ニューヨーク地下鉄8番出口ダンジョン(前編)
死体たくさん、たくさんですぅー。
組み合わせてさいきょうの死体をつくるんですぅー。
鑑賞用BGM(【スカイガーデン】):https://www.youtube.com/watch?v=S6Pg0j_k3_o
鑑賞用BGM(8番通りステーション・地上入り口から):https://www.youtube.com/watch?v=P8JEm4d6Wu4
~数時間後~
~マンハッタン~
~コンドミニアム・【スカイガーデン】~
「どや、出来たか?葵ちゃん(ニコニコ)」
「ま、まぁ一応……」
葵はレイカへリストの紙束を差し出す。
レイカはリストをパラパラとめくって行く。
「ほ~~ん……」
「じゃあ質問するわ」
「う、うん?」
「なんで物品の名前が全部英語で書いてあるんや?」
「しかも専門用語まであるで」
「あっ……」
レイカは葵の肩に手を回して言う。
「正直に言うてみぃ」
「誰かにやって貰って、お前は寝転がってたんやろ?ん?」
「た、多分、目を離したスキに妖精さんが……」
次の瞬間、葵の喉元に刀が付きつけられる。
「その妖精さん、誰や」
「あっ、えっ……」
葵の目線は、くつろぎながらクエイドに足を絡めていた女へ行く。
レイカは刀を仕舞い、エスティアの前に立つ。
『オマエの仕業か、ダメ学者』
『ワイは葵に仕事を任せたんや、手伝えとは言うてない』
『ふ、ふ、ふ……』
『葵は貴様の様なゼネラリストじゃない。スペシャリストだ』
『向いていない仕事をさせる方に問題がある』
『ワイに経営学の講義でも垂れる積りか、あ?』
『無学な貴様には丁度良いんじゃないか?ふ、ふ、ふ……!』
『ポーンにはポーンの、ナイトにはナイトの、キングにはキングの使い道がある』
『葵はチェス盤に収まらない、ゲームをひっくり返せるコマだ』
『事務作業や探索の段取りをさせる方が間違っている』
『チッ……!』
『最もらしい事言いよるわ……!』
ミレイアは二人の間に割って入る。
「と、取り敢えずケンカはダメです!」
「ね?葵さんも一応作ったには作ったんですし……」
「なら、最初からそれを見せぇや」
「それに、葵に最初からこの仕事が出来るとは思うとらん」
「努力の過程が見たかっただけや、過程が」
「(なら、それを最初に言えば良いのに……)」
レイカは葵が最初に作った、手書きのリストをふんだくり、奥の部屋へと引っ込んだ。
エスティアはため息を付いて、仕事をしていたエリシェバへ言う。
『面倒臭いにも程があるぞ、あの女』
『誰が仕事をしようが、結果として成功すれば良いだろうに』
『ケンザキは実力主義かつ気性の激しい経営者でもあるが、同時に愛や情も深い女だ』
『彼女は葵に結果を出させる事で、彼女の人格に対する不安を払拭しようとしたのだろう』
『その辺りの機微は、アメリカ人の貴女には難しいかもしれない』
『日本人、めんどくさすぎるな……人の人格なぞどうでも良いのに……』
『いや、あの女が特にめんどくさいだけか』
『で、クエイド。ケンザキが出して来た探索計画には問題ないか?』
クエイドはタブレットをエスティアへ渡す。
『……計画自体には問題無い』
『ただ、今回は【降下機甲猟兵】と戦う可能性も高い』
『ケンザキの計画は出来こそ良いが繊細で、連戦が続くと耐えられない可能性もある』
『しかし、早期攻略に的を絞ったのは賢明だ』
『早期攻略、ねぇ……』
『ダンジョンはハマったら、普通に1か月は出て来られなくなる……』
『何時でも直ぐ戻れる様な工夫が必要だな』
エスティアは、一息付いて寝転がり始めた葵をチラっと見る。
