アイアンマーチ(後編)
なら、貴方達の正気は一体何処の誰が保証しているのかしら
鑑賞用BGM:(帯広市境界線付近から):https://www.youtube.com/watch?v=WmBPTpvYyIY&list=RDYmohH6jfcio&index=4
鑑賞用BGM(【空中戦艦ツェッペリン】から):https://www.youtube.com/watch?v=7fFPv-vh2cE
鑑賞用BGM((ニューヨーク上空から):https://www.youtube.com/watch?v=LThvBSEOusI&list=OLAK5uy_l0wJooAsuk5O0F4ykDCqDx9qT8yJZhwlU&index=5
~帯広市境界線付近~
~ロシア軍陣地~
『ヒャハハハハハハ!!』
『ヒャーハッハッハー!!』
赤い悪魔が林と陣地の間を縦横無尽に動き回り、塹壕に飛び込んではロシア兵を蜂の巣にして行く。
『う、動きが早すぎて当たらない……!!』
『ぐあぁぁっ……!』
ヴェルミーナが敵陣を攪乱・殲滅している間に、ヴィットマン率いる機甲部隊と随伴歩兵が防衛線に襲い掛かり始めた。
『最高だ!!何処を見ても敵だぞ!!』
『電撃戦の醍醐味だな!!』
彼の頬を弾丸が掠めたが、彼は更なる突撃の指示を出す。
『進め!!進め!!』
『このままオビヒロの市街地まで雪崩込め!!』
『勝利の女神が赤い機関銃をチラつかせているぞ!!』
随分とおっかない女神が居たもんだ。
ヴィットマンはハッチを締め、通信機を付けながら操縦手へ向かって叫ぶ。
『操縦替われ!!』
『ヴェルチカ!!敵が混乱して壊走中だ!!』
『策源地は何処だ!!雪崩込んでやる!!』
《連中は市庁舎を要塞に改造しています。間違い無くそこです》
《しかし、【ティーゲル69】と機甲部隊の突破力と速度なら、難なく攻略出来る!》
《今がチャンスです!!ヴィットマン!!》
『良し!!ナビゲーションリンクを頼むぞ!!』
『【ティーゲル69】第三段階起動!!』
【《パンツァーフォー!!》】
黒い巨大戦車が変形し、倉庫をなぎ倒しながら上部が人型戦闘ロボットの形になって行く。
まあガ○タンクだな。
【進め!!進め!!】
【罠なんぞ食い破っちまえ!!】
【ヒャーーホーゥ!!】
黒いガン○ンクは木々を薙ぎ倒し、一斉にレーザー砲を放った。
~【空中戦艦ツェッペリン】司令室~
緑髪の女がモノクルの位置を直し、陰気に微笑む。
『フフフッ……!』
『ヴィットマンの突破を止められる装甲部隊など、この世には存在しませんよ!』
『ヴェルチカ様!敵から通信です!!』
ヴェルチカは笑うのを止め、車椅子を回転させる。
『ハニーポット(※1)を起動』
『間接回線で通信を』
『ハッ!』
モニタに灰色髪の男が出て来る。
しかし、その映像には靄が掛かりハッキリとは見えなかった。
『私は【チェルノボグ】』
『【魔女】に代わり今のロシア軍を統括している』
『帯広より北へと進軍すれば、市内に埋めている核地雷を起動させる積もりだ』
『意味は《黒い死神》ですか……随分と大仰なコードネームですね』
『で?』
『ロシアの死神がナチの悪魔へ何の用ですか?』
男は極めて平静に言葉を続ける。
『警告だ』
『ナチスの真似事をする幼児共への』
『真似事?』
『これは異な事を……』
『私達は既にそのステージには居ません』
『国家社会主義は90年以上の時を経て、真の指導者を得た』
『……』
『今や極右は世界中で連帯する時代……』
『そしてアーデルハイド様はその頂点に居る』
『これは90年前のかの偉人ですら成し遂げられなかった事です』
『国家社会主義を超える、【超国家社会主義】が正に実現しようとしています』
『ウルトラナチズム……』
『まさに感染症だ』
ヴェルチカはモノクルの位置を直し、侮蔑的な笑みをモニタへ向ける。
『どうぞお好きに呼んで下さい』
