第六章 影の守護者、静かに現る
都市の光は、いつもより硬く瞬いていた。
畿央都の夜景は本来、呼吸するように穏やかに揺れる。
だが最近の光は、どこか刺々しく、落ち着きがない。
舞夢はその変化を、胸の奥のざわつきと同じ質のものとして感じていた。
揺らぎの守り人の警告が世に出てから、社会は急速に熱を帯びた。
専門家、政治家、インフルエンサー、匿名の誰か。
誰もが舞夢の言葉を切り取り、自分の主張の材料にした。
「舞夢は正しい」
「舞夢は危険だ」
「舞夢は利用できる」
「舞夢は嘘をついている」
そのどれもが、舞夢の本心とは無関係だった。
討論番組では、舞夢の無表情が「冷酷」「無責任」と切り取られ、
Q-Streamでは、舞夢の言葉が「予言」「陰謀」「政治的メッセージ」として勝手に解釈された。
舞夢は、ただ事実を報告しただけだった。
揺らぎの守り人が伝えたことを、加工せずに伝えただけ。
それなのに、世界は勝手に意味を付け、勝手に争い始めた。
ある夜、舞夢は自宅の窓辺で、暗い街を見下ろしながら呟いた。
「……どうして、こんなに……騒がしいのか」
都市のざわめきと、人々のざわめきが重なり、舞夢の感覚は常に過負荷ぎみだった。
バンド活動も休止していた。
ライブハウスの前には記者が張り付き、
メンバーに迷惑をかけることを恐れた舞夢は、
自らステージから距離を置いた。
音楽がないと、心の揺らぎを整える術がなくなる。
舞夢は、静かに疲弊していった。
そんな中、職場でも変化が続いていた。
庁舎の改装、人事異動、セキュリティの強化。
情報インフラ整備局は、これまでにない慌ただしさに包まれていた。
庁舎の受付が新しくなったのは、春の光がまだ冷たさを残していた頃だった。
改装工事の匂いがわずかに残るロビーに、見慣れない女性が立っていた。
やや青味がかった髪、姿勢はまっすぐ。歳は自分と同じくらいか、やや上にも見える。
第一印象は「少しきつそう」。
だが、舞夢が近づくと、その女性はふっと柔らかく微笑んだ。
「琴平さん、ですよね。今日から受付を担当します、山崎です。よろしくお願いします」
声は驚くほど優しかった。
舞夢は軽く会釈する。
「……よろしくお願いします」
山崎は続けた。
「Q-Phoneシステムが全員機種変更になるそうで。これ、琴平さんの分です」
差し出された新型端末は、光電融合素材の淡い青を帯びていた。
舞夢は受け取りながら、山崎の手元の動きが妙に静かで、洗練されていることに気づいた。
ただの事務員にしては、所作が整いすぎている。
だが、その違和感はすぐに消えた。
「私、遠方から来たばかりで……畿央のこと、全然知らなくて。よかったら、いろいろ教えてもらえませんか?」
舞夢は少し戸惑いながらも、頷いた。
「……分かる範囲なら」
それが、二人の会話の始まりだった。
数日後の夕方。
舞夢は休憩スペースで紙コップを両手で包み、伏せたQ-Phoneを見つめていた。
Q-Streamの通知は切っている。
それでも、胸の奥のざわつきは消えない。
そこへ、山崎が静かに近づいてきた。
真正面ではなく、少し斜めの位置に腰を下ろす。
舞夢にとって負担の少ない距離だった。
「……琴平さん、少し顔色が悪いです」
舞夢は小さく頷いた。
「……大丈夫。多分」
山崎は、舞夢の手元のQ-Phoneに視線を落とす。
「Q-Stream、見たんですね」
舞夢の指がわずかに震えた。
「……うん。見ない方がいいって……分かってるけど」
山崎は、舞夢の言葉を遮らず、ただ聞いた。
その〝聞き方〟は、舞夢がこれまで出会った誰とも違った。
「琴平さん。Q-Streamは、顔の見えない人が、誰に向けてでもなく書く場所です。あなたに向けて書いているわけじゃない。〝真実〟でもない」
舞夢はゆっくり顔を上げた。
「……でも、読んだら……胸が、ざわつく」
「それは普通の反応です。あなたが弱いんじゃなくて、あれが〝雑音〟なんです」
舞夢はその言葉を飲み込むように、深く息を吸った。
「……雑音、か」
