第3話:チョコミントと殺意の試行錯誤
風呂から出てチョコミントアイスを食べて一息入れる。安定の旨さだな。無心でむさぼり食った。
さぁ……探すか。
クソ、まったくどこにしまったんだよ。イライラしながら遺言書を探しはじめた。
めんどくせー……マジであいつ、どうやって葬ってやろう。
ふと、冬のベランダに視線をやる。……ああ、これだ。
◆◆◆
(妄想シミュレーション、テイク 2)
季節は真冬。深夜、あいつがニコチンを求めて薄着でベランダに出る。
スマホ? 持つわけがない。バカの脳内は常にシングルタスクだ。
奴がサッシを開けて外に出た瞬間、センサーが反応し、仕込んでおいたスクリプトがタイマーを起動させる。
30秒後、スマートロック、遠隔施錠。
真冬の深夜、気温は氷点下。薄着のクズが氷の彫刻に変わるまで、そう時間はかからないだろう。
ログ? 完璧に消去して「システムの一時的な不具合」に偽装する。
凍え死んだあいつの死体は、翌朝、美しい結晶に包まれている……はずだった。
「おやおや、お姉さん。お顔が『してやったり』と書いてありますねぇ」
気がつくと、あの無駄に顔の良い刑事が、私の脳内のベランダに立っていた。前髪をファサッとなびかせて。
「あなたのハッキングは芸術的でした。……ただ、デジタルを過信しすぎましたね。彼は閉め出されて3分後、寒さにキレて、そこにあったゴルフバッグから5番アイアンを引っ張り出しました。……ええ、窓ガラス、粉砕されましたよ。彼は今、段ボールとガムテープで塞いだ窓の横で、鼻水垂らしながら爆睡してます。残念でしたねぇ(ニヤリ)」
(あああああああ!!! 類人猿!!! バカの物理攻撃には、どんな鉄壁のセキュリティも無効だってか!? ハードウェアごと破壊されたらハッキングもあったもんじゃねーな!! クソが!! 脳みそが筋肉でできてる野生動物相手に、論理的な完全犯罪なんて土台無理な話だった!!)
「……チッ。アイアンでガラス割り。やりかねないのがあいつのクズなところだ」
空になったチョコミントのカップをゴミ箱に投げ捨て、私は再び引き出しを乱暴に開けた。
妄想の中ですら、あいつのバカさ加減に負けるとか、不愉快極まりない。
――イライラし過ぎて現実に引き戻される。
家中の戸棚や引き出しという引き出しを開けては中をかき回し、そのたんびに少し乱暴に閉める、を繰り返していた。
めんどくさ過ぎて諦めかけたが……いやいや、ここで諦めていられるか。と自分に言い聞かせる。何度も何度も。
愚弟とその嫁に、いいようにされてたまるか!という反骨精神だけが、今の私を奮い立たせ、突き動かしている。
まぁ、自分でもあきれるくらい「あれ」が邪魔で邪魔でどうしようもないのだから、しかたがない。
家族だからと言って、手放しでなんでも受け入れてやれるほど、私は人ができていない(笑)
弟、というだけで、なんでも許されると思うなよ。とにかく私の世界から排除してやらないと気が済まないのだ。
「はぁ……」
大きいため息をついて、お茶でも飲んで休憩するか。
ふと床に無造作に積み重ねられていた本に視線を落とす。生前、とても本が好きだったな。
そういえば……この部屋、こんなに本ばっかりだったっけ。
処分しなきゃいけない山の中から、何冊か両手で持ち上げようとした際、一番上の本が滑り落ちた。
あっ……。
あった。まさか、本の中に挟んであったのだ。
「おいおい……こんなところに置いておくなよ。まったく」
あきれ半分、怒り半分でその遺言書を拾い上げる。
明日は弁護士に電話だな。
……あー、もう一個アイス食べようかな。
電気を消し、私は部屋を後にした。