『核地雷を起動するのもお好きに』
『ただ、その程度で今の我々が止まると思っているのなら、計算違いですよ』
『我々はアーデルハイド様の為なら、核の炎の中だって進軍して見せますから』
男はため息を付く。
『……お前達は既に私が書いた脚本の中に居る』
『無駄な犠牲を増やすのは私の本意では無い……』
『私達は敢えて乗って行きますよ、その筋書きに』
『しかし、貴方は私達が脚本を無視し、願望を達成出来る力がある事を忘れている』
通路の奥から、裸足で歩く音が聞こえ始める。
『だから私達の勝利は決して揺るがない』
『そうよね?ヴェルチカ……』
『──アーデルハイド様!!』
司令室の隊員達はアーデルハイドの姿に気付くや、一斉に起立してローマ式敬礼(※2)をした。
我等が指導者様がスケスケワンピースでご登場だ。
『残念……【魔女】と逢えると思っていたのだけれど……』
『先に死神さんと遭ってしまったわぁ』
『(今日はまさかの白……!)』
『(イッツノーブルカラー……!)』
ヴェルチカはその優秀過ぎるお脳に、アーデルハイドの艶姿を焼きつけた。
死神さんはアーデルハイドへ言う。
『軍隊を帯広市内から撤退させろ』
『さもなくば、こちらもあらゆる対抗手段を取る用意がある』
『しないわぁ』
『私が【進め】と言った以上、部隊の進軍は止まらない』
『……狂気だ』
『このまま市内へ大攻勢を仕掛ける気か』
アーデルハイドはクスクスと笑い、いやらしい笑みを浮かべ始める。
『それを北海道で初めてやったのは、貴方達じゃなくて?』
『……(マルファ……)』
『でも有難い事に……』
『私達の狂気は貴方達が保証してくれてるわねぇ』
『……』
『なら、貴方達の正気は一体何処の誰が保証しているのかしら』
『どっちがおかしいか、なんて話は元から無意味』
『そもそもラーチンが誰かに操られている、との可能性を考えた事は無いの?』
『可能性は……』
アーデルハイドの碧眼が妖しく歪む。
『ダンジョンやアイテムのお陰で、最早何でもアリな世の中……』
『それが何故、自国のトップだけがその影響から逃れられている、と思うのかしらぁ?』
『そもそもマルファのオバサンじゃなくて、何故アナタが統括なのかしらねぇ……』
『……答える気は無い』
『ふぅ~~ん……』
『そっちも中々楽しい事になってるのねぇ……』
『ま、良いわぁ……』
そしてアーデルハイドはヴェルチカの後ろからもたれ掛かり、ゆっくりと手を這わして行く。
ヴェルチカは衆人環視の中で思わず達しそうになった。
これが【降下機甲猟兵大隊】の最高頭脳である。
『旭川を攻めると長くなりそうだしぃ……』
『帯広まででガマンしてあげるわぁ』
『今は、ねぇ』
『あっ、アーデルハイド様……!』
『そっ、そこはダメです……!』
『この機に連中を一気に殲滅……』
アーデルハイドはヴェルチカの耳を甘噛みして囁く。
『指導者判断❤️』
『ひゃぅんっ!❤️』
『しっ、し、しかし……!』
彼女の真っ白な手が、ヴェルチカの下乳を柔らかく揉み始める。
なんてセクハラ指導だ。
『おお……お”ぉ”っ”……!❤️』
ヴェルチカは指導を受け、汚い喘ぎ声しか出せなくなって行く。
アーデルハイドは深い笑みを浮かべ、モニタの黒い死神を見ながら耳元で囁き続ける。
『ヴェルチカ……アナタは意地でもロシア人を北海道から駆逐しろと言う……』
『でもその実、彼等の存在にどう困っているのかしら?』
『──!!!』
『第一、スラブ系のロシア人達は私達と同じ白人じゃなぁい……』
『白人同士で争って数を減らす、という事を一番避けるべきだと私は思い始めたわぁ』
『折角ロシア人達を追い出しても、北海道がカリフォルニアみたくなったら元も子も無い……』
『部隊には元ワグネル(※1)の傭兵も居るしぃ』
『だっ、だっ、だっから……』
『分割統治よ』
『しかし、それにはジャマな存在が居る……』
『……コルテス……!』
