、私が星を喰らう前に星を破壊して、小惑星帯アステロイドベルトを作るとは」


 なんとかナイフを発色させて全身を包み込んだ粘液から抜け出すが、その身に宿っていた罪の半分を抜かれ、メルフィはその場に倒れ込む。


 朦朧とする意識の中、イデルバを睨みつける。


「イデルバ……いや。色喰。その罪は人の業であり、ただそれだけの代物。人でもないお前には無用の長物だぞ……」


「意味はありますとも。罪とは行動原理、罪とは力、罪とは概念。そう、それは神にすら等しいものなのです。この世界は以前喰した星によく似ていますが、なにぶん神なる存在によって抵抗力が異様に強い。まるで何か見えない力で守られているような」


 演者のように喜怒哀楽を瞬時に変えるイデルバは、酷く悩んだ様子で顎に手を当て、ギョロリと額の色相環で吐血するメルフィの瞳を覗き込む。


 すべてを見透かすような気味の悪さと、絶体絶命の状況下。


 このまま諦めることもできただろう。


 しかし、メルフィは胸を張り、決してその誇りを失うことなく、煌めく瞳でほくそ笑む。


「つまり、この星における神に近しい『罪』を理解すれば、お前の悲願は成就する、と……? はは。そんな上手くいくかよ。お前に抵抗しているのは今までお前が喰らった星々、その残穢だ。せいぜい寝首をかかれないことだな」


「ふむ。まぁいいでしょう。罪を天使に移植し理解を深めれば、この世界における脅威は克服したも同然。えっと、確か神に仕える騎七柱……贖罪の大天使シックスナイトでしたかね? あれを実験に使いましょう」


 不敵な笑みを浮かべ、王手を指すような優越感を漂わせるイデルバ。立ち上がろうとするメルフィの四肢を、躊躇うことなく触手で貫き、最後の仕上げに取り掛かる。


「しくじった……」


 ただ天使による反乱だと思い込んでいた、その結果がこれだ。


 能力を出し惜しんで外の神に隙を突かれ、魔女たち皆に託された思いを無碍にして、私は何一つ果たせなかった。


 磔にされた腕を無理やり曲げて胸元の服を握り締める。


 後悔ばかりの人生だった。


――カウル。ごめん……もう一度……。


「あなたと旅がしたかった」


 震える唇で言葉を呟いたメルフィはそっと目を閉じて涙を流す。瞬間、青白く発光する全身は、水が氷るかのように少女を足元から徐々に青く美しい鉱物に包んでゆく。


 それは惑星が球体を維持していた数万年前から除外し続けていた選択。


 はるか昔、時代の転換点である色彩戦争。


 生きとし生けるもの全てを死守するために各地で柱となり、メルフィにすべてを預けて眠りについた六人の魔女の目覚め。


 すなわち、私に内包された罪の開放。


「罪を抜かれてなお、まだあなたにそんな選択があったなんて!! 流石は最後の魔女様だ!!」


 突然のメルフィの発光に触手が弾かれ、反応が遅れたイデルバは、メルフィの行動を阻止するため扱える全ての触手で抵抗を試みる。


 しかし、間に合わない。


 メルフィは祈るように両手を握り、仰いだ空に青を見る。



「――原罪解放(レプリエンド)――」



「やったな!! 己の罪を解放し、柱となった魔女の目覚めを優先しましたか!!」


 涙を流しながらメルフィが完全に鉱物に飲まれる寸前。


 躊躇うことなく殺すための行動に移るイデルバ、計画が完遂する瀬戸際、手を伸ばそうとした瞬間。


 突如として動きが止まる。


「この身体は私の物です。……イデルバ……お前はもう死んだはずだろ!! 今更!! 今更!! くそ!! 今じゃないだろ!!」


 たった数秒、はるか昔に肉体の主導権を奪われた人格の最後の抵抗。


 全身の動脈が浮き上がると、イデルバの肉体をめぐる血管はその筋繊維を硬直させ、楔のようにその場に締め付ける。


「はは。残念だったな……これで、お前はすべての罪の回収は困難になった。ざまぁみろ」


「『不愉快だ』」


 全く違う声音で突如顔を歪めるイデルバは、すぐに我に戻り小さく咳をして話を戻す。


「ま、なに。各種大罪の能力は十分サンプルとして奪うことができたのでよしとしましょうか。数十年、予定がずれるだけ」


「その数十年に……後悔するな」


「数万年、何もできなかった下等生物がほざくな」


 メルフィの仮死によって世界に点在する魔女の墓穴へと飛散した罪。目を覚ます魔女。


 メルフィが封印された鉱物を砕こうとイデルバが手を伸ばしたその時、窓の向こうに光の柱が天を貫く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