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第37章 「大和の最高名門(藤原・鹿島信仰)」と「東北の超巨大勢力(阿部氏)」の血脈

奥州藤原氏(平泉)と鹿島神(および神社)の関係は、大和王権の「武力による征服」の歴史を、奥州独自の「仏教と神道が融合した平和郷」へと塗り替えていった、壮大な思想的・政治的リブランディング(再構築)の物語ともいえます。

12世紀、岩手県の平泉を中心に、東北に一世紀近くにわたる黄金の平和をもたらした奥州藤原氏(清衡・基衡・秀衡)。

彼らは、阿倍氏の残したアテルイ以来受け継がれてきた『みちのく(蝦夷)』の遺産と、前述した坂上田村麻呂や大和王権の「進軍ルート」をそっくりそのまま受け継ぎながら、神社との関係性を全く新しい形へと昇華させました。

奥州藤原氏が鹿島神を崇拝し、平泉の地を築き上げるにあたって神社をどう活用したのかみていきましょう。


奥州藤原氏が鹿島神を極めて重要視した最大の理由は、彼らが「藤原氏」の血を引いていたことにあります。

藤原氏の本家(京都の摂関家)が奈良に建てた氏寺・氏神社が、世界遺産でもある「春日大社」です。

春日大社の第一の御祭神は、常陸国(茨城県)から白い鹿に乗ってやってきたとされる武甕槌命(タケミカヅチ=鹿島神)です。

奥州藤原氏の初代・清衡(きよひら)の父・藤原経清は、かつて大和王権が太平洋側を北上させた「阿部氏」の娘を妻に迎えていました。

つまり、彼らの身体には「大和の最高名門(藤原・鹿島信仰)」と「東北の超巨大勢力(阿部氏)」の双方の血が流れていたのです。

彼らは沿岸部の鹿島神社を崇拝することで、自らの血統の正当性を奥州全土にアピールしました。


奥州藤原氏は、前九年・後三年の役という凄惨な内戦を経て誕生しました。

初代・清衡は、敵味方なく戦死したすべての命(蝦夷も大和の兵も)を平等の立場から弔うため、平泉の「中尊寺」を建立しますが、その際に田村麻呂が敷いた鹿島・八幡の「軍事ライン」を「平和と鎮魂のネットワーク」へと転換しました。

田村麻呂がアテルイを討つために進軍したルート(福島・宮城・岩手)に点在する鹿島神社や八幡宮に対し、奥州藤原氏は莫大な黄金や領地を寄進し、手厚く保護しました。

これは、「かつては戦争のための神だったが、これからはこの奥州一国の平和を守る守護神になってくれ」という、生々しい過去の戦争記憶を和らげ、宗教的に昇華させる高度な政治工作でもありました。


奥州藤原氏の本拠地である平泉(岩手県)を訪れると、彼らが仏教(浄土思想)の理想郷を築くにあたり、神社を「平泉を邪気や敵(京都の朝廷)から守るための聖なる結界(セーフティネット)」として配置したことが分かります。

平泉の二大寺院の一つ、毛越寺の境内には、現在も「白山神社」の能舞台が残されています。

藤原氏は仏教の寺を建てる際、必ず地元の神や日本海側・加賀の霊峰に由来する白山神を「鎮守(守り神)」としてセットで祀りました。

平泉の基準点となる聖なる山・金鶏山の山頂には、蔵王権現を祀り、周囲を神社で取り囲むことで、平泉一帯が聖域であることを目に見える形で示しました。


これまでの話を統合すると、日本の古代から中世の幕開けにかけてのダイナミックな歴史のうねりが完成します。

4世紀に「丹後半島(海部氏)」が握っていた日本海の富は、5世紀に「越の国(継体天皇)」を経て大和王権の中枢へと駆け上がりました。

そして、その王権の拡大のエネルギーは、7〜8世紀に「阿部氏」や「鹿島神」を伴って太平洋側(福島・石巻)を怒涛の勢いで北上し、最終的に「奥州藤原氏(平泉)」という、日本海と太平洋双方のネットワークを掌握した前代未聞の「黄金の独立王国」を生み出すに至ったのです。

奥州藤原氏が崇拝した鹿島神は、かつて東北の民を震え上がらせた「侵略者の武器」でしたが、平泉の時代には、奥州の自立と平和を担保するための「誇り高き盾」へと、その役割を180度変えていたのです。

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