アーデルハイドがニッコリと微笑み、ヴェルチカの頬へキスをした。
『ピンポ~~ン』
『正解よぉ❤️』
『こ、コルテスを排除し、次に平良達を排除……』
『ど、同時にアメリカでの戦いに備えていく……』
『ブブー』
『備えるのではなく、直ぐに仕掛けるの』
『誰も予想しない展開を自分で作るからこそ、戦略の主導権を握れる……』
『……声が小さかったけど、聞いて貰えた?死神さん』
死神はため息交じりに言う。
『……何処までが本音だ、アーデルハイド』
アーデルハイドの顔から笑みが消え、碧眼へと影が墜ちていく。
『本音も何も……』
『私は私の【千年王国】を目指しているの』
『その為に利用出来るなら何でも利用するし、どんな障害でも打破するわぁ』
『ここまで聞いてなお、私の前に立ち塞がるのなら……』
『……!!』
大賢者モードになったヴェルチカが、モノクルを指で上げモニタへ目線を向ける。
『【ネオ・バルバロッサ作戦】ですね』
『既に釧路湿原と日高地方には別動隊が向かっています』
黒い死神の声圧が僅かに強くなる。
『……ダンジョンを引き渡せ、と?』
『(人類史上最も昏い時代が既に始まっている……我々だけでなく、誰にとっても……)』
『フフフフフ……引き渡す?』
『我々は常に【力】で以って奪い、これを我が物とするんですよ』
『欲しい物を手に入れる為ならば、絶滅戦争だって辞さない』
『それが教義!それこそがこの集団の深奥!』
『今の貴方に……最終戦争が起きても良い程の覚悟は無い!』
『……!』
彼女は陰険な笑顔を静かになったモニタへ向ける。
『早く決めた方が良いですよ』
『我等が指導者の気が変わらない内に……フフッ……!』
アーデルハイドは艦長席に座る。
そして、彼女は椅子に落ちていた黒い羽根を拾い上げ、指で捩じり回し始めた。
~13時間後~
~ニューヨーク上空~
「見ぃや!ミレイア!」
「アレがマンハッタンや!!」
「カネの匂いがプンプンとしまっせ~~!」
「わぁ~~……!」
レイカとミレイアは窓に張り付き、眼下に広がるメトロポリスを眺める。
「(これが……世界中のお金が集まる大都市……!!)」
エスティアは目を覚まし、音楽を聴いていたクエイドに向かって言う。
寝過ぎだろ。
『お目覚めのキス』
『……そんなオプションは無い』
『まずは顔を洗って来い』
『反応が塩すぎるぞ!クエイド!』
『あのヤケド女に何か吹き込まれたな!!』
『……世間話程度だ』
『なんだ今の間はァ!!』
『むきぃ~~!!』
クエイドは暴れるエスティアを抱き上げ、洗面台へと連行して行った。
~ジョン・F・ケネディ国際空港~
~プライベートジェット専用エリア~
「なぁ、エリち……」
レイカは双眼鏡を下げる。
「その呼び方は止めて欲しいが……何だレイカ」
「空港の外エラい事になってへんか?」
「ポリ公とデモ隊が揉み合っとるやんけ」
「ぅわ、あのオッサン血塗れやで」
「ああ、アレか……放っておけ」
「これがアメリカの通常運転だ」
「ヒェッ……」
エリシェバは眼鏡を掛け、レイカ達へ言う。
『ストリートの人間には決して身分証を見せるな』
『例え警官にでも……』
『最早、ニューヨークはユダヤ系が安心して過ごせる街ではない』
『なら、早う安全なエリアへ行った方がエエな』
『そこら辺のチンピラに戦って負ける気はせぇへんけど、そういう事をしに来たワケじゃあらへん』
『エリち、オマエが言う《パーティー》まではどの位時間がある?』
『丸二日だ』
『……ほうか』
『ならニューヨークで潜れそうなダンジョンはあるか?』
エリシェバはエスティアの方をチラ見してから言う。
『前は【エンパイアステートビルダンジョン】があったが……』
『私が焼き尽くした!』
エスティアは胸を張って言った。
すかさずレイカは尋ねる。
『一応聞くけど、理由は?』
『無性にムカついただけで、他には特にないぞ』
『しかし敢えて言うなら……』