「はい。あなたの感覚は繊細ですから、余計に刺さるんです。でも、それはあなたのせいじゃない」
舞夢は、紙コップを持つ手を少し緩めた。
「……今日は、コーヒー、苦くない」
山崎は小さく笑う。
「昨日は〝苦い〟って言ってましたよね。覚えてますよ」
舞夢は目を丸くした。
「……覚えてたんだ」
「ええ。琴平さん、味の変化に敏感ですから」
舞夢は、ほんの一瞬だけ笑った。
その笑みは小さく、静かで、でも確かだった。
山崎はその表情を見て、声をかけすぎないように距離を保った。
「また話したくなったら、いつでも来てください。聞くのは得意なので」
舞夢はゆっくり頷いた。
「……うん。山崎さんと話すと……少し、呼吸が楽になる」
山崎は静かに微笑んだ。
「それなら、ここにいていいですよ」
休憩スペースの空気は、さっきより柔らかかった。
それから、舞夢は自然と山崎に話しかけるようになった。
昼休みの短い会話。
帰り際の「お疲れさまです」。
庁舎前の桜の話。
畿央のおすすめの店の話。
舞夢が週末に行くライブハウスの話。
舞夢は、自分が口下手であることを忘れるほど、山崎と話す時間を楽しんでいた。
山崎は、舞夢の話を遮らず、急かさず、
舞夢が言葉を探す沈黙さえも自然に受け止めた。
舞夢は、そんな相手に出会ったことがなかった。
山崎と話すようになってから、半月ほどが経った。
舞夢は、自分の心が軽くなってきたことを実感していた。
胸のざわつきが少しずつ薄れ、プライベートでのマスコミの付きまといも減っていた。
「……周囲を〝観〟る余裕が、戻ってきた」
舞夢はそう感じた。
しかし、その余裕が戻ったからこそ、舞夢は〝異変〟に気づいてしまう。
最近、パトカーをよく見かける。
庁舎の周辺でも、帰宅途中でも。
時にはカーチェイスのサイレンが響くこともあった。
「……治安が、悪くなっている?」
舞夢は胸の奥に小さな不安を抱いた。
社会的ストレスが高まると、揺らぎの守り人の活動が増す。
舞夢はそれを知っていた。
だからこそ、この変化は気がかりだった。
都市の光の揺れ方が、どこか落ち着かない。
信号機のリズムが、微妙にずれている。
街の〝呼吸〟が乱れている。
舞夢は、胸の奥にざわつく感覚を覚えた。
「……何かが、起きている」
その予感は、静かに、しかし確実に舞夢の中で膨らんでいった。
ダイブで量子神経網の深層に沈んでいた舞夢は、突然、光の流れが途切れるような感覚に襲われた。
都市の〝呼吸〟が、急に止まったように感じた。
(……落ちた……?)
情報空間の奥で、何かが沈むように暗転する。
舞夢は急いで意識を引き戻した。
目を開けると、コンピュータルームの照明が不規則に明滅していた。
地球ホログラム等の主要なユニットは問題無く動作を継続していたが、バックアップ電源に切り替わらなかった端末はシャットダウンし、
一部のユニットは再起動を繰り返している。
「……これは、ただの停電じゃないな」
久遠課長が低く呟いた。
舞夢は椅子から立ち上がり、周囲の空気を感じ取る。
庁舎内の揺らぎが、ざわついている。
まるで、何かが〝侵入〟したような気配。
「琴平さん、大丈夫か?」
久遠課長が駆け寄ってくる。
舞夢は小さく頷いた。
「……はい。意識は戻りました」
「とにかく、一度外に出よう。安全確認が先だ」
二人はコンピュータルームを出て、薄暗い廊下へと足を踏み出した。
その瞬間だった。
「――止まれ」
低く濁った声。廊下の前後から、二人の男が現れた。一人は拳銃。一人はナイフ。
舞夢は、胸の奥が冷たくなるのを感じた。
(……これは脅しじゃない。殺す気だ……至近距離すぎる……)
男たちの〝殺意〟は、都市の揺らぎよりも濃く、重く、舞夢の感覚に直接刺さってきた。
久遠課長が舞夢の前に立ちふさがる。
「琴平さん、下がって!」
だが、逃げ場はない。廊下は細く、背後は施錠された部屋。
男たちはゆっくりと距離を詰めてくる。
拳銃の男が引き金に指をかけた。この距離だと確実に急所にあたる。
舞夢の心臓が跳ねる。
庁舎内の揺らぎが、耳鳴りのように響く。
(……来る……!)