『……やはりアイツが早期攻略のカギだ』
『私の第六感がそう囁いてる』
『エリシェバ。お前は良い買い物をしたぞ』
『……学者らしからぬ見解だ』
『強いて根拠を言うと葵のアイテムさ』
『日本ダンジョン産のアイテムは特殊効果や、付帯効果に優れたユニークな物が多い』
『葵からもエゲつないアイテムの香りが漂って来ている』
『ラロシェルが日本を狙うワケさ』
『ラロシェル……』
『ヤツの狙いなんて、考えるだけ時間のムダ』
『宇宙を顕微鏡で覗くようなモノだ』
『ま、私は今が楽しければそれで良いがな!』
エスティアはガラ空きになったクエイドの懐へ笑顔で潜り込み、その豊満な肉体を押し付けた。
~翌朝~
~ニューヨーク市営地下鉄~
~8番通りステーション・地上入り口~
白衣を着た白髪の女が、顔色の悪い少女の手を引いて来る。
『またマヌケ共がエサに引っ掛かったわね』
『これで新鮮な死体がゲット出来るわ、トーデス』
『VXガス(※1)放出用意!!』
ガスを積んだタンクローリー数台がダンジョンの入り口を塞ぎ、黒い装甲服を着た隊員達がホースを階段の下へと降ろしていく。
『放出用意完了!』
『全員退避!』
黒いアーマーを着けた隊員達は階段を駆け上がり、ガスマスクを装着し始める。
『さぁ!黒いゴキブリ共を燻り出せ!!』
空気より重い無味無臭の殺戮ガスが、地下鉄の床を這って行く。
数分後、燻り出された探索者の黒人ギャング達が、入口の隙間から必死に這い出そうとし始めた。
『並べ!!』
【降下機甲猟兵】の隊員達が一斉に整列して出入口を囲み、赤黒いアサルトライフルを探索者達に向かって構えた。
『撃て!!』
金切り声の様な銃声と共に、黒人ギャング達の命が散って行く。
『止め!!』
隊員達は一斉に引き金から指を離し、直立する。
その時、死体の山から少年ギャングが飛び出し、隊員達の隙間を抜けて逃げようとする。
『オラァ!!逃げてんじゃねぇぞ!!』
少年は襟首を掴まれ、殴られて地面に叩き付けられ、乱暴に取り押さえられる。
顔色の悪い少女は、白衣の女にへねだる様に言う。
『人形、人形にするー!』
『あそび相手がほしい!ディルレヴァンガーせんせい!』
『良いわよ、トーデス』
『最近はお利口さんだったから』
『わぁーい!』
『死体たくさん、たくさんですぅー!』
『組み合わせてさいきょうの死体をつくるんですぅー!』
その光景をボロカーテンの隙間から見ていたミレイアは、血が出る程に拳を握り締める。
噛まれた唇からは血が染み出していた。
『ミレイア……!ここは堪えるんや……!!』
『今連中に見つかったら、計画がパーや……!!』
彼女の脳裏に、ファヴェーラでの子供達に対する凄惨な光景が蘇る。
『……ッ!』
『ごめんなさい!レイカさん!!』
『私は……私の心はこれを黙って見ていられないッ!!』
彼女はレイカの制止を振り切り、窓から飛び出る。
褐色の肢体は肉食獣の様に宙を躍動し、回転しながら隊員達へと襲い掛かった。
『……ったく!!青すぎるで!!』
『クエイド!!葵!!エスティア!!援護頼むわ!!』
『ワイと高っちゃんはミレイアのフォローに行く!!』
『──了解』
「ったく若いねぇ~~!」
「いいよぉ~!そういうの!」
『ふ、ふ!……やれやれだな!』
ミレイアは着地のついでに、隊員の一人へかかと落としを決めた。
そして銃を向けられると同時に逆立ちしながら、回転蹴りを放って銃を蹴り飛ばした。
『カポエイラ使い……』
『一体何処の回し者なのかしら』
『でもたった一人じゃねぇ……』