『ダンジョンの調査中、行き遅れだとか体型がレディー・○ガだとか、探索者達が私の事をバカにして来たからだ』
『今思い出しても腹が立つ!』
『悪口が原因やんけ』
『もしかして……私の言動かなりマズいか?』
『てがガ○ってよりは渡○直美……』
エスティアはレイカに向かって中指を立てる。
『もう戦争一歩手前だからな!』
『一体どんなクソボケと過ごして居れば、そこまでデリカシーにニブくなるんだ!』
レイカはイチカがタバコを吸いながら、アイカの膝枕で寝ている画像を見せる。
『答えはコレや』
『マジでスゴイで』
『付き合って僅か3日で、社会に適合出来なくなりかけたからな』
『顔と見た目が良いだけの社会不適合者だな……』
『で、コイツは働いているのか?』
『いやプレッパーズとか自称しているけど、基本的には無職や』
『法人を作ろうと思ったら直ぐ作れるとは思う』
『今はどうしてるか、直で連絡取ってないから分からんけども……』
エスティアは腹を抱えて笑う。
『ふ、ふ、ふ、ふ……!』
『案外お前の世界は狭いな!ケンザキ!』
『アメリカにはこんなの、ウォルマートの商品棚に並ぶぐらい居るぞ!』
『アメリカヤバすぎるやろ……』
『そうだ、ヤバいんだ』
『だからここまでデカくなれたんだ』
『そしてそれがアメリカが覇権を取り続け、日本が落ちぶれた理由そのものさ』
『……!なるほどな……』
『腐っても学者や。本質を見る目はある』
『オマエからも学ぶ事が多そうやわ』
『なっ、なんだ急に……』
彼女はレイカの真剣な眼差しにたじろぐ。
『私は勉強が好きでな』
『動機は金儲けの為なんやけど、(裏)社会に育てて貰うた自覚もある』
『学んだ事を活かして、一丁世話になった連中へ還元したいと思うとるんや』
『そんな殊勝な人間だったか?お前……』
レイカは笑顔で100ドル札を取り出し、目の前で引っ張って笑顔で答える。
『そして連中が経済を回して、私は更に大儲けや!』
『【エグレゴール】買収したる!』
『ワハハハハハーーー!!』
『夢を語る自由があるのはアメリカの良い所だよな、クエイド』
『……ノーコメントだ』
一行は空港から出て、迎えの車に乗り込み始める。
エリシェバはレイカ達へ言う。
『コンドミニアムを借りておいた』
『滞在中はそこを拠点に動き回る事になる』
クエイドは周囲を見渡しながら言う。
『……セキュリティは?』
『武装した専門の警備員が、24時間体制で棟内を巡回している』
『回線は盗聴対策済みで、衛星通信も可能だ』
『周囲に高いビルは?』
『2棟あるが、我々の借りた部屋には面していない』
『それに階ごとモサドが借り切っている』
『……逃走はヘリ、と言ったのはやはりそういう事だったか』
レイカは首を傾げる。
『そういう事、とはどういう事や?』
『ビルが包囲されるような事態が起き得る』
『この国の現況を見る限り、人種間、階級間の対立は極限にまで高まっている』
『富豪が住む様な護られた場所も、最早安全ではない』
『まぁでも強ちウソとも思えんわ……』
『どいつもこいつも目の奥に怒りと不満を溜めておった』
『居る間はヤバい事が起きんよう願っとるわ』
ミレイアはデモ隊を見て、目尻を下げて俯く。
『(ここは……リオの街みたい……)』
『(でも【肉挽き器】が居ないだけマシかもしれない……)』
葵は暢気にコーヒーを飲みながら言う。
「重日忌み事を避けるべし」
「されど天地陰陽一体仕方無きや」
「心配してもしょうがないって!」
「私はオマエが一番心配なんやが……」
「まあ杞憂に終わればそれでエエわな」
「つーワケで葵ちゃん……」
「良いニュースと良いニュース、どっちから聞きたい??」
「ずっと言いたくてウズウズしてたんやけど……」
「いきなり忌み事がやって来た!」
葵は窓を開けて逃げようとするが、レイカに襟首を掴まれる。
そしてレイカはエリシェバから貰った紙を葵に広げて見せた。