その瞬間――
舞夢の胸の奥に経験したことが無い程強い〝波〟が走った。
(……えっ!精神感応?)
同時に廊下の照明が一斉に明滅した。
「……え?」
拳銃の男が一瞬だけ動きを止めた。
次の瞬間、廊下に設置された防犯用セキュリティユニットが青白い電撃を放つ。
パチッ!という空気を引き裂く音が響いた瞬間、拳銃の男はその場に崩れ落ちた。
久遠課長も舞夢も、何が起きたのか理解できなかった。
ナイフの男が動揺しながら叫ぶ。
「な、なんだよこれ……!」
その背後から、影が滑り込むように現れた。
「おい、こっちだ!」
鋭い動きと共に、鋭い女性の声が響く。
山崎だった。いつもの穏やかな笑顔ではない。
目は鋭く、冷静で、まるで別人のような気配をまとっている。
舞夢に向けられた男のナイフは声で山崎に向けられたが、男は動揺、体は硬直。
山崎は一瞬で間合いを詰めて男の腕を掴みナイフを固定して、一気に投げ飛ばした。
男の体は宙を舞ったかと思うや、直後は顔面から壁、床に叩きつけられ、意識を失った。
舞夢は呆然と立ち尽くした。
(……山崎さん……?今の動き……人間の反応速度じゃない……)
「14時37分、二人現行犯逮捕!」
山崎は素早く二人に手錠をかけ、久遠課長と舞夢の方へ向き直った。
「お二人とも、怪我はありませんか」
それは、もう聞きなれた山崎の声ではなかった。
駆けつけた警官たちが暴漢を運び出すと、山崎は舞夢と久遠課長を庁舎内の安全が確保された部屋へ誘導した。
部屋に入ると、山崎はドアを静かに閉め、深く息をついた。
「……まずは、落ち着いてください。ここは安全です」
舞夢は震える手を胸に当てた。
「……山崎さん……今の……」
山崎は一瞬だけ目を伏せ、そしてゆっくりと顔を上げた。
「琴平さん。ごめん……これが本当の私なんだ」
その声は、これまでで一番静かで、真剣だった。
「改めまして。私は警察庁特別保護課の浜崎渚です。琴平舞夢さん、あなたを保護しに来ました」
浜崎は二人に頭を下げて一礼する。舞夢は息を呑んだ。久遠課長も驚きに目を見開く。
浜崎は続けた。
「私が動いている事を知られれば任務に支障が出ます。なので、山崎の名前で身分を隠してあなたの傍に就かせていただきました」
浜崎は更に続けた。
「匿名通報がありました。〝琴平舞夢の身に危険が迫っている〟と」
「匿名……?」
「はい。通報ルートは追えませんでした。ただ、これはあくまで私の勘ですが……もしかするとあなたの言う〝揺らぎの守り人〟からかもしれません」
舞夢は息を呑んだ。
(……あの存在が……私を……?)