その時、狙撃による轟音がストリートに響き、タンクローリーが爆発する。
『『『──!!』』』
隊員達は一斉に地面へ伏せ、ミレイアは跳んで街灯に掴まった。
炎が収まり、死の煙の中から日本刀を携えた背の高い女と、パンイチの筋肉男が現れる。
「ミレイア……やり方がヘタ過ぎるで」
「こんなんじゃ幾つ命があっても足らんわ、まるで」
女はガスマスクを放り投げ、刀を抜き始めた。
「ご、ごめんなさい!つい……!」
「でもカッコ良かったで」
「ワイはそういうムチャやる奴が大好きなんや」
「そして……そういう人間の為にこそ、この刀を振るう価値がある」
「れ、レイカさん……!」
ディルレヴァンガーは笑いながら叫ぶ。
『くははは!!』
『カポエイラ使いの奴隷、そして灼けた女サムライ、そして筋肉達磨……』
『最高よ!!最高の素材がやって来たわ!!』
『アホか』
『素材になるのはオマエや』
『髑髏に金箔塗って、盃にしたろか』
『す、すごいあいであ……!』
レイカは跳び跳ねて喜ぶトーデスを見て、眉を顰める。
『……まだ小学生のガキやんけ』
『今からコロシを覚えさせとんのかいな』
『くふふ……』
『この娘の出番は死体を作った後よ』
『……尚更タチが悪いわ』
『オマエはここで死んどけや』
『そして、そのガキは知り合いに面倒看て貰う』
ディルレヴァンガーの唇が僅かに痙攣する。
『残念ながら、この娘は私の生徒よ』
『他の人間には決して渡せない』
『そしてこの娘もそれを望まないわ、ジャップ』
レイカは目を閉じ、少し息を吐く。
そして、彼女の火傷痕から火が噴き出し始めた。
『ならそのガキ共々首と腹掻っ捌いて、タイムズスクエアのど真ん中にクビ晒したる』
『それともハドソンの川辺が良いか?あ??オイ白ブタ共』
『あんまワイを舐めんなや、コラ』
『その気になったら、神でも仏でも斬ったるからな』
彼女の凄まじい剣幕と殺気に、味方も敵も僅かに震えた。
ミレイアは隙を見て気絶した少年を背負った。
「(どっ、どっちが悪者か分からない……!)」
「(そしてレイカさんなら本当にやる……!)」
レイカを遠目に見ていた葵は、少しだけショーツの中が暖かくなるのが分かった。
エスティアはパツパツの短パンを引っ張りながら言う。
『僅かにだが、既に【魔王】の風格がある……』
『あのナチス共では勝負にもならないだろうな……』
レイカは刀の切っ先をトーデスへ向ける。
『オイガキ』
『せめてもの慈悲や』
『火葬と晒し首、どっちが良いか選ばせたる』
『カソウ?サラシクビ?』
『知らんのなら、ラクに逝かせたる』
レイカの目が光った、その瞬間だった。
ディルレヴァンガーの白衣から毒煙が溢れ出し、周囲が紫色の煙に覆われ出す。
【降下機甲猟兵】の隊員達はガスに紛れながら、ダンジョンの中へ下がって行く。
「──ミレイア、高っちゃん」
「一旦クエイド達と合流や」
「それから敵を追ってダンジョンへ入る」
「は、はい!」
「オゥケイ!!」
レイカ達は迫るガスから身を躱し、裏路地へと入って行った。
~マンハッタン~
~セントラル・パーク・タワー~
~最上階~
『やっと最後の客人が来ましたか』
『《エリシェバ・カウフマン》』
『貴女の祖国の運命は貴女の反応次第で決まる……』
赤髪の青年は指で宙に長方形を描き、そこにレイカ達を映した映像が現れる。
彼は映像を眺めながら言う。
『ですが……【主賓】は彼女ではない……』
『レイカ・ケンザキ、私は貴女の苛烈極まる才能を欲しています』
『一歩踏み外せば、国をも焼き尽くしてしまいそうな危うさですが……』
『それこそ、文明の進歩には不可欠な要素の一つです』