「荷物置いて少し休んだらダンジョン潜るで」
「行く場所はこの二つから選ばせたる」
「【ニューヨーク地下鉄8番出口ダンジョン】……」
「そして【ブルックリン橋無限ロードダンジョン】や」
「名前からしてヤバそうなんだけどぉ!!」
「エリち」
「この二つのダンジョン、難易度はどれ位や」
エリシェバは髪を整えながら答える。
「それぞれ【B】と【A】だ」
「だが、前者では人間同士の殺し合いが頻繁に発生している」
「要は利権争いだ」
「ヤクザや半グレのシマ争いみたいなモンか」
「タダでさえ死に易い環境で、ご苦労なこっちゃ」
「……今は【降下機甲猟兵大隊】の《ドクター・ディルレヴァンガー》が一番優勢だ」
「地下鉄の中は、不法移民やヒスパニックギャング達の死体で溢れ返っている」
「正確には連中の無法が作り出した死体だが」
「なんつー世紀末や」
「死臭が酷そうやな……ガスマスクあるか?」
「そう言うと思って既に準備はしている」
「連中は毒ガスやゾンビを使うとの情報も入っている」
「ナチスとゾンビとか、C級映画みたいなハナシやな」
葵は話に怯え切り、何かに祈り始めた。
エリシェバは言葉を続ける。
「……連中の装備や練度、そして兵隊達の強さは明らかに一線を画している」
「IDFの分析によれば、連中はアメリカ軍の基地を使って訓練しているとの事だ」
「恐らく技術研究や兵器供給のバックアップも、軍の一部から受けている」
「……米軍にも連中が浸透しとるんか」
「正確には【悪魔姉妹】の姉の方が作ったツテによる物だ」
「奴は自分の元部下達や知己を通じて、アーデルハイドの教義を軍内へ浸透させている」
「一見粗野に見えるが、奴は恐ろしく頭が良い……」
「……ああ、あのヴェルミーナってギザ歯デカ女やな」
「アイツはケンカが強い上に頭も回るタイプや」
「そして躊躇も無い。今もきっと何処かで戦争しとるやろ」
『けど附に落ちん事がある』
エリシェバはスマホの通知を一瞥し、英語を話し始めたレイカの方を向く。
『現役のおっさん軍人達が、退役した小娘の言う事そんなにホイホイ聞くんかいな』
『どんだけ勲章貰うたか知らんけど……』
『20後半ぐらいから30くらいに見えたから、精々が大尉や少佐止まりやろ』
『エラい将軍のおっさんや、地位の高いエンジニア達が言う事聞く道理が無いわ』
『……ケンザキ』
『私もそこに大きな疑問を抱いた』
『だから私は【悪魔姉妹】の経歴から洗ってみた』
レイカのスマホへファイル添付メールが届く。
彼女はファイルを開いた。
『ん……』
『二人ともガキの頃からスポーツ大会は優勝しまくっとるな……』
『で、日常的にケンカ……そしてテストでは常にオールA+か……』
『従妹の方は演劇やダンスでも賞を取っとる……なんか歌手としても出とるし』
『これだけ見たら、超優秀な美少女達がイカレたナチに堕ちた様にしか見えんわ』
『だが、72ページの医療記録を見て欲しい』
『この記録は入手するのにかなり苦労した』
『どれどれ……』
『弾丸が頭蓋骨で弾かれた!?しかもこれ10年前やから……』
『【血魂】を飲む前で、身体強化されてない状態で、だ』
『使われた弾丸は5.45x39mm弾で、マズルエネルギーは494J、弾速880m/s、重さ3.4g 』
『通常の頭蓋骨強度は19kNだから、1920kNの衝撃には耐えられない筈だ』
『アダマンチウム(※3)でも入っとんのかいな』
『……で?妹の方は?』
『そっちは94ページにある』
『地上40mの高さから落とされても無傷だったそうだ』
レイカは頬杖を付きながら言う。
『遺伝子改造か……?』
『そうでも無いと辻褄合わなすぎて、頭がバグりそうやわ』
『ヒトゲノムの完全な解読が終わったのは2022年4月やろ』
『ただ、今見た医療記録が正しければ、30年前には既に解読は終わっていた事になる』
『……エリち。オマエならどうやって時計の針を進める?』