浜崎は舞夢の目をまっすぐ見つめた。
「琴平さん。あなたの周囲で起きていることは、偶然ではありません。あなたは〝見える〟人です。そして……狙われる理由もある」
舞夢は震える声で言った。
「……さっき感じました。浜崎さんの……精神感応力の波動を……」
浜崎は驚いたように目を見開き、そして静かに頷いた。
「……そうか……やはり、〝見える〟あなたには隠せない。私は琴平さんとは違うタイプの能力を使います。私の能力は発信型、〝電磁的な干渉〟に近いものです。それでセキュリティユニットを念じて遠隔操作しました」
舞夢は息を呑む。
浜崎は続けた。
「ただ……この力は、人に知られるわけにはいかない。悪用される恐れがあると見なされたら、その時社会は、私の存在そのものを許さないでしょう」
その言葉には、長い年月の重みがあった。
「琴平さん、あなたも同じです。世の中、自分の理解を超える能力を恐れる人は少なくない。たとえ〝観〟るタイプの能力でも使い方次第で脅威とみなされ危険を招く。それを忘れないでください」
その言葉に舞夢はハッとなった。
「……確かに」
(……山崎さん……ずっと私を)
浜崎は深く頭を下げた。
「琴平さん。仕事ですが、今まで騙してすまなかった」
舞夢は震える声で言った。
「いや、私のほうこそ、浜崎さんに救われてた……ずっと……」
浜崎は静かに微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、まだ終わりではありません」
浜崎は真剣な表情に戻る。
「当面、あなたの身の安全が確保できるまで私はあなたを警護します。これは命令でもあり、私自身の判断でもあります」
舞夢はゆっくりと頷いた。
胸の奥で、都市の揺らぎが静かに波打っていた。
それは恐怖ではなく、〝守られている〟という確かな感覚だった。
暴漢二名の逮捕から数日後、捜査は急速に進展した。
畿央都警と警察庁の合同捜査本部は、犯行に関わった組織の全容をほぼ掴み、
舞夢殺害の依頼者身柄も確保した。
ニュース速報が流れたのは、舞夢が昼休みに庁舎の食堂で
温かいスープを口にしていた時だった。
「揺らぎ関連の〝危険人物排除〟を目的とした組織を摘発」
「依頼者は〝舞夢の能力を恐れた〟と供述」
食堂のQ-Castに映るテロップを見て、
舞夢はスプーンを持つ手を止めた。
(……私の能力を……恐れた……。浜崎さんの言葉通りか……)
胸の奥に、冷たいものが落ちる。
だが同時に、どこか遠い世界の出来事のようにも感じた。
久遠課長が隣で小さく息をついた。
「……やっと、終わったな」
舞夢はゆっくり頷いた。
「……はい」
その日の夕方、ニュース番組は一斉に論調を変えた。
これまで舞夢を批判してきた専門家、コメンテーター、Q-Streamで影響力を持つインフルエンサーたちは、どこかバツの悪そうな表情を浮かべた。そして、
「確定情報が出るまで発言を控えるべきだった」
「過熱した議論が事件を招いた可能性がある」
という世間の論調の風が吹く中で、それ以降反論や弁解の一切も無くこの話題自体に近づこうとしなくなった。
舞夢はその様子を、静かに、どこか遠くから眺めていた。
(……みんな、急に静かになった。)
Q-Streamのタイムラインも、舞夢の名前を巡る極端な意見は影を潜め、代わりに「冷静になろう」という投稿が増えていた。
〝舞夢さんは悪くない〟
〝まずは安全と事実確認が大事〟
そんな言葉が並ぶ。
政治家たちも沈黙した。
舞夢を利用していた派閥は、事件に便乗すれば逆効果になると判断したのだろう。
声明はどれも「治安の確保」「捜査への協力」を強調するだけだった。
(……空気が、変わった。)
社会の分断は、ゆっくりと収束していった。
舞夢を中心に渦巻いていた議論は、まるで潮が引くように静まっていく。
浜崎渚――山崎としての彼女が庁舎に赴任してから、舞夢の周囲でのマスコミの付きまといはすでに大きく減っていた。
だが、今回の事件報道を境に、それはほぼ完全に消えた。
マンション前に張り付いていた記者もいない。