彼は窓際に立ち寄り、ニューヨークの街を見下ろす。
『やはりこの街は良い……』
『人間の才が集まり、街ごと躍動している……』
『そして街に相応しくない者達は排除される、それも美点です』
『しかし、まずは美しき乱世のシンデレラ……その来訪に拍手を』
彼は下界に向かって、軽い拍手をした。
※1 https://health.hawaii.gov/docd/files/2016/12/VX_flier_Japanese.pdf
トーデスちゃんは見た目カワイイですが、思考はエグいの一言ですね。
モデルは無論あの医者です。
保護者役がディルレヴァンガー女史なので、歯止めは全く効いていない。
もう攻略とか利権確保より、最強の死体を作る事が目的になってる。
ただ、ゾンビなら聖少女()関連のアイテムや炎に浄化されておしまいだ。
そこまで考えが至らないのはアホかわいいね。
寧ろ、ディルレヴァンガーの方が厄介かもしれない。
知恵が回る上に、毒ガスを生成出来るのは、地下と言う空間ではかなりの脅威だ。
こんなん通勤ラッシュ時に攻撃を仕掛けられたら、途轍もない被害が出ます。
ただ、今はやらないだけです。その時になったら……
はい。
エリちの第一の目的は、戦争になる前にコイツ等をレイカ達に始末して貰う事です。
ただ、これでも相手を選んでくれていると思う。
相手を選ばないのなら、初手ヴェルミーナとかクラリスなんで……
幾ら名将レイやんとスーパー猟師クエイドでも彼女達は厳しい。
で、《パーティー》の本当の主催者ですが……
もうここまで来たら予想が付いて来たのではないでしょうか。
無論、主催者はレイカの活躍ぶりを知ってはいます。
エリちは《彼》が垂らした釣り針に食いついてしまったようですね。
エリちが《パーティー》で彼に屈せば、イスラエル国家自体が彼に敗北した事になる。
しかし、協力を拒否すれば、今度は国の存亡を脅かされる程の嫌がらせを受けるのは確定です。
それぐらい、《彼》の力は強力かつ広範囲に及んでいる。
権謀術数でラロシェルに勝てそうなのは、今の所ヴェルチカや例の超人ぐらいです。
エリちの真面目さは彼にとっては利用すべき弱点でしかない。
けど、こっちには乱世のシンデレラと最高のアメリカンスナイパーが居るんだぜ。
レイやんとクエイドを引き入れたのは、エリち一世一代のファインプレーです。
おまけに高っちゃんまで居る。鬼に虎柄パンツだぜ。
そして不確定要素として葵まで居る。
エリちを救ってくれるのは彼等だと思う。
ダメ学者とラロシェルは論戦するかもです。
互いにタイプの違う『知』を持っているので、面白い事になると思います。
ラロシェルはその辺りも楽しみにしているかもしれない。
……ここまで読んでくれて感謝する。
「面白かった」「上司モードのレイカ怖い」「エスティア有能だなぁ」
「エスティアの考えは一理ある」「レイやんめんどくせぇ~!」「葵はさぁ……」
「エリち、レイやんの事理解しすぎだろ」「サンキュークエイド」
「エスティアの視点や人生観が面白い」「同じ科学者でもここまで違うんだなぁ」
「いきなりトバして来やがるぜ、このネオナチ共」「トーデスちゃんかわいい」
「まるでゴブリン扱いだ」「ミレイアがマジでカッコいい」「レイやん直ぐにフォロー入るの好き」
「レイやんがカッコ良すぎて昇天しそう」「ダメだ、完全に魔王モード入った」
「オゥケイ!!」「一体何シェルなんだ……」「乱世のシンデレラ(酒豪)」
と、どれか1つでも思って頂けたら、ブクマ・評価・感想頂けると励みになります。