『人体実験だ……それしか考えられない……』
『軍と科学者達は何処からか被験者達を調達して来て、研究を重ね……』
『遂にこの姉妹を造り上げた、ってワケか』
『……判ってきたで、色々と……』
『ここからは想像や。良いか?想像や』
レイカの目に涙が少しずつ溜まって行く。
『当時若い将校や駆け出しの研究者だったお偉いさん達に取って、この二人は娘も同然なんや』
『それも負傷したり、病気になった兵士達の犠牲と献身によって出来た……』
『親父ってのはな、何だかんだで娘の頼みやワガママを聞いてしまうもんや……』
『手塩に掛けたのなら、尚更やて』
『ケンザキ……』
彼女の頬を透明な液体が伝う。
『そしてな、ヴェルミーナが一般除隊になったのは……』
『理解されない類いの親心か……』
『どういう切っ掛けがあったか判らないが、彼女を戦場から遠ざけた様にも見える』
『ケンザキ……お前にこの資料を見せて良かったよ』
『ありがとう(お陰で……後悔する事無く連中を始末出来る……)』
エリシェバは微笑みながらも、拳は握り締めていた。
話を聞いていたクエイドはエリシェバの方を一瞥し、目を閉じた。
~15分後~
~高級コンドミニアム・【スカイガーデン】~
ドアを開けるや否や、レイカは荷物を放り出しながら部屋の中へダッシュして行く。
「ミレイア!見てみぃ!」
「フッカフカやぞ!このソファー!!」
ソファーに飛び込んだレイカは、上機嫌でクッションに頬ずりした。
「レ、レイカさん……」
「皆が見てますって……!」
ミレイアはレイカに引き込まれ、柔らかいクッションと共に抱き締められる。
「わふっ!?」
「ミレイアクッション~~!」
「うりうり~~!」
「(す、凄い良い匂いがする……!)」
「(な、なんかお腹の下が……!)」
キュンキュンして来たか?
とんだスケベだね、君は。
二人を見ていたエスティアは鼻で笑いながら、ウォーターサーバーから水を取る。
『ふ、ふ……所詮は田舎者だな』
『安物のソファーで舞い上がるとは……』
お前、ついこの間まで車上生活だっただろ。
因みにこのソファーのブランドはイタリアの高級家具ブランド《リッツウェル》で、お値段150万円の品だ。
決して安物では無い。
『……』
クエイドは荷物を降ろすや否や、次々にブラインドを閉め始めた。
そして家具や机の裏を確認し始める。
『おーい!』
『折角の眺めが台無しやんけ!』
彼はレイカの言葉を無視してリモコンで外のシャッターを降ろし、マイナスドライバーでコンセントを外し始めた。
『どーにかならんのか、このアメリカンスナイパーは……』
『折角のスーパーリッチな気分が台無しやんか』
『……ケンザキ』
『お前は無警戒過ぎる』
エリシェバは彼に言う。
『……盗聴器の類いは無い』
『それに狙撃の対策は出来ている』
『……お前の言う事をそのまま受け入れろ、と……?』
『俺はそれで死んだ兵士を何人も見て来た』
エスティアが彼の腕に触れて言う。
『クエイド……』
『【イシュタルのネックレス】で《光走査》をしたが……』
『この部屋には全く問題ないし、ビルの周囲にステルス性の構造物も無い』
『エリシェバは正しい事を言っているぞ』
クエイドは頭を抱え、椅子に座り込む。
『……ここは歴とした戦場、戦場なんだ……』
『俺はあの戦場から決して脱け出る事は無い……』
『だから……ここも戦場なんだ』
『クエイド……』
レイカはリモコンを拾い、プール付きベランダのシャッターを開けていく。
そしてブラインドを開けながら、彼に向かって言う。
【絶対は……絶対にない】
『もう少し気ぃ抜いて生きろや』
『折角カッコ良い顔してんのに、辛気臭くしてたんじゃ勿体ないで』
『……!?』
『エリち』
『クエイドとそこのダメ学者、暫く借りるで』
『ケンザキ流人材再生工場の始まりや!』
『またダメって言ったな!』
『この~~っ!』
エリシェバは腕を組み、後方彼女面しながら頷く。