ライブハウスの前にいたカメラもいない。
舞夢は久しぶりに、〝普通に歩ける〟という感覚を取り戻していた。
(静かになった)
その静けさは、舞夢の胸にゆっくりと染み込んでいった。
そして、舞夢はバンド活動を再開した。
Arcadia of the stars のメンバーは舞夢の復帰を心から喜び、スタジオには久しぶりに音が満ちた。
水無瀬が言った。
「舞夢、声……戻ってきたね」
舞夢は小さく頷いた。
「あぁ。少し、楽になった。心配かけた」
黒瀬はギターを調整しながらぼそりと呟く。
「舞夢さんがいないと、曲が締まらねぇっす」
春日は笑って言った。
「まあ、琴ちゃんが戻ってきたなら、何でもできるよ」
大庭もにこやかに迎えた。
「コンピラちゃん、また一緒にやれるなぁ」
千堂はドラムスティックを回しながら、
「揺らぎで合わせるから大丈夫だ」
と、いつもの調子で言った。
舞夢は、胸の奥が温かくなるのを感じた。
(……戻ってきた。私の場所。)
事件から数週間後。
舞夢は庁舎の屋上にいた。夕陽が畿央都の街を赤く染め、ビルの影が長く伸びている。
都市の揺らぎは穏やかで、どこか深い呼吸をしているようだった。
そこへ、浜崎渚が静かに現れた。
「……ここにいたのか」
舞夢は振り返り、軽く会釈した。
「浜崎さん」
浜崎は舞夢の隣に立ち、夕陽に染まる街を見下ろした。
「どうだ。メディアで君を叩いていた、あいつらが憎いか?」
舞夢は少し考えた。
夕陽の光が頬を照らし、風が髪を揺らす。
そして、静かに答えた。
「……私にできることは、ない。私は……自分がやるべきことをやるだけだ」
浜崎は舞夢の横顔をじっと見つめた。
その視線に気づいた舞夢は、慌てて目をそらした。
浜崎は小さく笑った。
「そうか。そうだよな。許す必要もないが、追っかけても何も得られない」
舞夢は黙って頷いた。
浜崎は続けた。
「琴平さん、だいぶ戻ったんじゃないのか?」
舞夢は少しだけ微笑んだ。
「浜崎さんのお陰だ。 ……感謝する」
浜崎は舞夢の肩を軽くポンッと叩いた。
「なら、よかった」
そう言って立ち去ろうとしたが、数歩進んだところでふと立ち止まった。
「……あ、それからな」
浜崎は振り返り、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「そのうるさい奴ら、みんな静かになったろ」
舞夢は瞬きをした。
「……あぁ」
浜崎はニヤリと笑い、横を向いてシュッと素早く空手の裏拳のポーズをとった。
「全員、裏から一発くれてやった」
舞夢はぽかんとした表情になった。
「……えっ、何を?」
浜崎は肩をすくめた。
「そいつは内緒だ。いずれにせよ、もうアレは無い。……早く元気になれよ」
その言葉に、舞夢は思わず笑った。
ほんの少しだけ、胸の奥が軽くなるような笑みだった。
浜崎渚はそのまま背を向け、夕陽の中へと去って行った。
舞夢は、その後ろ姿をずっと〝観〟ていた。
都市の揺らぎは、その背中を包むように静かに波打っていた。
前章で社会の発するノイズの中心に置かれ、相当な精神的ダメージを受けた舞夢でしたが、この章では物理的なダメージも受ける直前にまでいたりましたが、銃弾も刃も舞夢には届きませんでした。突如として守護者となるものが現れたからです。その守護者を動かしたのは、舞夢と接触していた「揺らぎの守り人」である可能性が示されます。実態は明かされませんが、仮説として、揺らぎの守り人の警告を伝えることを託された舞夢に、実害が及び生命の危機に陥ることは避けたいという意思が作用したと考えたのだと思います。これはあくまでも仮説です。
守護者として登場した彼女はいろんな形で舞夢を守り、立ち直らせます。心のケア、危険や社会のノイズの排除。それが、彼女の仕事でした。そして、舞夢の回復を願って舞夢の前から去っていきます。その姿は人を殺さない「必殺仕事人」。舞夢と違った能力をもって任務を忠実に遂行させる仕事人です。舞夢はそのサポートを受けて社会のノイズを乗り越えて回復に向かい、物語は佳境に入っていきます。