そして、レイカはベッドでくつろいでいた葵を引き摺り降ろす。
「ぉわっ!?」
「30秒で支度せぇ……」
「ダンジョン踏破の準備、オマエがやるんや」
「まずは必要物品リストを作れ」
「ワイが精査したる」
「え、Excel初心者なんですけど……」
「なら紙と鉛筆でやれや」
「ダメ出し5回超えたらベランダから放り投げる」
「とんでもないブラック上司と、同じ時代に生まれちまったもんだぜ」
レイカは葵の頬を摘まむ。
「ふぃっ!?」
「オマエはマトモに働いた事も無いやろうが!」
「おーーぅ!?パパ活は仕事ちゃうぞ!」
「ミレイア。とりあえずコイツの監視頼むわ」
「ワイは隣の部屋で調べ物をしてるから」
「は、はい!(やっぱりレイカさん、カッコ良い……!)」
レイカはPCを持って立ち上がり、菓子を摘まんで隣の部屋に入っていく。
葵は腰を抜かしたようにソファーへ座り込む。
「さてさて、鬼が居なくなったし美味しい物でも……」
隣の部屋のドアがいきなり開き、葵の全身に電流が走る。
レイカはソファーで硬直している葵へ言う。
「ああ、言い忘れてたわ」
「もしサボって何処かに消えたら、即・斬や」
「理解ってるな?」
「はぃ……!」
「わかってます!骨の髄までお言葉が染みてますとも!」
「調子エエなホンマ……ったく」
レイカはリボンを解きながら、部屋へと戻って行った。
※1
サイバー攻撃者を誘い込むために、わざと脆弱性を持たせて公開した偽のシステムやサーバー。
ネットワークがうっかり繋がってしまっていると、自分のパソコンがウィルスだらけになるぞ☆
専用のルーターを噛ませよう!
※2
一般には古代ローマが起源とされる敬礼で、手のひらを下に向け、腕と指を完全に伸ばして前方を向くジェスチャー。実際にはローマ人がやっていたワケではなく、演劇での創作とも言われる。
要はアレだ、ハイルアーデルハイド!って感じ。
シャレにならんわまるで。
※3
キャプテン・アメリカの盾や、ウルヴァリンの骨格に使われている架空の金属。
俺ちゃんの刀にも使われているぜ!
優秀な参謀ってのはつくづく得難い人種だなぁ、と思う。
リーダーとの相性によって、本来の能力を発揮出来るかどうかも変わる。
ヴェルチカに一番近いのは郭嘉だと思っています。
ただ、性格は陳宮か賈詡寄りだけども……
今回は、郭嘉が呂布と張遼と高順を縦横無尽に駆使している感じですね。反則だって。
彼女の根本には学問がある。
かつて超一流レベルの軍事学を叩き込まれ、最新の情報や動向を取り入れて更にレベルアップしている。
抜きん出た人は学問や教育があって、更にアップデートして独自の武器を磨いている。
同時に性癖もアップデートしているようだが……
彼女がロシア嫌いなのは、ポーランド系というのもあります。
で、一番学問があるのはラロシェルなんだ。
色々とおかしいが、コイツは仕方が無い。
最初は孔明みたいだと思ったけど、闇側だからジャイアントロボ版の孔明だわ。
あと負け方がクソ上手い。
彼の蒙った損害は、その莫大な資産に比べたら微々たるモノです。
戦場に平服で現れるとか、もう仕草が孔明なんよ。
でもその姿は名士の中の名士だとは思う。
ラロシェルの真価は最新技術やダンジョン由来の技術を使って、人材の価値を最大化出来る所にある。
そういう所も孔明に似てるなぁ。
多分その思考が極限まで行くから、人体実験の形まで取るんだと思う。
最たる例はレナです。実はかなり人材としての価値を上げて貰ってる。
ただ、その対価がとんでもなく高いだけです。
四十万との戦いがキッカケで、よりヤバい技術を開発すると思います。
おまけに孔明と違って資金にも食糧にも人材にも困っていない。
アーデルハイドは早くラロシェルを始末しないと、技術力と人材の波で完全に抑え込まれてしまう未来が待っている。
ヴェルミーナが史上最高のワンマンアーミーで、100万の兵に当たるとしても。
司馬懿?
首が180度回転するのが必須条件なので、あの妖怪しか居ません。
魏の人間から見た孔明って、ラロシェルみたいなヤツだと思ってる。
イチカは関羽と劉備を足して2で割った感じですね。
そして能力の高さが故にクソプライドが高くて、扱いにくい人……だった。
でも少しずつ劉備的な魅力も出て来てる気がする。
常に千里行している。死んだら神になるんだろうか。
アイカは趙雲と張飛を足して1.5で割った感じ。
こっちはこっちで得難いけど、制御も難しい。
肉屋(意味深)
レイカは呂蒙と周瑜と魯粛を足して、甘寧で混ぜた感じ。
彼等の要素を少しずつ持ってる。もう信長じゃん。
勉強家なのは呂蒙、半グレと人斬り要素は甘寧かなぁ。
最近は魯粛みたいな豪放さが出てきたけど、スーツ着ると周瑜になるの反則だろ。
陸遜要素はゼロ。
レイやんは魔王の烈しさを併せ持っている。
普段はニコニコ&飄々としているけど、キレると一番ヤバい。
てか感情の振れ幅が極端に大きい。
レイやんが信長コースに行かない事を祈ってるよ。割りと素質あるからな。
事実、ミレイアは弥助ポジになりつつあるし……
『首(KUBI)』に出て来る信長みたいになる可能性、あります。
加瀬亮は狂人の役が似合いすぎてる。
経済に強くて、腕が立ち、記憶力が良くて頭が切れ、新しい物好きで、外国の事物や言語に理解が深く、破天荒な行動を取る……
そして側に美しい小姓を置きたがる。
白も黒も黄色も問わないのが、またスゲェ。
イチカに対して一番捻れた感情を抱いているのは、この人かもしれない。
四十万と同じく、彼女を自分の右腕にしたいんだと思う。レイカは。
惚れた腫れたの機微が難しすぎるぜ、このアラサー共は。
因みに、石頭なジュビアさんとの相性は両者とも最悪だ。
ただ、イチカとは良いと思う。
アーデルハイドは最早董卓と曹操を足し、二で割ったような風格を醸し出しつつある。
元ネタがアレなのもあるし、もうメフィストフェレスですよ。
幾ら相性が良いとは言え、ヴェルチカを完全にコントロールしてるのは素直に凄い。
数年前までボロアパートで底辺生活を送っていた女と、同一人物とは思えなくなって来た……
最初は薄幸美人だったのに、パーフェクトソルジャーとの出会いが全てを変えてしまった。
しっかし、私の【千年王国】と来たか……
多分、トランクおじさんが死ぬのを待ってます。
彼女はおじさんの事を本心では嫌ってますね。
寧ろ、好きな人や物の方が少ないんじゃなかろうか。
イチカやハルカの事は割と好いてますが……
エリちの本当の目的と正体は、まだご想像にお任せします。
レイカ達にはしっかり対価を支払っておいて、先に恩を売りつけている形ですね。
この人、実はかなり正義感が強い。そう言う人が『殺す』と思っている時は本当に恐ろしい。
エスティアとクエイドは感づいていますが、彼女に対しては何も言う気がありません。
アーデルハイド達を嫌いな人達は本当に嫌いだからね。
登場人物表更新しました。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/18yCj9B-CZEpJGIDICTLBSG4K3ASfzvPI7MeKN9sNjkY/edit?usp=sharing
次回、遂に地下鉄ダンジョンへ潜ります。
そして、ナチの中でも最悪の部類な女達が出てきます。
こんな連中を許容するアーデルハイドと、ある種潔癖なミーナは何処かで別れる気がして来た。
そんぐらい酷いのが出て来る。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
フフッ……!
「面白かった」「笑ってんじゃねぇよ」
「やはり強いなぁ、アーデルハイドの部下達」「機関銃をチラつかせる女神でダメだった」
「ガンタンク好き」「昔の恋人の為に責任を負う男……」「一々えっちだな、アーデルハイド閣下は」
「ハイルアーデルハイド!」「やめろって!」「今回のアーデルハイドは大悪魔の風格がある」
「汚い喘ぎ声を上げる最高頭脳」「指導者判断❤️」「やっぱりトランクおじさん嫌いだったか」
「アーデルハイドの視座は他より二段階上な気がする」「ミレイアかわいい」「むきぃ~~!!」
「エリち呼び定着したな」「ヒェッ……」「とんでもねぇ事やってんな、このダメ学者」「渡○直美でダメだった」
「やっぱりイチカはヒモが似合いすぎる」「レイやんの金儲けモード好き」
「ダンジョンの名前がもう……」「ゾンビ!?」「美少女でも12年経つとヒャッハーとビッチに……」
「レイカのこういう共感性が高い所好き」「エリち……」「ミレイアはムッツリだなぁ」
「クエイドの本音がやっと聞けた」「葵が生粋のクズで草」「名将レイやんの働きに期待」
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